戦略的工場経営ブログ労働生産性の国際比較2023年
弊社のご支援の目的は人時生産性向上です。労働生産性向上と言い換えられます。一人当たり、時間当たりの付加価値額です。
なぜ、この人時生産性に焦点を当てているのか?利益アップとともに給料アップを実現させたかったら、この数値を高めるしかないからです。重要な指標です。
公益財団法人日本生産性本部では毎年12月「労働生産性の国際比較」を発表しています。弊社でも毎年、注目しているデータです。
「日本の生産性は低い」としばしば言われます。このデータはその状況を説明してくれるのです。昨年12月22日に「労働生産性の国際比較2023年」が出されました。
そのうち、特に下記の4項目を取り上げて、概要をお伝えします。出典は全て、公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023年」です。
1.国民 1人当たり GDPの国際比較
2.就業者 1人当たり労働生産性の国際比較
3.時間当たり労働生産性の国際比較
4.製造業の労働生産性水準の国際比較
1.国民 1人当たり GDPの国際比較
国民1人当たり国内総生産(GDP)は「その国の経済的な豊かさ」のことです。国別の経済的豊かさを比べられます。
ここで、国民1人当たり GDPをドルベースに換算する際に使用しているのが、物価水準の違いなどを調整した購買力平価 (Purchasing Power Parity PPP)レートです。
購買力平価は OECD や世界銀行で発表されています。OECDの2022年の円ドル換算レートは 日米の物価上昇率に差が拡大したことで円高に振れ、1ドル97.57円です。
●日本の国民1人当たりGDP
(購買力平価換算USドル)
(OECD加盟国38か国中の順位)
年 ドル 順位
70年 3,349 19
80年 8,974 17
90年 19,891 8
95年 23,866 6
00年 27,290 15
05年 32,174 16
06年 33,639 17
年 ドル 順位
07年 35,022 17
08年 35,279 18
09年 33,551 19
10年 35,343 18
11年 36,215 18
12年 37,629 18
13年 39,437 18
14年 39,560 18
15年 40,909 17
16年 40,856 18
17年 41,531 20
18年 42,265 21
19年 42,427 23
20年 41,924 22
21年 43,144 26
22年 45,910 27
日本の国民1人当たりGDPは、45,910ドル (448万円 )、OECD加盟38カ国中27位です。これは、米国の ほぼ 6割に相当します。
スペイン (46,303ドル 452万円 )や ポーランド (42,962ドル 419万円 )、 ポルトガル(42,313ドル/ 413万円 )などとほぼ同水準です。
日本の国民1人当たりGDPは、1996年にOECD加盟国中5位まで上昇しました。1990年代前半から半ばにかけて主要先進7カ国で米国に次ぐ水準に高まったのです。
しかし、90年代後半から経済的な停滞により国民1人当たりGDPも伸び悩みました。失われた30年です。
そこから徐々に他の主要国 追い抜かれる推移をたどってきました。2000年代からは主要先進 7カ国でも最下位の状況が続いています。OECD加盟国の中では、
2010年代前半こそ1970年代とほぼ同じ、17、18位程度で推移していました。それが、2010年代後半になると20位台にまで後退しています。 2022年はOECD加盟 38カ国中 27位と1970年以降で最も低い順位 になっています。
日本の数値は悪化しているわけでなく、日本が置いてけぼりを喰っているのです。
2.就業者 1人当たり労働生産性の国際比較
国民1人当たり GDPとして表される「経済的豊かさ」を実現するには、より少ない労力でより多くの経済的成果を生み出すことが重要であると報告書で指摘しています。それらを定量化した代表的な指標の 1つが労働生産性です。
日本では生産年齢人口の減少が進んでいます。したがって、就業者数の増加や就業率の改善が期待できなくなっているのです。そこで必要なのはイノベーション。
働く人の能力や経営能力の改善で労働生産性が向上すれば、経済は成長し、国民 1人当たり GDPも上昇します。労働生産性を高めなければならないのです。
労働生産性は、分母に就業者数、あるいは工数、分子に成果で計算されます。国際比較では、成果を付加価値 (国レベルでは GDP)とする方式が一般的です。
報告書では、労働生産性を労働生産性 = GDP(付加価値 )就業者数 (または就業者数 ×労働時間 )として計測しています。※GDP 購買力平価 (PPP)によりドル換算
●日本の労働生産性(1人当たり)
(購買力平価換算USドル)
(OECD加盟国38か国中の順位)
年 ドル 順位
70年 6,834 20
80年 18,975 20
90年 39,343 13
95年 46,366 18
00年 53,693 20
05年 64,669 20
06年 67,311 21
年 ドル 順位
07年 69,733 21
08年 70,481 21
09年 68,028 22
10年 71,853 21
11年 73,559 21
12年 76,431 20
13年 79,373 21
14年 79,019 21
15年 81,225 21
16年 79,734 21
17年 80,433 21
18年 79,977 25
19年 79,307 28
20年 78,539 29
21年 80,667 29
22年 85,329 31
2022年の日本の就業者 1人当たり労働生産性は、85,329ドル (833万円 )でした。OECD加盟 38カ国の中で は 31位です。
ハンガリー (85,476ドル/ 834万円 )やラトビア (83,982ドル/ 819万円 )といった東欧 ・バルト海諸国とほぼ 同じ水準 です。 西欧諸国と比較すると、ポルトガル (88,777ドル/866 万円)がほぼ同水準になっています。
主要国では比較的生産性が低い英国(112,351ドル/1,096 万円)の3/4 程度です。米国(160,715 ドル/1,568 万円)と比べると、ほとんど半分(53%)の水準に留まっています。主要先進7 カ国で最も低い状況が続いています。21年と比べれ、順位は2つ下がって、31位です。
3.時間当たり労働生産性の国際比較
近年は、長時間労働に依存しない働き方が広がっています。これからは、より短い時間でどれだけ成果を生み出したかが大事です。「時間当たり労働生産性」に焦点を当てます。
●日本の労働生産性(時間当たり)
(購買力平価換算USドル)
(OECD加盟国38か国中の順位)
年 ドル 順位
70年 2.8 19
80年 8.4 20
90年 18.7 20
95年 23.6 21
00年 29.0 21
05年 35.3 20
06年 36.5 20
07年 37.8 20
08年 38.4 20
09年 38.2 20
10年 39.8 20
11年 41.0 20
12年 42.4 20
13年 44.4 20
14年 44.5 20
15年 46.2 20
16年 45.5 20
17年 46.1 21
18年 46.8 21
19年 47.5 25
20年 48.3 27
21年 49.4 28
22年 52.3 30
2022年の日本の就業1 時間当たり労働生産性は、52.3ドル(5,099 円)でした。日本の時間当たり労働生産性はOECD 加盟38 カ国中30 位です。これは、ポルトガル(52.6 ドル)やスロバキア(51.7 ドル)とほぼ同水準になっています。
前年の21年と比べて、順位をみると、スロバキアを抜いたものの、ポーランドとポルトガル、ラトビアに抜かれたため、昨年から順位を二つ下げました。データ取得可能な1970 年以降、順位は最も低くなっています。30位です。
日本の労働生産性を米国と比較すると、1人当たりで 53%(2022年)、時間当たりでも58% しかありません。2000年には 1人当たり (72%)・時間当たり (71%)ともに米国に劣後していましたが、7割は超えていたのです。
この20年間で、1人当たりで 19 ポイント 、時間当たりで13 ポイントも対米格差が拡大したことになります。中小製造経営者は自社の人時生産性の水準を気にしていただきたいです。これを高めない限り、利益アップ給料アップはできません。
米国の時給は、現在、34$水準です。為替レートにもよりますが、ほとんど5,000円です。日本のマックやコンビニでの時給と比べると、日本は圧倒的に置いていかれています。国を挙げて、ベクトル揃えた対策を進めないとますますその格差が広がりそうです。
4.製造業の労働生産性水準の国際比較
報告書では、製造業では、為替変動によって価格が調整されやすい貿易財の比重が高いので、便宜的に市場で取引される為替レートを用いた労働生産性の比較をしています。
為替市場は、 国際的な金融取引や投機など さまざま な要因で レートが 変動するため、そのまま用いると生産性にもバイアスがかかる。そうした影響を軽減するため、当年及び 前後 2年の 移動平均によりドル 換算を行っています。
また、日本を含む各国の2022年データが出揃っていないため、2021年データにより比較を行っています。
●日本の製造業名目労働生産性
(購買力平価換算USドル)
(OECD加盟国38か国中の順位)
年 ドル 順位
95年 89,527 2
00年 86,894 1
05年 94,120 9
10年 117,522 9
11年 116,158 10
12年 114,441 9
13年 100,673 14
14年 90,630 17
15年 91,844 17
16年 92,764 17
17年 95,717 16
18年 96,439 19
19年 95,941 17
20年 94,344 17
21年 94,155 18
デ-タが得られた34カ国で最も水準が高いのはアイルランドです。
第1位 アイルランド (617,383ドル/ 7,066万円 )
第2位 スイス(221,531ドル/ 2,535万円 )
第3位 デンマーク (181,428ドル/ 2,076万円 )
第4位 米国 (168,989ドル/ 1,934万円 )
この上位の顔ぶれは、2020年と変わっていません。
IntelやAppleなど製造業に分類される多国籍企業がアイルランドは欧州拠点を置いています。同国は、こうした企業の存在のお陰で、製造業において高い労働生産性になっているようです。
スイスは、精密機械や医薬品などのグローバル企業が産業クラスターを形成していることいることで高い生産性実現しており、コロナ禍でも生産性を伸ばしています。
日本の製造業の労働生産性は94,155ドル(1,078万円/第18位)です。米国の6割弱(56%)の水準に留まります。フランス(96,949ドル)や韓国(102,009ドル)と同水準です。主要先進7カ国で日本の下にいるのはイタリア(82,991ドル)のみです。
日本の順位は、2000年にOECD諸国でトップだったものの、その後、2005~2010年が9位、2015年に17位に後退し、以降16~19位で推移しています。国内産業のなかで生産性が高いと言われている製造でさえグローバルには劣後しているのです。
日本の生産性がグローバルに劣後している状況は下記4つのデータを眺めればわかります。
1.国民 1人当たりGDPの国際比較
2.就業者 1人当たり労働生産性の国際比較
3.時間当たり労働生産性の国際比較
4.製造業の労働生産性水準の国際比較
少子化で既に人口減少モードに移行している日本が、世界経済の中で存在感ある地位を維持しようと考えるなら、労働生産性を上げるしかありません。
一人当たり、1時間当たり付加価値額を増やさないと、人口減少と共に、グローバルに貢献する積み上げ規模が小さくなってしまうからです。
特に就業者の7割が所属している中小企業の生産性を上げなければ、国としての成果が表れにくくなります。大手だけが頑張ればイイのではありません。
中小製造企業の経営者の方々には、人時生産性を高めて、地元、地域、国全体への貢献にも思いをはせていただきたいです。下記の現状を踏まえ、我が社でできることを実践します。全ては、利益アップ給料アップのためです。
●日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中30位だった。これは、昨年から順位を二つ下げている。データ取得可能な1970年以降、最も低くなっている。