戦略的工場経営ブログ現場の基礎的なスキルや知識は低下していないか?

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1.基礎的なスキルや知識の低下

モノづくりに関する技術者の基礎的なスキルや知識の低下は危機的なレベルになっている。このように考える技術者が多いようです。日経BPの「日経ものづくり」で実施したアンケートで明らかになりました。

「かなり危機的な状況だと思う」が51.6%、「やや危機的な状況だと思う」が33.5%。両者を合わせると85.1%です(回答数382)。貴社はどうでしょうか?

・ブラックボックス化
・思考機会の減少
・実体体験の減少
・教育機会の減少
こうしたことが原因で基礎力が低下しているようです(出典:日経ものづくり2021月4月号)。

2.考えるためには知識が必要

考えるためには知識が必要です。知識がなければ、経験のみで語ることになります。汎用性の低い、偏った考え方になることがしばしばです。

これが属人的なやり方につながります。貴社の現場に知恵が蓄積されません。経験は知識と組み合わさることではじめて普遍的な現場の知恵になります。

3現主義は現場のいろはです。現場、現物、現実が全てですが、「経験」を語れと言っているわけではありません。具体→抽象→具体という思考プロセスを経て、知恵を生み、蓄積せよと言っているのです。

具体→抽象→具体のプロセスのうち、最初の「具体」だけでは、普遍的になりません。「見たままを語る=その人の経験だけで語る」になります。普遍的な知恵への変換には知識が必要なのです。

基礎的なスキルは継続して磨く必要があります。技術は進化しているからです。例えば、儲かる工場経営を語るのに欠かせない基礎的なスキルが生産管理3本柱です。貴社の現場はこれらの基礎知識を使いこなしていますか?学ぶ機会を与えていますか?

3.工程管理は納期遵守の知識体系

工程管理は生産管理3本柱のひとつです。工程管理で納期を守ります。工程管理は納期遵守の知識体系です。そして、人時生産性向上の知識体系として生かす必要もあります。お客様からの受注がドンドン舞い込む時代ではなくなったからです。

削減から積み上げの時代へ。工程管理の考え方を生かし、貴社独自の人時生産性向上の知識体系を構築します。人時生産性を高める観点でも貴社の工程管理をチェックしてください。

4.工程管理の体系

工程管理は2つから構成されています。生産計画と工程統合です。
生産計画・・・日程計画、手順計画、工数計画
生産統制・・・現品管理、進捗管理、余力管理

管理の前提条件は計画です。実績を計画とくらべます。計画VS実績が管理の本質です。くらべて差異を認識するところに工程管理の本質があります。

計画や方針がなければ儲かる工場経営ができません。これは日々の生産活動でも同じです。生産計画と生産統制で儲かるものづくりをやります。
・生産計画と生産統制で計画と実績を比べる。

4.工程管理の役割

納期遵守だけでは儲からなくなりました。多品種少量であっても、今や競合も納期遵守を普通にやっています。厳しい競争に勝ち抜くには、継続的な人時生産性向上活動も必要です。付加価値額を戦略的に積み上げる視点を現場も持たなければなりません。

具体的にはリードタイム短縮です。「受注決定から納入まで」と「生産着手から生産完了まで」のリードタイムを詰めていきます。

外に対しては競合を圧倒するQCDを提供し。内に対しては「詰めて空けて取り込む」方針を設定する。これが工程管理の役割です。

工程管理の役割が拡大しました。納期遵守は当然です。さらには、付加価値額を戦略的に積み上げます。工程管理は製販一体で頑張る理論的背景です。
・製販一体で納期遵守と人時生産性向上を実現させる

5.日程計画

日程計画は3つあるとされています。大、中、小。それぞれ目的があります。大日程計画は利益計画、中日程計画はあい路解消計画、小日程計画は特急・突発対応計画です。詰めて空けて取り込み、付加価値額を戦略的に積み上げ、利益を確保する生産活動を時間軸上に表します。

基準日程が必要です。基準日程は工程毎の標準時間と停滞時間の総和で表現できます。つまり現場には2つの時間しかないということです。標準時間と停滞時間。価値時間とロス時間です。ロスを除去して、付加価値額を積み上げます。詰めて空けて取り込むとはこのことです。
・価値時間とロス時間を見極める

6.手順計画

手順書で現場作業の仕組みづくりをします。利益を生み出す現場の手順書です。現場で直面する事態への対応方針や具体項目が書かれています。具体的には工程表と工程図が製造現場の手順書です。

判断基準が明文化、数値化されています。目的は価値観の共有です。経営者の意図した判断基準で考えるように現場を導きます。

これがないとどうなるか?一人ひとりが勝手な自分の判断基準で考え始めます。そうした現場で見られる言動が「できない」「やれない」です。作業者自身が判断基準となってしまいます。これでは儲かりません。負けます。

工程設計とロット設計が手順計画の要点です。工程設計のキーワードは「統合と分割」「作業設定」、ロット設計のキーワードは「加工ロット」「運搬ロット」です。特にロット設計はリードタイム短縮の理論的裏付けとなります。経験的にやっていることを体系的に知ることも必要です。
・儲かる工程設計とロット設計で儲かる仕組みをつくる

7.工数計画

「能力VS負荷計画」が工数計画です。能力と負荷の定義が要点となります。能力は現場の主役で決まります。「設備でつくっているのか」、「人でつくっているのか」です。一方、負荷は製品数量に焦点を当てます。そうやって評価された能力と負荷計画を比べるのです。

能力>負荷計画を維持します。したがって、能力を引き上げ、負荷を下げるのが人時生産性向上の方針です。だからこそ、継続的な生産性向上活動が欠かせません。

能力と負荷を比べるので、基準となる能力を知らなければなりません。結局、ウチはどこまでやれるのだ?これを把握できていない現場が少なくないようです。

最大限度どこまでやり切れるのか?工程間連携、製版一体の取り組みはこの問いかけから始まります。納期遵守で満足している現場では問いかけ自体がありません。
・製版一体で最大限どこまでやり切れるのかを見極める

8.現品管理

現品票と置き方による仕掛品管理です。貴社の現場では、仕掛品の把握に多くの時間を費やしていませんか?その結果「探す」ことが工程管理担当者の仕事になっています。

現場が担当者と一緒に仕掛品管理をやるのが正しい姿勢です。現品管理はそのための具体手法を教えてくれます。担当者に仕事をつけてはだめです。担当者が疲弊します。非常時で迅速に動けません。

現品管理の仕組みでスマートに仕掛品を管理します。目で見る管理、押出型と引張型、先入れ先出しなどが置き方で管理する具体項目です。仕掛品や在庫品はその存在自体が”悪“ということではありません。「放置された、無管理の」仕掛品や在庫品が”悪“なのです。
・現場が担当者とスマートに仕掛品管理をやる

9.進捗管理

遅れと異常を共有し、戦略的コミュニケーションで遅れを挽回する体系です。過程的進捗把握と数量的進捗把握、2通りの進捗把握のやり方があります。ガントチャート、流動数曲線や数値式進捗表が遅れと異常を共有する道具です。

遅れと異常を共有したら、どうやって挽回するか、具体項目を決めて実践しなければなりません。そこで、毎月1回の生産会議と日々チェックのトライアングルでコミュニケーションの場を戦略的に設定するのです。

コミュニケーションは意図的に、意識的にやらないと生まれません。自然発生的ではないのです。経営者がそうしないかぎり、良好なコミュニケーションの場はできません。一体感を生み出すのも経営者の意図次第ということです。

多品種少量の現場で遅れを取り戻す仕事は一筋縄ではいきません。製販一体が必要です。チーム力が問われます。進捗管理の体系はベクトルを揃える具体項目です。
・ベクトルを揃え、製販一体で遅れを挽回する。

10.余力管理

工数計画は能力VS負荷計画であるのに対して、余力管理は能力VS負荷実績です。余力とは能力と差と定義されています。多品種少量生産では特急・突発対応が普通です。したがって、一定の余力を現場に持たせなければ、特急・突発へ十分な対応ができません。柔軟性を高めるためです。

稼働率100%を前提にした利益計画では柔軟性を確保できません。80%程度で収益を確保できる事業モデルでないと多品種小現場は息切れします。

負荷実績の精度は現場の時間感覚で決まります。現場の時間感覚はどの水準ですか?1日、半日、1時間、30分、1分。これはリードタイム短縮の時間単位に反映されます。細かい時間感覚ほど「ちりも積もれば山となる」というわけです。詰めて、空けて、取り込む時間をそうして生み出します。
・時間感覚を細かくして負荷実績を評価する。

11.経営者が社長業に専念する環境の整備

工程管理の知識体系を儲かる工場経営の観点で確認しました。納期遵守のためだけではなく、儲けるためにやるのだと考えたその瞬間に知識体系の使い方も変わるということです。経営者の意図が反映されます。

生産管理の他の2本柱も同様です。原価管理と品質管理の知識体系を儲けるためにどう使いますか?弊社ではこう考えています。原価管理は「固定費VS付加価値額」、品質管理は「危機管理体制」。これでの6,000円、7,000円台の人時生産性を達成するのです。

自ら考えられない現場で人時生産向上は困難です。チーム力が問われるからです。多品種少量では、もはや属人的な仕事のやり方が通用しなくなりました。チームで考えます。

考えるには基礎的なスキルや知識が必要です。そこには経営者の意図を反映した判断基準も含まれています。価値観を共有した議論のためにも基礎的なスキルや知識を習得する場が大切です。経営者が社長業に専念する環境整備にもつながります。

経営者が楽になるためにも必要です。

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