戦略的工場経営ブログ経営者の戦略実行を支える右腕役がいるか?
製造業では経営者のトップダウンによる指示導線が機能しなければ儲かりません。昨今のモノづくりは高度化、複雑化しています。全社一丸、ベクトルが揃っていないとPDCAを上手くまわせないのです。
横串、縦串のためのトップダウンです。経営者から管理する人、指示する人、作業する人へと指示を浸透させる仕組みで製販一体を実現させます。
どんなに優秀な経営者であっても一人で実務を進めることは難しく、経営者を支える体制が不可欠です。貴社には経営者を支える人材がいますか?
中小企業白書2023年版では成長に向けた経営者の戦略実行を支える内部資源・体制についての解説があります。持続的な成長には、経営戦略と人材戦略の連動が不可欠です。企業の成長には人材の確保・育成に関する戦略が重要であると指摘をしています
●●戦略実行に向けた人材戦略の策定
1)直近10年間における人材戦略の策定状況
下記は直近10年間における人材戦略の策定状況を見たものです。ここで言う人材戦略とは「人材を重要な経営資源として捉え、採用・配置、教育、評価及び報酬などの人事施策を構築・運用するための戦略」を指しています。
・直近10 年間における人材戦略の策定状況(n=2,842)
直近10 年間に人材戦略を策定した 58.8%
直近10 年間に人材戦略を策定しなかった 41.2%
人材戦略を「策定した」企業が約6割となっています。半分以上の経営者は、人材を重要な経営資源として捉えているのです。採用・配置、教育、評価及び報酬などの人事施策を計画的に構築・運用しています。
2)人材戦略の策定状況別に見た従業員数増加率の水準(中央値)
下記は人材戦略の策定状況別に、従業員数増加率の水準(中央値)を見たものです。従業員数増加率は2016年と2021年の5年間で⽐較をしたものです。
・人材戦略の策定状況別に見た従業員数増加率の水準(中央値)
人材戦略を策定した企業の従業員数増加率(n=1,671) 15.0%
人材戦略を策定しなかった企業の従業員数増加率(n=1,171) 9.0%
これを見ると人材戦略を「策定した」企業は、「策定しなかった」企業と比較して、従業員数増加率の水準が高くなっています。人材を確保したかったら、経営者の明確な意志と意図が必要です。
我が社の想いに共感をしてくれる人材を獲りにいきます。外へ向かって情報を発信し、志ある人材を「捕捉」する姿勢も必要です。黙って来るのを待っているだけでは、意欲的な人材は他に取られてしまいます。
3)経営戦略と人材戦略の紐づけ状況
下記は、経営戦略と人材戦略の紐づけ状況を見たものです。
・経営戦略と人材戦略の紐づけ状況(n=1,596)
経営戦略と⼈材戦略の紐づけをおおいに考えた 41.1%
経営戦略と⼈材戦略の紐づけをある程度考えた 51.2%
経営戦略と⼈材戦略の紐づけをあまり考えなかったorほとんど考えなかった 7.7%
経営戦略と人材戦略の紐づけを「大いに考えた」、「ある程度考えた」と回答した企業が9割以上です。人材戦略を策定している成長企業の多くが、経営戦略と人材戦略を一体的に構想しています。
経営戦略は事業づくりと人づくりの2本柱であることが多いです。経営戦略を策定すれば結果として人材戦略に言及することになるとも考えられます。
4)経営戦略と人材戦略の紐づけ状況別に見た、売上高増加率の水準(中央値)
下記は経営戦略と人材戦略の紐づけ状況別に売上高増加率の水準(中央値)を見たものです。売上⾼増加率は、2016年と2021年で⽐較をしたものです。
・経営戦略と人材戦略の紐づけ状況別に見た、売上高増加率の水準(中央値)
経営戦略と人材戦略を紐づけた企業の売上高増加率(n=1,473) 36.0%
経営戦略と人材戦略を紐づけなかった企業の売上高増加率(n=123) 26.5%
経営戦略と人材戦略を「紐づけた」企業は、「紐づけなかった」企業と比較して、売上高増加率の水準が高くなっています。
経営戦略と人材戦略を一体的に構想すると戦略の実行に必要な人材の確保が進み、結果として業績の向上にもつながっていると白書は指摘しています。
●●経営者の戦略実行を支える人材
中小企業において戦略構想・実行の核を担っているのは経営者です。ただ、経営者一人で全てを実践することはできません。指示導線を機能させます。したがって、その指示導線を機能させる経営者の補佐役の存在が大切です。
経営者の「右腕」となる人材がいる企業は、いない企業よりも売上高や経常利益に貢献し、事業拡大も強く、競争力にも自信を持っているとの指摘があります。右腕人材が企業の成長に向けて重要な役割を果たしていると考えられるのです。
ここでは、社内において経営者に続くナンバー2の立場にあり、会社経営を行う上での悩み事が相談できる等、経営者が厚い信頼を寄せる人材を右腕人材と定義します。貴社には右腕人材がいますか?
5)直近10 年間における右腕人材の有無
下記は直近10年間における右腕人材の有無を見たものです。
・直近10 年間における右腕人材の有無(n=2,815)
直近10年間に右腕人材はいた 65.6%
直近10年間に右腕人材はいなかった 34.4%
6割以上の企業が「いた」と回答していています。逆に言うと、4割程度の経営者には右腕役がいないということです。右腕役が不在であることのデメリットは大きいのではないでしょうか?
6)右腕人材の経歴
下記は、右腕役の経歴です。
・右腕人材の経歴(n=1,813)
内部で育成した右腕⼈材 73.7%
外部から確保した右腕⼈材 26.3%
「内部で育成した右腕人材」が約7割、「外部から確保した右腕人材」が約3割です。右腕役人材は内部で育成するのが最良と考えられますが、そうできなかった状況に直面している経営者もいるかもしれません。外部人材の活用も選択肢にあります。
7)右腕人材の有無別に見た、売上高増加率の水準(中央値)
下記は右腕人材の有無別に、売上高増加率の水準(中央値)を見たものです。売上⾼増加率は2016年と2021年の5年間で⽐較をしたものです。
・右腕人材の有無別に見た、売上高増加率の水準(中央値)
右腕人材がいた企業の売上高増加率(n=1,846) 35.0%
右腕人材がいなかった企業の売上高増加率(n=969) 32.0%
これを見ると、右腕人材が「いた」と回答した企業は、「いなかった」と回答した企業に比べて、売上高増加率の水準が高くなっています。
率にしてわずかな差ですが、差を認識できるということは、右腕人材が成長のために重要な役割を果たしていると考えられます。
8)経歴別に見た、右腕人材の知識・スキル
白書では、右腕人材の知識・スキルや選定時に重要視した要素、育成時の工夫・取組などについて確認しています。下記は右腕人材の経歴別に、右腕人材の知識・スキルを見たものです。
・経歴別に見た、右腕人材が有している知識やスキル(複数回答)
回答数(n)は内部で育成した右腕⼈材n=1,336、外部から確保した右腕⼈材n=477。
「内部で育成した右腕人材」
営業 64.2%
経営企画 33.5%
製品・商品・サービスの企画・開発 24.9%
人事 21.9%
総務 19.5%
経理・財務 18.3%
マーケティング 15.8%
IT・デジタル 13.0%
資金調達 6.7%
広報 7.1%
「外部から確保した右腕⼈材」
営業 56.8%
経営企画 43.6%
経理・財務 28.5%
総務 26.6%
人事 25.2%
製品・商品・サービスの企画・開発 20.1%
マーケティング 19.1%
資金調達 17.2%
IT・デジタル 11.9%
広報 10.9%
「内部で育成した右腕人材」でも、「外部から確保した右腕人材」でも、トップは「営業」に関する知識・スキルです。経営者の仕事は市場と向き合うことであり、外でお客様とご縁を結ぶことが最重要業務です。
どんなに立派な工場を持っていても、受注が無ければ売り上げが立ちません。販売活動の最前線に立つのが経営者です。
したがって、経営者は、右腕役にその重要業務を補佐してもらいたいと考えます。右腕役が有するスキルや知識が「営業」になるのは自然なことかもしれません。
9)経歴別に見た、右腕人材を選定した際に重要視した要素
下記は右腕人材の経歴別に、右腕人材の選定時に重要視した要素です。
・経歴別に見た、右腕人材を選定した際に重要視した要素(複数回答)
回答数(n)は内部で育成した右腕⼈材n=1,297、外部から確保した右腕⼈材n=460。
「内部で育成した右腕人材」
業務経験の豊富さ 65.1%
経営者、社員のそれぞれと円滑にやりとりするコミュニケーション能⼒ 64.5%
保有する知識・スキルの希少性 52.6%
⾃社の経営の⽅向性や価値観の熟知度の⾼さ 51.5%
経営者への直⾔・諫⾔も辞さない気質 41.2%
物事や事業を理論的に把握・説明できる能⼒ 36.7%
社外のネットワークの豊富さ 32.4%
周囲を巻き込みながら物事を成し遂げる能⼒ 32.2%
利害の異なる関係者の意⾒を調整する能⼒ 24.4%
新しいアイデアを⽣み出す能⼒ 20.9%
「外部から確保した右腕⼈材」
業務経験の豊富さ 67.0%
経営者、社員のそれぞれと円滑にやりとりするコミュニケーション能⼒ 64.1%
保有する知識・スキルの希少性 61.3%
⾃社の経営の⽅向性や価値観の熟知度の⾼さ 51.5%
物事や事業を理論的に把握・説明できる能⼒ 45.4%
経営者への直⾔・諫⾔も辞さない気質 44.6%
社外のネットワークの豊富さ 41.7%
周囲を巻き込みながら物事を成し遂げる能 34.6%
利害の異なる関係者の意⾒を調整する能⼒ 30.4%
新しいアイデアを⽣み出す能⼒ 22.2%
経歴にかかわらず、「業務経験の豊富さ」を挙げている割合が最も高く、次いで「経営者、社員のそれぞれと円滑にやりとりするコミュニケーション能力」となっています。
成長企業の経営者は、豊富な経験を基にしたサポートや経営者と社員の距離を縮め、そして埋める役割を右腕人材に期待していると推察できます。
10)右腕人材を育成した際の工夫・取組
下記は右腕人材を育成した際の工夫・取組を確認したものです。
・右腕人材を育成した際の工夫・取組(複数回答)
意識的な権限移譲 50.6%
経営陣との接点の増加 49.0%
外部との連携・交流・相互出向の機会の提供 41.3%
研修・セミナーへの派遣 35.2%
顧客の要望・考えを直接理解する機会の設定 30.9%
1on1ミーティングの積極的な実施 20.9%
定型業務以外の機会の提供 18.7%
抜擢人事の実施 14.6%
異能・異質な人物との接所機会の提供 10.2%
「意識的な権限委譲」が最も多く、次いで「経営陣との接点の増加」となっています。
経営者の仕事は従業員のそれとは全く違います。経営者の視線は常に外を向いています。そのことを教えなければなりません。候補となる人材が経営者目線を持つよう促すのが大切です。
経営者の仕事は時間を味方につけることが多いです。いわゆる緊急度は低いけれども会社の将来を決定づける重要度が高い課題はそうした対応になります。
「人材に関する課題」はその代表です。一朝一夕で経営者の思い描いた状況にはなりません。構想を練り、時間軸を設定し、手順を踏んで進めます。
相手が「人」だけにままならないことが多いのです。試行錯誤、すったもんだ、トライアンドエラー、行ったり来たり・・・。それだけに戦略が大切になります。
外部の力を活かすのも選択肢のひとつです。外部委の力は、我が社が知らないことを知っています。