戦略的工場経営ブログ価格は下げるものだと思い込んでいないか?

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1.価格は下げるものだと思い込んでいないか?

現場改革→意識改革→構造改革。儲かる体質に変える手順です。経営者は構造改革でさらなる付加価値額を積み上げたいと考えます。一方、時代の流れは少子化・人口減少、働き方改革です。現場へ投入できる工数に制限があります。したがって人時生産性を高めたいのです。

黙っていても、受注が舞い込むことは少なくなりました。中小製造業界は削減の時代から積み上げの時代へ変わっています。分母を削減することばかり考えても生き残れません。分子を積み上げて人時生産性を高めます。従来の下請けモデルではもはや儲からないのです。

分子を積み上げる貴社独自の新たな儲かる下請けモデルを構築します。価格アップ、高価格化が具体項目です。価格は下げるものだと思い込んでいませんか?これでは儲かりません。

2.選ばれると価格設定の決定権を手にする

下請け型モデルでの価格は、競合他社との比較で決められます。お客様に提供する製品・サービスが競合他社よりも優れていると高価格設定が可能です。逆に競合他社と同質で代替可能だと判断されると価格競争になります。「アイミツ」の嵐です。低成長時代の昨今、中小製造企業は競合他社と同質の戦いをしてはダメです。

結果を出しているご支援先は同質の争いをしていません。評価され、選ばれると価格設定の決定権を手にできます。生殺与奪の件を他人に握られない事業モデルです。

3.価値に見合った高価格を提示する

競合と同質だと価格の決定権はなくなります。お客様の判断基準が価格に絞られるからです。中小現場の管理者時代、最も苦労したのはココです。「価格競争」は中小製造企業の戦略ではありません。価格は需要と供給で決まるとされていますが、低成長時代の昨今、下請け型モデルにおける価格は、お客様に選ばれるか否かでも決まります。選ばれれば価格決定権を握れます。

「競争優位性」。儲かる工場経営のキラーワードです。貴社のコア技術に寄ります。貴社のコア技術は何ですか?競争優位性があってお客様から選ばれるなら、価値に見合った高価格を提示できます。

4.中小製造企業の価格設定

中小企業白書2020年版では、「適正な価格設定」について分析しています。自社の主な製品・サービスの優位性について「大きく優位」又は「やや優位」と回答した企業(優位性のある企業)が調査の対象です。

「自社は優位性のある企業だ」と考える企業へ、その優位性が価格に十分に反映されているかを尋ねています。

貴社では優位性が価格に十分に反映されていますか?                     

十分に反映されている:49.7%

十分に反映されていない:50.3%

n=2,199

(出典:中小企業白書2020版)

優位性が反映されている企業と反映されていない企業が半々です。優位性があるのに、なぜ価格に反映できていないのか?業種によってそのあたりの事情はまちまちであると推察されます。宿泊業、飲食サービス業と製造業、運輸業、郵便業の3業種に特定すると下記です。

●宿泊業、飲食サービス業(n=54)において優位性が価格に十分に反映されていますか?

十分に反映されている:70.4%

十分に反映されていない:29.6%

●製造業(n=1,137)において優位性が価格に十分に反映されていますか?

十分に反映されている:50.0%

十分に反映されていない:50.0%

●運輸業、郵便業(n=100)において優位性が価格に十分に反映されていますか?

十分に反映されている:36.0%

十分に反映されていない:64.0%

(出典:中小企業白書2020版)

宿泊業、飲食サービス業の7割は価格に反映できています。一方、運輸業、郵便業は3割強しか反映できていません。優位性があると考えていても、それを価格に反映できるかどうかは業種による差があるようです。

宿泊業、飲食サービス業は反映させやすい。

運輸業、郵便業は反映させにくい。

なんとなく腹落ちする結果です。業種による同質化傾向の違いと考えられます。結果として競合と同質の競争に至ってしまう業種もあるということです。その意味で、製造業は半々であるのは興味深い結果になっています。両者の傾向を持っていると言えそうです。事業モデル次第です。

しかし、どんな業種であれ、「十分に反映されている」と考える企業が一定数あるわけで、やっているところはやっているという事実も数値に現れています。優位性を磨き上げ、市場価格の壁を破るのは経営者の仕事であり、意気込み次第です。

黙っていても受注が舞い込む時代は過ぎました。量をさばけば儲かる時代ではないので、そもそも、まず、儲けるにはどうしたらいいのか?を考える必要があります。「お客様を選ぶ」ことは具体項目のひとつです。

消費者の価値観が多様化する中、「安ければよい」という価値観は減退しているという指摘があります。(株)野村総合研究所「生活者1万人アンケート調査」で、「安さ重視」か?「高くてもよい」か?を消費者へ尋ねました。

2000年と2018年でのデータです。各年の消費スタイルは下記となりました。

●2000年の消費スタイル調査結果                                          

「安さ重視」:50%

「高くてもよい」:50%

●2018年の消費スタイル調査結果

「安さ重視」:34%

「高くてもよい」:66%

(出典:中小企業白書2020版)

価値を重視する消費者が増えている事実があります。うれしい変化です。そうであるなら、価値重視の消費者をターゲットにする企業も増えるからです。

「価値重視の消費者をターゲットにする企業」は協力会社に価格一辺倒の対応はしません。質も問うてきます。手にしたいのは、少々高くても、他では手にできない「ならでは」の質だからです。そもそも、そうした最終消費者を標的にしているのですから。

「中小製造企業のお客様を選ぶ論点」                                    

・価格より質を重視する(親)企業

・質より価格を重視する(親)企業

貴社のお客様はどちらですか?お客様を開拓するときの論点に加えます。中小製造現場としては、効率良く付加価値額を積み上げるお客様とのお付き合いもしたいのです。お客様を選びます。

優位性があると考えるB to C企業の標的顧客は下記の3つに分類できます。

・価格より質を重視する消費者を顧客とするB to C企業

・質と価格のバランスを重視する消費者を顧客とするB to C企

・質より価格を重視する消費者を顧客とするB to C企業

それぞれの企業群で下記の2つを尋ねました。

・優位性の価格反映状況

・労働生産性の変化

優位性の価格反映状況

●「価格より質重視」の消費者を顧客とするB to C企業において優位性は反映されていますか?(n=38)

十分に反映されている:65.8%

十分に反映されていない:34.2%

●「質と価格のバランスを重視」の消費者を顧客とするB to C企業において優位性は反映されていますか?(n=195)

十分に反映されている:56.4%

十分に反映されていない:43.6%

●「質より価格重視」の消費者を顧客とするB to C企業において優位性は反映されていますか?(n=21)

十分に反映されている:28.6%

十分に反映されていない:71.4%

予想どおりの結果です。儲かるか儲からないかは標的顧客次第。量をこなして利益を出す時代ではありません。少数精鋭の中小製造企業ではターゲットとすべきお客様の設定も儲かる工場経営の論点となります。

労働生産性の変化
2018年時点と2013年時点の労働生産性の差で変化を評価しています。2018年の労働生産性ー2013年の労働生産性=Δ労働生産性変化

●「価格より質重視」の消費者を顧客とするB to C企業の生産性UP(n=38)

Δ労働生産性変化 1,016千円/人

●「質と価格のバランスを重視」の消費者を顧客とするB to C企業の生産性UP(n=195)

Δ労働生産性変化 960千円/人

●「質より価格重視」の消費者を顧客とするB to C企業の生産性UP(n=21)

Δ労働生産性変化 284千円/人

(出典:中小企業白書2020版)

事業モデルの違いにより、生産性増分で4倍近くの差が認められます。営業戦略は明らかです。利益アップ、給料アップを願う経営者の戦略が「価格競争の回避」であることは論を俟ちません。価格アップ、高価格化戦略は経営者次第です。流されれば、従来どおりの価格競争になります。弊社のご支援でロードマップを重視する所以です。

規模の経済で戦う大手なら、同質化を前提とした「価格競争」も戦略のひとつになり得ます。2番手以下の競合を圧倒的に打ち負かすことが目的です。中小が真似る戦略ではありません。

価格は下げるものだと思い込んでいませんか?値上げと値下げの実施の有無を調査した結果があります。2013年以降の値上げ・値下げの実施有無を尋ねました。

「2013年以降に値上げ・値下げをしましたか?」

値上げも値下げもしたことがある企業 n=1,318

値上げをしたことはあるが値下げはない企業 n=1,280

値上げをしたことはないが値下げはある企業 n=281

値上げも値下げもしたことがない n=776

(出典:中小企業白書2020版)

必要な値上げに挑戦している企業は少なくないようです。貴社はどうですか?さらに、気になるのは、値上げをした後、値下げをした後、売上にどう影響するか?です。

値上げをしたら販売数量が減る。

値下げをしたら販売数量が増える。

普通はこう考えます。実際はどうなっているでしょう。値上げ後1年間の販売数量の変化と値下げ後1年間の販売数量の変化を尋ねています。

●値上げ後1年間の販売数量はどう変化しましたか?(n=2,757)

販売数量が増加した企業:15.0%

販売数量が不変だった企業:65.5%

販売数量が減少した企業:19.5%

●値上げ後1年間の販売数量はどう変化しましたか?(n=1,599)

販売数量が増加した企業:25.5%

販売数量が不変だった企業:64.0%

販売数量が減少した企業:10.4%

値上げしようが値下げをしようが、販売数量が不変だった企業が65%を占めています。値上げしても販売数量が変わらなかった企業が大多数なのです。お客様に選ばれていればそうなります。

売上高=価格×販売数量

経営者はこの式を睨みながら値上げ、値下げを決断します。付加価値額を積み上げるにはこの式しかありません。貴社の「優位性」を易く見積もりすぎてはダメです。

お客様に悪意はありませんが、値上げの相談を持ちかけられないかぎり、「値上げをしませんか?」とは言ってくれません。

貴社のお客様が「価値重視の消費者をターゲットにする企業」であるなら、貴社には「優位性」があります。貴社のお客様は質と手にしたいと考えているからです。貴社ならではの質を磨き上けば価格の決定権を手にできます。これが「生殺与奪の権を他人に握られない」です。経営者は自ら手綱を引くビジネスができます。

5.価格競争を回避することに成功した企業

中小企業白書2020版には価格競争を回避することに成功した事例が掲載されています。

事例企業1

冷間ロール成形機を主力製品として金属加工ラインや金型の設計、製造、販売を手がける
従業員74名の企業が、長年の原価管理の蓄積により、特注品でも製品ごとに適正な価格設定をできるようにした。

事例企業2

スクリーン印刷技術を活用して、紙以外の素材へ特殊印刷を施す事業を展開する従業員34名の企業が、生産品目別コストを従業員と共有し、利益率が確保できる新製品の開発に成功した。

事例企業3

パナソニック株式会社製品の販売店として地域に営業基盤を築く、電化製品の販売・修理を展開している従業員40名の企業が顧客の絞り込みと社員への利益目標の共有により、価格競争から脱し、利益率の改善を実現した。

事例企業4

人を喜ばせる事を仕事の根本に起き、旅館・ホテルの運営を核に、食、ウェルネス、文化にも業務範囲を拡大している従業員70名の企業が自社の利益確保と宿泊客の満足の両立を目指し、付加価値向上を価格へ反映させた。

事例企業5

お茶を製造・販売する従業員13名の企業が専門家や消費者の意見を取り入れながら販売戦略を転換し、質にこだわる消費者をターゲットに高付加価値化製品の販売に成功した。

全て、価格アップ・高価格化の成果です。コスト削減ではありません。付加価値額を積み上げる新たな事業モデルを構築しています。経営戦略、事業戦略が大事です。

事例をそのまま真似ても上手くいきません。事例から読み取るのは、その企業の意図です。経営者の目論見です。これを参考にします。

そもそも製造現場は千差万別です。同じところはひとつとしてありません。上手くいった事例だからと言って、そのままやっても成果がでないのは当然のことです。独自の意図や目論見が抜けています。「猿まね」ではダメだと言うことです。

6.人時生産性向上のシンプルな具体項目

付加価値額を積み上げる2つの具体業務                           

・お客様が評価する価値を提供すること

・価値に見合った価格を設定すること。

論点はシンプルです。これが人時生産性向上の王道となります。コア技術が価値創出の源泉です。価格にこだわりのない経営はあり得ません。私たちはモノづくりで稼いでいます。お客様に選ばれないと行き着くところは価格競争です。

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