戦略的工場経営ブログ現場はデジタル化の必要性を感じているか?

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中小企業白書2023年版は事業のデジタル化について下記の指摘をしています。
「中小企業・小規模事業者におけるデジタル化は、人口減少・少子高齢化の進展による人手不足のボトルネックの解消に資する上、中小企業・小規模事業者の持続的発展を支える鍵となる。」

デジタル化の重要性は論を俟ちません。目的をはっきりさせてデジタル化を進めたいです。中小企業白書2023年版では、中小企業におけるデジタル化の取組状況や取り組みのきっかけ、取り組みが進まない要因を解説しています。

1.中小企業のデジタル化の取組状況

2.時点別に見た、デジタル化の取組状況

3.デジタル化を改革水準で生かしている企業の割合

4.中小企業のデジタル化のきっかけ

5.中小企業のデジタル化が進展しない要因 

6.デジタル化の目的は仕組みをつくることではない

1.中小企業のデジタル化の取組状況

中小企業白書(2022)では、経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会DXレポート(中間とりまとめ)」や内閣府「経済財政白書」、経済産業省「DX推進指標」、のフレームワークを基に、デジタル化の取組状況を四つの段階に設定しています。デジタル化の取組み4つの段階です。

デジタル化の取組み4つの段階

段階1
紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態

段階2
アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態
例 電子メールの利用や会計業務における電子処理など、業務でデジタルツールを利用している

段階3
デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
例 売上・顧客情報や在庫情報などをシステムで管理しながら、業務フローの見直しを行っている

段階4
デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態
例 システム上で蓄積したデータを活用して販路拡大、新商品開発を実践している

段階3と段階4では、デジタル化を事業改革で活用しています。段階3は工場、段階4は市場を対象にした改革です。工場経営における、内と外でのデジタル化です。一方、段階1と段階2はその手前の水準であり、収益拡大につなげるには、デジタル化のステージを高める必要があります。

デジタル化で目指すのは段階3以上です。内と外での改革に活かします。

2.時点別に見た、デジタル化の取組状況

下記は、デジタル化の取組状況を、2019年時点の実績と2025年時点の見込みで見たものです。企業規模別にまとめています。2025年時点の⾒込みは、アンケート調査時点(2022年12⽉)における、「2025年の⾒込み」です。(株)野村総合研究所「地域における中⼩企業のデジタル化及び社会課題解決に向けた取組等に関する調査」によります。

企業規模別は4つです。
20⼈以下 (n=5,543)
21〜50⼈ (n=672)
51〜100⼈ (n=214)
101⼈以上 (n=128)

段階1~段階4は下記です。
(段階1)紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態
(段階2)アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態
(段階3)デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
(段階4)デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態

時点別に見た、デジタル化の取組状況

「2019年時点実績」

・20⼈以下 (n=5,543)
段階4 2.5%
段階3 12.8%
段階2 44.6%
段階1 40.1%

・21〜50⼈ (n=672)
段階4 2.7%
段階3 22.6%
段階2 54.5%
段階1 20.2%

・51〜100⼈ (n=214)
段階4 1.3%
段階3 29.0%
段階2 53.3%
段階1 16.4%

・101⼈以上 (n=128)
段階4 4.7%
段階3 32.8%
段階2 50.0%
段階1 12.5%

「2025年時点の見込み」

・20⼈以下 (n=5,317)
段階4 15.6%
段階3 38.3%
段階2 31.0%
段階1 15.0%

・21〜50⼈ (n=636)
段階4 31.4%
段階3 49.5%
段階2 16.8%
段階1 2.3%

・51〜100⼈ (n=206)
段階4 34.5%
段階3 51.0%
段階2 10.2%
段階1 4.3%

・101⼈以上 (n=122)
段階4 31.1%
段階3 57.4%
段階2 9.0%
段階1 2.5%

これを見ると、従業員規模20人以下の企業では、2019年時点の実績と2025年時点の見込みのどちらの時点においても、従業員規模21人以上の企業と比べて、段階1や2の企業が多くなっています。事業規模が小さいとデジタル化を事業改革水準で生かせていない企業が少なくないようです。

少数精鋭は力技で仕事を回せます。ただ、それに依存していると成長は頭打ちです。納期遵守だけでは儲かりません。やはり人時生産性を高める必要があります。そうなると、経営者だけでなく現場も含めて、段階3や段階4に挑戦しなければならないと感じなければならないのです。

3.デジタル化を改革に活かしている企業の割合

デジタル化を内と外での改革に活かしている企業は段階3と段階4に至っています。
(段階3)デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
(段階4)デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態

そこで、先のデータをもとに、企業規模別に(段階3)+(段階4)の企業割合を2019年実績と2025年見込で整理したのが次です。

●企業規模別、2019年実績と2025年見込みでの(段階3)+(段階4)企業割合

2019年実績→2025年見込
・20⼈以下 15.3%→53.9%
・21〜50⼈  25.3%→80.9%
・51〜100⼈ 30.3%→85.5%
・101⼈以上 37.5%→88.5%

先の2項目のデータから下記が読み取れました。
「従業員規模が20人以下の企業では、2019年時点の実績と2025年時点の見込みのいずれの時点においても、従業員規模が21人以上の企業と比べて、段階1や2の企業が多くなっている」

逆に言うと、下記です。
「従業員規模が21人以上の企業では、2019年時点の実績と2025年時点の見込みのいずれの時点においても、従業員規模が21人以下の企業と比べて、段階3や4の企業が多くなっている」

3項目の当データでは、上記がはっきり見て取れます。従業員規模が大きいほどデジタル化がドンドン進むようです。とくに、2025年見込では20人以下と21人以上での格差が大きくなっています。

4.中小企業のデジタル化のきっかけ

次は中小企業がデジタル化に取り組んだきっかけを、従業員規模別に確認したものです。回答の選択を下記に示します。

⽀援機関等からの推奨
 取引先からのデジタル化の対応要請
 社内からのデジタル化に対する要望
 周囲の経営者からの推奨
 国・⾃治体等の補助⾦等の⽀援策
 競合他社のデジタル化推進の取組
 ITベンダー等からの推奨
 ⾦融機関等からの推奨
 地域の事務⽤品等の販売事業者からの推奨
 ⺠間の著作物(書籍等)・セミナー、その他

(株)野村総合研究所「地域における中⼩企業のデジタル化及び社会課題解決に向けた取組等に関する調査」によります。複数回答です。

●従業員規模別にみたデジタル化に取り組んだきっかけ
(上位3つの回答項目のみ掲載)

20⼈以下(n=4,175)
⽀援機関等からの推奨 37.3%
取引先からのデジタル化の対応要請 27.3%
社内からのデジタル化に対する要望 14.9%

21〜50⼈ (n=626)
⽀援機関等からの推奨 15.7%
取引先からのデジタル化の対応要請 35.5%
社内からのデジタル化に対する要望 39.8%

51〜100⼈(n=205)
⽀援機関等からの推奨 9.3%
取引先からのデジタル化の対応要請 31.2%
社内からのデジタル化に対する要望 49.3%

101⼈以上(n=123)
⽀援機関等からの推奨 9.8%
取引先からのデジタル化の対応要請 33.3%
社内からのデジタル化に対する要望 56.1%

これを見ると、従業員規模が20人以下の企業においては、社内よりも社外からの要請をきっかけとしていることが分かります。一方で、従業員規模が21人以上の企業においては、「社内からのデジタル化に対する要望」が最も多く、社内の従業員等からの提案や要望などがきっかけとなっていることが分かります。

従業員規模による、デジタル化のきっかけの差が明らかです。
・従業員規模が20人以下の企業 社外からの要請
・従業員規模が21人以上の企業 社内からの要請
興味深い差異です。

5.中小企業のデジタル化が進展しない要因

次は、従業員規模別に、デジタル化の取組段階が進展していない要因を確認したものです。4項とは逆の要因となります。回答の選択を下記に示します。

費⽤の負担が⼤きい
 デジタル化を推進できる⼈材がいない
 必要性を感じていない
 デジタル化に取り組む時間がない
 どのように推進してよいか分からない
 従業員の理解が得られない
 相談できる相⼿がいない
 その他
 特になし

●従業員規模別に見た、デジタル化の取組段階が進展していない要因
(上位5つの回答項目のみ掲載)

20⼈以下(n=3,659)
費⽤の負担が⼤きい 34.1%
デジタル化を推進できる⼈材がいない 34.0%
必要性を感じていない 34.8%
デジタル化に取り組む時間がない 28.9%
どのように推進してよいか分からない 29.9%

21〜50⼈(n=356)
費⽤の負担が⼤きい 46.3%
デジタル化を推進できる⼈材がいない 42.7%
必要性を感じていない 18.0%
デジタル化に取り組む時間がない 32.0%
どのように推進してよいか分からない 17.7%

51〜100⼈(n=122)
費⽤の負担が⼤きい 50.8%
デジタル化を推進できる⼈材がいない 36.1%
必要性を感じていない 17.2%
デジタル化に取り組む時間がない 22.1%
どのように推進してよいか分からない 12.3%

101⼈以上(n=71)
費⽤の負担が⼤きい 47.9%
デジタル化を推進できる⼈材がいない 46.5%
必要性を感じていない 18.3%
デジタル化に取り組む時間がない 28.2%
どのように推進してよいか分からない 9.9%

これを見ると、従業員規模が大きい企業では、「費用の負担が大きい」、「デジタル化を推進できる人材がいない」といったデジタル化に取り組むための経営資源の不足を要因として挙げている傾向にあります。

そもそも、デジタル化は種々の経営資源を必要とするのです。製造業では、デジタル化は本業以外での投資と言えます。経営者が持つ将来投資の意識次第です。

さらには、選択肢のひとつ「必要性を感じていない」の企業割合が興味深いです。
・従業員規模が20人以下の企業 必要性を感じていない 34.8%
・従業員規模が21人以上の企業 必要性を感じていない 10%台

先の4項から、デジタル化のきっかけについて、下記が読み取れました。
・従業員規模が20人以下の企業 社外からの要請
・従業員規模が21人以上の企業 社内からの要請

従業員規模が20人以下の企業では、従業員規模が大きい企業と比較して、「必要性を感じていない」、と回答した企業の割合が高くなっています。

そもそもデジタル化の必要性を感じていない割合が高いです。従業員規模の小さな企業では、必要性を感じていないので、デジタル化のきっかけは社内にありません。

「デジタル化の必要性を感じていない」ことはいいことなのか?悪いことなのか?弊社では、中小製造企業に必要な改革の手順のカギはここにあると感じています。

6.デジタル化の目的は仕組みをつくることではない

先日、1年前にご相談をいただいた設備製造企業経営者から再度のご相談がありました。1年間のご相談事項は工程管理の仕組みづくりです。

「ベテランが有している工程管理の暗黙知を若手現場キーパーソンへ移管することが要点であることを確認しましたね。」と弊社は、1年前を振り返りました。

「そうです。その後、先生のアドバイスに沿ってやってみようとしたのですが・・・。」その経営者は、その後の1年間のいきさつを語ってくれました。

当時、その経営者はある生産管理システムを導入しようとしていました。そのシステムを導入すれば、ベテランのノウハウを若手現場キーパーソンへ伝えられると期待していたのです。

そうしてシステムを導入しました。しかし、経営者の期待に反して、暗黙知の移管どころか、システムそのもの活用が進みません。経営者が声を大きくしてシステムを活用するようにベテランと若手を促したのですがダメです。

システム導入の目的は、ベテランから若手への技能継承を促して、工程管理の仕組みをつくることにありました。しかし、いつの間にか、その目的がうやむやになっています。先の経営者は行き詰りました。

少数精鋭の中小現場は火事場の馬鹿力を発揮します。力づくでも仕事を回せるのです。それに慣れている現場は、それでいいだろうと考えます。わざわざ仕事のやり方を変えなくても納期遵守はできるのです。

デジタル化には前提条件があります。仕組みの存在でデジタル化の目的は仕組みをつくることではありません。仕組みを「速く」回すことにあります。

仕組み化→デジタル化→高速化です。デジタル化→仕組み化ではありません。したがって、仕組みがないところでデジタル化を進めても、徒手空拳、システム屋さんに言われるようにやるだけになります。製造現場を知らない外部のシステムメーカーが現場のコアを設定できるわけはないのです。

したがって、デジタル化では、まずは、仕組みづくりをやります。ここがなければデジタル化は上手くいきません。ご支援先でしばしば見かける状況です。

まずは仕組みをつくります。その後、その仕組みを「速く」回すためにデジタル化を進めるのです。仕組みがあれば、現場はそれを上手く回すためにデジタル化をしたいと考えます。仕組みがなければ、そもそもデジタル化をしたいと感じることはないわけです。

1年間、遠回りしただけに、腹落ちした先の経営者の覚悟は確かなものとなりました。

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