戦略的工場経営ブログ価格転嫁を実践している経営者の姿勢は?
1.価格転嫁
中小企業白書2023年版では、今のような先を見通すことが困難な時代において、価格転嫁・取引適正化やデジタル化といった社会的基盤が重要であると指摘しています。個々の中小企業・小規模事業者の生産性向上等の前提だからです。社会的基盤が整っていなければ、人時生産性は高まりにくくなります。
中小企業白書2023年版では、中小企業における、価格転嫁・取引適正化やデジタル化の状況を解説しています。ここでは中小企業・小規模事業者における企業間取引と価格転嫁の状況を取り上げました。以下、出典は中小企業白書2023年版です。
2.受注量の状況
下記は、最も多く取引している販売先との取引において、中小企業・小規模事業者における2022年の受注量について見たものです。
●中小企業・小規模事業者(製造業)の受注量状況(対2019 年比、2021 年比)
・受注量2022年(2019年対比 (n=6,156)
最も多く取引している販売先からの受注量は、次のように表現している。増加した、変化なし、減少した(20%以下)、減少した(20%以上)下記にはそれぞれの企業の割合を示している。
増した 31.0%
変化なし 25.1%
20%以下減少 24.2%
20%以上減少 19.7%
・受注量2022年(2021年対比) (n=6,214)
最も多く取引している販売先からの受注量は、次のように表現している。増加した、変化なし、減少した(20%以下)、減少した(20%以上)下記にはそれぞれの企業の割合を示している。
増加 30.1%
変化なし 30.1%
20%以下減少 26.3%
20%以上減少 10.2%
資料(株)東京商⼯リサーチ「令和4年度取引条件改善状況調査」
(注)1.受注側事業者向けアンケートを集計したもの。2.最も多く取引している販売先との取引について、2022年の受注量を尋ねたもの。
これを見ると、コロナ禍の影響で20%以上減少した企業が一定水準あり一方、3割弱程度の企業では、2019年、2021 年と比べて、受注量が増加しています。コロナ禍の影響の有無にかかわらず成長している企業があるようです。
3.受注単価の状況
下記は、最も多く取引している販売先との取引において、中小企業・小規模事業者における2022年の受注単価について見たものです。
●中小企業・小規模事業者(製造業)の受注単価状況(対2019 年比、2021 年比)
・受注単価2022年(対2019年対比) (n=6,025)
最も多く取引している販売先からの受注単価は、次のように表現している。増加した、変化なし、減少した(20%以下)、減少した(20%以上)下記にはそれぞれの企業の割合を示している。
増加 36.6%
変化なし 49.2%
20%以下減少 8.8%
20%以上減少 5.4%
・受注単価2022年(対2021年対比) (n=6,039)
最も多く取引している販売先からの受注単価は、次のように表現している。増加した、変化なし、減少した(20%以下)、減少した(20%以上)下記にはそれぞれの企業の割合を示している。
増加 35.8%
変化なし 51.7%
20%以下減少 8.6%
20%以上減少 3.9%
(株)東京商⼯リサーチ「令和4年度取引条件改善状況調査」
(注)1.受注側事業者向けアンケートを集計したもの。2.最も多く取引している販売先との取引について、2022年の受注単価を尋ねたもの。
受注単価はコロナ禍があっても、一定程度増加している様子が見て取れます。外部環境に関わらず、お客様に選ばれる商品、製品、サービスを提供できている企業は儲かる値決めができているようです。
4.コストの変動状況
下記は、中小企業・小規模事業者において、2019年及び2021 年と比べた原材料・仕入コスト、人件費、エネルギーコストの状況について見たものです。
●原材料・仕入コストの状況(対2019 年比、2021 年比)(製造業)
・2022年原材料・仕入コスト(対2019年対比)
(n=6,152)
低下 2.5%
不変 14.9%
上昇 82.6%
・2022年原材料・仕入コスト(対2022年⽐)
(n=6,207)
低下 2.3%
不変 10.5%
上昇 87.2%
株)東京商⼯リサーチ「令和4年度取引条件改善状況調査」
(注)受注側事業者向けアンケートを集計したもの。
●人件費の状況(対2019 年比、2021 年比)(製造業)
・2022年人件費(対2019年対比)
製造業(n=6,156)
低下 7.4%
不変 27.2%
上昇 65.4%
・2022年人件費(対2021年対比)
製造業(n=6,206)
低下 5.4%
不変 27.6%
上昇 67.0%
(株)東京商⼯リサーチ「令和4年度取引条件改善状況調査」
(注)受注側事業者向けアンケートを集計したもの。
●エネルギーコスト(電気料金、燃料費等)の状況(2019 年比、2021 年比)(製造業)
・2022年エネルギーコスト(電気料金、燃料費等)(対2019年対比)
製造業(n=6,158)
低下 2.0%
不変 15.1%
上昇 82.9%
・2022年エネルギーコスト(電気料金、燃料費等)(対2021年対比)
製造業(n=6,208)
低下 1.4%
不変 10.4%
上昇 88.2%
(株)東京商⼯リサーチ「令和4年度取引条件改善状況調査」
(注)受注側事業者向けアンケートを集計したもの。
「原材料・仕入コスト」、「エネルギーコスト」が対2021年比、対2019 年比のいずれについても8割以上の企業が「上昇」と回答しています。昨今の物価高の影響を受けて、原材料・仕入コストやエネルギーコストの上昇がより強く実感されているようです。
5.コストの変動に対する価格転嫁の状況
下記は、直近1年の各コストの変動に対する価格転嫁の状況について見たものです。回答でしめされている、反映度合いは下記のとおりです。
おおむね反映された 81〜100%
⼀部反映された 41〜80%
あまり反映されなかった 1〜40%
反映されなかった 0%
●直近1 年の各コストの変動に対する価格転嫁の状況(製造業)
・「原材料の変動」(n=6,108)
おおむね反映された 27.9%
一部反映された 41.1%
あまり反映されなかった 20.6%
反映されなかった 10.3%
「労務費の変動」(n=6,118)
おおむね反映された 12.8%
一部反映された 28.7%
あまり反映されなかった 36.9%
反映されなかった 21.6%
「エネルギー価格の変動」(n=6,099)
おおむね反映された 12.0%
一部反映された 27.9%
あまり反映されなかった 38.8%
反映されなかった 21.3%
(株)東京商⼯リサーチ「令和4年度取引条件改善状況調査」
(注)1.受注側事業者向けアンケートを集計したもの。2.労務費については、最低賃⾦の引上げ、⼈⼿不⾜への対処等、外的要因による労務費の上昇を含む。
これを見ると、原材料価格の変動が反映されたとする回答割合が、労務費、エネルギー価格よりも高いことがわかります。一方で労務費、エネルギー価格の変動については、比較的反映されていない状況にあるようです。労務費については十分な価格転嫁ができていないので、賃上げの原資となる価格転嫁は今後の重要な課題となります。
さらに、下記は、コスト変動を価格転嫁できた理由について見たものです。
●原材料価格が価格転嫁につながった理由(n=9,512)複数回答
原材料価格の変動に応じて交渉が可能なため 53.7%
販売先が原材料・部品価格の市況に理解があるため 44.4%
値上げの根拠に見積を販売先に提示しているため 36.6%
販売先と定期的に原材料価格を見直す機会があるため 9.9%
受注量の減少に応じて、単価の変更が可能なため 7.6%
原材料価格を時価や市況で自動的に上下させることができるため 4.4%
その他2.1%
業界団体等の仲介組織があるため1.2%
●労務費が価格転嫁につながった理由(n=7,178)複数回答
販売先と十分な協議を行っているため 47.0%
最低賃金の上昇があったため 27.2%
案件ごとに労務費の価格交渉が出来るため 15.3%
販売先が、自社の昇給に対して理解があるため 11.0%
工数の見える化を行ったため 9.5%
一定期間での工数実績に応じた支払いがされるため8 .4%
その他 3.1%
業界団体等の仲介組織があるため 1.4%
●エネルギーコストが価格転嫁につながった理由(n=7,6401)複数回答
販売先がエネルギーコストに関する市況に理解があるため 40.4%
エネルギーコストの変動に応じた交渉が可能なため 38.2%
値上げの根拠に見積を販売先に提示しているため 27.6%
受注量の減少に応じて、単価の変更が可能なため 7.3%
親事業者と定期的にエネルギーコストを見直す機会があるため 3.8%
エネルギーコストを時価や市況で自動的に上下させることができるため 3.2%
その他 2.7%
業界団体等の仲介組織があるため 1.2%
(株)東京商⼯リサーチ「令和4年度取引条件改善状況調査」
(注)1.受注側事業者向けアンケートを集計したもの。2.価格転嫁につながった理由として、「該当なし」と回答した企業を含む合計に対する割合を集計している。
これを見ると、原材料価格、エネルギーコストについては、価格変動に応じた交渉や、販売先が原材料、エネルギーコストの市況に関する理解があることが価格転嫁につながった理由として挙げられています。労務費については、販売先との十分な協議を行っていることのほかに、最低賃金の上昇が価格転嫁につながった理由として挙げられています。
お客様とのコミュニケーションをよくしておくことが大事であり、さらには社内での取り組みも価格転嫁のきっかけになっているようです。
コストを下げる努力は当然のことですが、必要な価格転嫁も企業の命脈を保つのに欠かせません。我が社の努力だけではどうしようもないことがあります。これへの対応は経営者の仕事です。
下記は、取引金額が最も大きい販売先への依存度(取引依存度)別に、コスト全般の変動に対する価格転嫁の状況について見たものです。
取引依存度を次のように数値化しています。取引依存度は30%を超えるとリスクが高まると言われています。その依存度と価格転嫁の関係についてです。
10%以下の企業
10%超〜30%の企業
30%超〜50%の企業
50%超〜70%の企業
70%超〜の企業
●取引金額が最も大きい販売先への依存度(取引依存度)別に見た、コスト全般の変動
に対する価格転嫁の状況
なお、価格転嫁の状況は次のように数値化している。
おおむね反映された(81〜100%)
⼀部反映された(41〜80%)
あまり反映されなかった(1〜40%)
反映されなかった(0%)
・おおむね反映されたおよび⼀部反映されたと回答した企業の割合
10%以下の企業(n=2,649) 57.5%
10%超〜30%の企業 (n=5,847) 62.3%
30%超〜50%の企業 (n=4,207) 56.3%
50%超〜70%の企業 (n=2,320) 54.9%
70%超〜の企業(n=2,957) 51.3%
・あまり反映されなかったと回答した企業の割合
10%以下の企業(n=2,649) 27.8%
10%超〜30%の企業 (n=5,847) 27.6%
30%超〜50%の企業 (n=4,207) 29.7%
50%超〜70%の企業 (n=2,320) 29.3%
70%超〜の企業(n=2,957) 25.1%
・反映されなかったと回答した企業の割合
10%以下の企業(n=2,649) 14.6%
10%超〜30% の企業(n=5,847) 10.1%
30%超〜50%の企業 (n=4,207) 14.1%
50%超〜70% の企業(n=2,320) 15.8%
70%超〜の企業(n=2,957) 23.6%
(株)東京商⼯リサーチ「令和4年度取引条件改善状況調査」
(注)受注側事業者向けアンケートを集計したもの。
これを見ると、取引依存度の高い企業では、「反映されなかった」とする割合が高くなっています。依存度が高いと価格転嫁の相談を持ち掛けにくいことは想像できることです。
下記は、直近10年の販売先数の変化別に、コスト全般の変動に対する価格転嫁の状況についてです。販売先が増加した企業、横ばいの企業、減少した企業での状況を見てみます。
●直近10 年の販売先数の変化別に見た、コスト全般の変動に対する価格転嫁の状況
なお、価格転嫁の状況は次のように数値化している。
おおむね反映された(81〜100%)
⼀部反映された(41〜80%)
あまり反映されなかった(1〜40%)
反映されなかった(0%)
・おおむね反映されたおよび⼀部反映されたと回答した企業の割合
増加した企業(n=4,615) 64.4%
横ばいの企業(n=8,813 )57.0
減少した企業(n=4,664) 51.3%
・あまり反映されなかったと回答した企業の割合
増加した企業(n=4,615) 24.8%
横ばいの企業(n=8,813) 27.7%
減少した企業(n=4,664) 31.6%
・反映されなかったと回答した企業の割合
増加した企業(n=4,615) 11.2%
横ばいの企業(n=8,813) 15.2%
減少した企業(n=4,664) 17.2%
販売先数が「増加した」と回答した受注側事業者は、「横ばい」、「減少した」と回答した事業者と比べ、「おおむね反映された」、「一部反映された」の割合が高くなっています。販売策を増やす努力をしている経営者は取引先に価格転嫁の相談を積極的に持ち掛けていると推測できます。
外での仕事に積極的な経営者はそうした行動にも積極的なはずです。一定水準の価格転嫁ができているのは、主要なお客様への依存度が高すぎず、一方で積極的に新規お客様開拓に取り組んでいる経営者となります。
特定のお客様の依存度を高すぎないようにすることや新規お客様をドンドン開拓することは全て経営者の姿勢の結果です。こうした姿勢を持った経営者は価格転嫁も必要な仕事としてお客様に働きかけています。
値決めは経営。稲盛和夫氏の言葉です。外部環境は変化します。したがって、それと整合性をはかるように価格転嫁をやるのも経営です。経営者の仕事です。