戦略的工場経営ブログ事業承継を成長の機会として生かせるか?

Pocket

中小企業白書2023年版では事業承継の解説があります。過去に発行された白書では、以下のことが報告されました。

・経営者年齢が若い企業ほど新たな取組に果敢に挑戦する企業が多いこと
・事業承継によって経営者の世代交代を円滑に進めること
・M&Aは近年、中小企業でも広がりを見せていること
・そのM&Aは買い手企業と売り手企業双方にとって成長につながる機会になること

事業継承やM&Aを企業規模拡大や事業多角化といった企業を成長させる手段として活用することも重要だと指摘しているのです。弊社のご支援先でも、先代から事業を引き継いだ2代目、3代目が、2代目、3代目としての仕事のやり方を模索しています。事業を豊かに成長させるためです。

事業承継においては、経営資源を次世代へ円滑に引き継ぐだけでなく、後継者が事業承継後に、自社を更に成長・発展させていくことも大切であると言えます。事業承継企業パフォーマンスに与える影響や後継者が企業を成長させていくために事業承継前後において必要な取組について考えます。

出典は全て、中小企業白書2023年版です。

1.事業継承の類型

2.事業承継を実施した企業の承継後9年間の売上高成長率

3.後継者の準備期間中の取組み

4.事業承継を契機とした従業員の自主性の変化

5.事業承継を契機とした従業員の自主性の変化別に、売上高年平均成長率の分布

1.事業継承の類型

事業承継ガイドラインでは、事業承継を以下の3つの類型に区分しています。以下、同ガイドラインからの引用です。

●事業継承3つの類型

1)親族内承継

2)従業員承継

3)社外への引継ぎ(M&A)

●各類型の概要

1)親族内承継
・現経営者の子をはじめとした親族に承継させる方法である。
・一般的に他の方法と比べて、内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと、後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能であること、相続等により財産や株式を後継者に移転できるため所有と経営の一体的な承継が期待できるといったメリットがある。

2)従業員承継
・「親族以外」の役員・従業員に承継させる方法である。
・経営者としての能力のある人材を見極めて承継させることができること、社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいといったメリットがある。

3)社外への引継ぎ(M&A)
・株式譲渡や事業譲渡等により社外の第三者に引き継がせる方法である。
・親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を外部に求めることができ、また、現経営者は会社売却の利益を得ることができる等のメリットがある。さらに、M&Aが企業改革の好機となり、更なる成長の推進力となることもある。

近年事業承継をした経営者の就任経緯を調べると、親族内承継は他の類型と比べて、一貫して最も高く全体の4割近くで推移してきました。ただし、近年は減少傾向にあります。2022 年では従業員承継と同水準の34.0%です。

また、社外への引継ぎの割合は2020年以降増加傾向にあります。事業承継の方法がこれまで主体であった親族への承継から、親族以外の承継へシフトしてきているようです。

2.事業承継を実施した企業の承継後9年間の売上高成長率

下記は事業承継を実施した企業の承継後9年間の売上高成長率について、同業種の平均値と比較した際の差分について見たものです。

●事業承継実施企業の承継後の売上高成長率(同業種平均値との差分)

1年後 -0.2%

2年後 -0.2%

3年後  0.1%

4年後  0.4%

5年後  0.7%

6年後  1.0%

7年後  1.2%

8年後  1.7%

9年後  2.1%

(注)①2008年~2012年に経営者交代を1回行っており、経営者交代からその後9年間の売上高の数値が観測できる企業を分析対象としている。

②成長率の数値は、マクロ経済の影響を取り除くため、経営者交代を行った企業の成長率の平均値と同分類産業の成?率の平均値との差分である。

③売上高成長率が95パーセンタイル以上または5パーセンタイル以下の観測値は外れ値として除外している。

資料(株)帝国データバンク「企業概要ファイル」再編加工

これを見ると、事業承継後2年目までは、売上高成長率は同業種平均値を下回っています。ただ、3年目から徐々に同業種平均値を上回っているのが興味深いです。特に5年目からその傾向が強まっています。

白書では、総じて、事業承継実施企業は、実施していない企業と比較して、企業パフォーマンスが高い傾向にあると考えられ、事業承継は成長の機会になり得ると考えられると指摘しています。

事業継承は長年やってきた仕事のやり方を変える機会になるのです。市場はお客様の要望に従ってドンドン変わります。ただ、そのことを分かっていても変えられないのが、従来の仕事のやり方です。

事業承継は改革の機会になります。だから、事業承継実施企業は実施していない企業と比較して、企業パフォーマンスが高い傾向にあると推測されるのです。

3.後継者の準備期間中の取組み

下記は、事業承継後の意思決定の状況別に、後継者の準備期間中の取組みを見たものです。後継者は事業を引き継いだ後、意思決定を自らやらなければなりません。そのためにも経営者として事前に準備しておくことがあります。

●後継者の準備期間中の取組み(n=2,357) 複数回答

①自社の経営資源・財務状況の理解に努めた 58.2%

②現場で働き、自社の技術やノウハウ、商習慣等を学んだ 49.9%

③自社の経営に携わり、経営に関する哲学や手法を学んだ 49.0%

④既存取引先との顔合わせを行った 46.0%

⑤自社の経営理念や経営計画の理解に努めた 41.5%

⑥金機関への挨拶・引継ぎを行った 38.8%

⑦従業員と自社の課題などについて話し合う機会を設けた 37.4%

⑧営業を担当し、新規取引先を開拓した 32.9%

社内のことをしっかり把握しておくことは事前準備として大事です。社長の仕事場は外にあることを踏まえると、事前準備として、社内の把握が欠かせません。社内のことが分からないと、安心して外で出かけられないからです。事業を引き継ぐ前から、⑧項に取り組む経営者がいるのも興味深いです。経営者モードの仕事に取り掛かっています。

4.事業承継を契機とした従業員の自主性の変化

白書は、事業承継においては後継者主導の組織を構築することが必要となると指摘しています。事業承継を契機に事業を発展させた企業を対象とした事例研究において、後継者特有のリーダーシップの一つとして、「自立型社員の育成・活用」を挙げていることに注目したいです。

後継者が従業員の自主性を高めることは、事業承継後の企業の成長を促すと考えられます。

事業承継は「第二創業」とも呼ばれ、事業承継後に新たな事業分野への進出などに取り組んだ企業は、取り組んでいない企業と比べて、業績が改善した企業の割合が高いことが指摘されています。事業承継を機会とした後継者の新たな挑戦は企業の成長につながるのです。

下記は事業承継を契機とした従業員の自主性の変化を見たものです。

●事業承継を契機とした従業員の⾃主性の変化(n=2,907)

従業員の⾃主性が⼗分⾼まった 13.7%

従業員の⾃主性がやや⾼まった 52.9%

どちらとも⾔えない 27.0%

従業員の自主性が高まっていない 6.4%

これを見ると、事業承継を機に、「従業員の自主性が十分高まった」、「従業員の自主性がやや高まった」と回答した企業は6割を超えていることが分かります。事業継承は従業員に自主性を促す機会になっているのです。改革の機会として生かせます。

5.事業承継を契機とした従業員の自主性の変化別に、売上高年平均成長率の分布

下記は事業承継を契機とした従業員の自主性の変化別に、売上高年平均成長率の分布を見たものです。従業員の自主性が売上高成長率へどのような影響を及ぼしているかがわかります。

●事業承継を契機とした従業員の自主性の変化別に見た、売上高年平均成長率の分布

従業員の自主性が高まった企業と従業員の自主性が高まらなかった企業、それぞれで、業種別に、売上高年平均成長率(事業承継時点~2021年)が高い企業を上位から25%ごとに、4区分に分類しました。

・上位25%の企業: 売上高成長率が高い企業

・上位25%~50%の企業: 売上高成長率がやや高い企業

・上位50%~75%の企業: 売上高成長率がやや低い企業

・上位75%~100%の企業: 売上高成長率が低い企業

・従業員の⾃主性が⾼まった企業 (n=1,935)での売上高年平均成長率4区分での割合

売上高成長率が高い企業 29.7%

売上高成長率がやや高い企業 26.9%

売上高成長率がやや低い企業 23.2%

売上高成長率が低い企業 20.2%

・従業員の⾃主性が⾼まった企業 (n=971)での売上高年平均成長率4区分での割合

売上高成長率が高い企業 22.1%

売上高成長率がやや高い企業 25.8%

売上高成長率がやや低い企業 25.0%

売上高成長率が低い企業 27.0%

結果を見ると、売上高年平均成長率の水準が「高」+「やや高」企業は、従業員の自主性が高まった企業で56.6%、従業員の自主性が高まっていない企業で47.9%になっています。両者の差は10ポイントほどです。事業承継を機に従業員の自主性を高めることは、企業の成長を促すことが示唆されると、白書では指摘しています。

事業承継は従業員の自主性を促すのかもしれません。

トップが変われば、組織は変わります。企業は経営者次第です。後継者が誠実に真摯に思いを込めて従業員へ協力をお願いすれば、従業員は期待に応えてくれます。小さな改革から大きな改革へ。

事業承継とはトップの交代に他なりません。後継者が一生懸命であるから、事業承継していない企業に比べて、売上高成長率が高くなっていると推測されます。それが、さらに、事業承継が自主性を促すことにつながれば、ますます成長の度合いが高くなるのです。

その意味でも、事業承継では後継者の事前準備が大事であると思われます。特に創業者である先代から引き継ぐ2代目経営者になる後継者はなおさらです。創業者の真似をすることはなかなかできません。2代目としての仕事のやり方を模索する時間を確保することも重要となってきます。弊社ご支援先で感じることです。

Pocket