戦略的工場経営ブログ新規事業を成功させるための環境整備をやっているか?
中小製造企業は2つに晒されています。技術の進化と競合の追い上げ。現状維持では技術の進化と競合に置いてけぼりを喰います。生き残りをかけた新規お客様開拓や新商品・新技術開発は絶対に必要なのです。
また新事業展開を行った中小企業は売上高を伸ばしている割合が高いなど、新事業展開と中小企業の業績には正の相関があるとの報告もあります。
新規事業の重要性は論を俟ちません。新規事業をやるなら、絶対に成功させたいとの気持ちは多くの経営者に共通していることです。
ただし、成功させるには工夫がいります。製販一体、全社一丸、組織のベクトルを揃えることです。中小企業白書2023年版には新規事業創出の成功に向けた組織体制の構築についての解説があります。以下、出典は中小企業白書2023年版です。
1.新規事業創出に取り組んだ際の、組織体制の工夫・取組
2.新規事業創出の成長への寄与度別に、組織体制に関する工夫・取組の実施状況
3.新規事業創出に取り組んだ際の、既存事業に従事する社員の理解状況別に見た、理解を得るための工夫・取組の実施状況
4.中小企業の成長パターン
1.新規事業創出に取り組んだ際の、組織体制に関する工夫・取組の実施状況
新規事業の取り組みは日常の納期遵守業務とは無関係です。したがって、新規事業の取り組みをやろうとすると、その仕事は日常業務に「上乗せ」されます。現場にとって「余分で面倒くさい」仕事になるのです。
その結果、新規事業の取組は後回しになりがちです。中小現場は少数精鋭なので、新規事業の取り組みをやろうとするなら、組織体制に関する工夫・取組が必要になります。
下記は新規事業創出に取り組んだ際の、組織体制に関する工夫・取組の実施状況です。直近10年間における新規事業創出の取組状況について「取り組んだ」と回答した1,211社の企業に聞いたものです。
複数回答のため、合計は必ずしも100%になっていません。ここで言う「新規事業創出」は「新市場開拓戦略」、「新商品開発戦略」「多角化戦略」のことを指しています。
●新規事業創出に取り組んだ際の、組織体制の工夫・取組(n=1,211)
・経営者が進捗管理や意志決定を担い、現場での指揮や業務の遂行は現場に任せた
59.5%
・新規事業を社内に理解させる取り組みを行った
34.8%
・若手の社員を登用した
20.5%
・プロジェクトを組成して新規事業に取り組んだ
17.8%
・経営者が新規事業に口出ししないよう意識した
12.6%
・その他
0.7%
・当てはまるものはない
8.5%
「経営者が進捗管理や意思決定を担い、現場での指揮や業務の遂行は現場に任せた」が最も多く、次いで「新規事業を社内に理解させる取組を行った」となっています。
経営者が主導しなければ、新規事業は成功しません。後押し役やお目付け役が不在だと、少数精鋭の中小の現場では、新規事業の取組が頓挫するのも仕方がありません。
それだけに、経営者が進捗管理や意思決定を担うことが成功のカギとも言えます。さらには、経営者の頭の中を知ってもらう努力です。
共感してもらうには、経営者の頭の中を知ってもらわなければなりません。信頼関係は共感の先にあります。若手抜擢も要点と言えそうです。
2.新規事業創出の成長への寄与度別に、組織体制に関する工夫・取組の実施状況
新規事業創出に取り組んだ際、組織体制に関する工夫・取組をいろいろやっても、それが新規事業創出の成長へ貢献していないと意味がありません。
種々の取組が新規事業創出の成長へ寄与した企業では、どんな組織体制に関する工夫・取組が効果的であったのか?それを調査しています。
直近10年間における新規事業創出の取組状況について「取り組んだ」と回答した企業へ、「組織体制に関する工夫・取組を実施した結果、それらが新規事業創出の成長へ寄与したか?」と尋ねました。
寄与したと回答した企業数n=1,011、寄与しなかったと回答した企業数n=200でした。
そこで、それぞれの企業で実施した組織体制に関する工夫・取組を回答してもらっています。複数回答のため、合計は必ずしも100%になっていません。
●新規事業創出の成長への寄与度別に見た、組織体制に関する工夫・取組の実施状況
・経営者が進捗管理や意志決定を担い、現場での指揮や業務の遂行は現場に任せた
寄与した60.6% 寄与しなかった53.5%
・新規事業を社内に理解させる取り組みを行った
寄与した36.5% 寄与しなかった26.0%
・若手の社員を登用した
寄与した21.5% 寄与しなかった15.5%
・プロジェクトを組成して新規事業に取り組んだ
寄与した17.8% 寄与しなかった18.0%
・経営者が新規事業に口出ししないよう意識した
寄与した13.1% 寄与しなかった10.0%
・その他
寄与した0.5% 寄与しなかった1.5%
・当てはまるものはない
寄与した7.5% 寄与しなかった13.5%
新規事業創出の取組が自社の成長に寄与した企業は、寄与しなかった企業と比較して、各工夫・取組を実施している傾向があることが分かります。
特に「経営者が進捗管理や意思決定を担い、現場での指揮や業務の遂行は現場に任せた」、「新規事業を社内に理解させる取組を行った」において認められる回答割合の差は7~10ポイントです。
経営者が主導すること、経営者の頭の中を知ってもらう努力をすることが、成功には欠かせないことが分かります。
3.新規事業創出に取り組んだ際の、既存事業に従事する社員の理解状況別に、理解を得るための工夫・取組の実施状況
直近10年間における新規事業創出の取組状況について「取り組んだ」と回答した企業へ、「組織体制に関する工夫・取組を実施した結果、既存事業に従事する社員の理解を得ることができたか?」と尋ねました。
理解を得られたと回答した企業数n=1,035、理解を得られなかったと回答した企業数n=160でした。
そこで、それぞれの企業で実施した理解を得るための工夫・取組を回答してもらっています。複数回答のため、合計は必ずしも100%になっていません。
●新規事業創出に取り組んだ際の、既存事業に従事する社員の理解状況別に見た、理解を得るための工夫・取組の実施状況
・新規事業に取り組む意義の共有
理解を得られた66.5% 理解を得られなかった27.5%
・経営幹部層の戦略・計画の開示
理解を得られた48.6% 理解を得られなかった17.5%
・新規事業に関する進捗情報の積極的な社内への発信
理解を得られた33.7% 理解を得られなかった11.9%
・新規事業のニーズに関する顧客の声の共有
理解を得られた30.1% 理解を得られなかった11.9%
・取引先の情報の開示
理解を得られた23.1% 理解を得られなかった13.8%
・財務情報の開示
理解を得られた17.7% 理解を得られなかった8.8%
・新規事業の業績に合わせた処遇への反映
理解を得られた10.4% 理解を得られなかった5.6%
・その他
理解を得られた0.8% 理解を得られなかった1.3%
・特に工夫・取り組みは行わなかった
理解を得られた5.8% 理解を得られなかった41.9%
「新規事業に取り組む意義の共有」、「経営幹部層の戦略・計画の開示」、「新規事業に関する進捗情報の積極的な社内への発信」、「新規事業のニーズに関する顧客の声の共有」では回答割合の差は20~40ポイントです。
既存事業に従事する社員の理解を得られた企業は、理解を得られなかった企業と比較して、各工夫・取組を実施していることが分かります。
工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにある以上、事業で成果を出そうとするなら、その他人の協力を得ないとなりません。そうであるなら、共感を得るための努力が欠かせなくなります。
経営者が理解を得るために従業員に対して、特に工夫・取組をしなければ、理解が得られない傾向にあることも、上記のアンケートの最後の結果から、分かることです。当然と言えます。
協力は信頼関係構築の先で得られるものです。ただ「言われたとおりにやれ」だけでは、従業員一人ひとりから火事場の馬鹿力は引き出せません。
4.中小企業の成長パターン
中小企業白書2023年版には、ヒアリングデータをテキストデータとして捉え、テキストマイニング分析を行うことで中小企業における共通の成長パターンの把握を行った結果が掲載されています。
中小経営者のアンケート結果を数値分析だけでなく、ヒアリングデータをテキストデータとして捉え、そこから中小企業における共通の成長パターンを導いています。
その結果、新規事業創出・既存事業拡大を実現させるパターンは外部と内部で次のように導き出されています。
●外部の課題
「業界における製品・商品・サービスのブランド確立」を認識すること。
事業の対象顧客として「既存の大手取引先顧客」を設定すること。
●内部の課題
内部で活用した中核人材に対して「業界における経験やスキル」を重視すること。
我が社を選んでもらう観点、標的お客様、人材の活かし方が述べられています。貴社にとって、この分析結果はいかがでしょうか?
経営者は、従業員の協力を得ることなしに新規事業を成功させられません。工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにあるのです。協力を得るために何をしなければならないか?こう考えれば、自ずとやることが見えてきます。
新規お客様開拓や新商品開発、新技術開発が新規事業を成功させる本質ですが、そのための環境整備も絶対に必要ということです。