戦略的工場経営ブログ貴社のデジタル化は成果が出ているか?

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1.DX化

DX(デジタルトランスフォーメンション)化の重要性は論を俟ちません。少数精鋭の中小製造企業ではなおさらです。 

「デジタルテクノロジーを使用して、ビジネスプロセス・文化・顧客体験を新たに創造(あるいは既存のそれを改良)して、変わり続けるビジネスや市場の要求を満たすプロセスである。デジタル変革とも言われる。」(出典:ウィキペディア)

儲かる工場経営では製販一体で付加価値額を積み上げます。したがって、経営者がやることは外と内、2つあるのです。
①積み上げる付加価値額を「外」から獲ってくる。
②「内」では手際よく付加価値額を積み上る。

前者のためには、お客様に選ばれなければなりません。先述のとおり「ビジネスプロセス・文化・顧客体験を新たに創造(あるいは既存のそれを改良)して、変わり続けるビジネスや市場の要求を満たす」DX化によって儲かる事業モデルを創出するのです。

後者のためには、効率よく造る製販一体体制が不可欠となります。先述のウィキペディアでの定義では触れられていませんが、製造プロセスの効率化も重要な論点です。工場では手離れ良く造ります。製造と販売の連動が要点です。

中小企業白書2022年版は中小企業のDX化状況について取り上げています。

2.デジタル化の取組段階

白書では(株)東京商工リサーチの調査結果を掲載しています。その調査では、デジタル化の取組状況を四つの段階に分けています。
段階1 紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態
段階2 アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態
段階3 デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
段階4 デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態

「段階1」では紙や口頭でのやり取りが中心です。デジタル化による業務の効率化は図られていません。

「段階2」では連絡に社内メールを使用、会計処理・給与計算・売上日報などにパソコンを利用するなど、アナログからデジタルに向けたシフトを始めています。

「段階3」では、業務効率化のための社内規定の整備や業務フローの見直しなどに取り組み、商品・サービス別売上の分析や、顧客管理、在庫管理などに向けたデジタル化に取り組んでいます。「内」の効率化です。

ここに至ると、経営者は右腕役に工場のことを任せられるようになります。管理項目がはっきりしているからです。

「段階4」では、マーケティング・販路拡大・新商品開発・ビジネスモデル構築などのためにデータが統合されたシステムを活用しています。デジタル化による経営の差別化や競争力強化です。

「外」での仕事を強化できます。この水準の論点は儲かる事業モデルづくりです。

貴社はどの水準ですか?

3.中小製造企業の事業方針におけるデジタル化優先順位

中小製造企業の事業方針におけるデジタル化優先順位について、次の3つの時点別に見たものです。

①感染症流行前(2019年時点)

②現在(2021年時点)

③今後(新型コロナウイルス感染症の収束後を想定)

回答数(n):n=1,226

※(株)東京商工リサーチ「中小企業のデジタル化と情報資産の活用に関するアンケート

①感染症流行前(2019年時点)
 事業方針上の優先順位は高い 7.3%
 事業方針上の優先順位はやや高い 29.8%
 事業方針上の優先順位はやや低い 34.8%
 特に必要性を感じていない 23.7%
 分からない 4.5%

②現在(2021年時点)
 事業方針上の優先順位は高い 15.5%
 事業方針上の優先順位はやや高い 41.4%
 事業方針上の優先順位はやや低い 25.4%
 特に必要性を感じていない 14.0%
 分からない 3.8%

③今後(新型コロナウイルス感染症の収束後を想定)
 事業方針上の優先順位は高い 18.8%
 事業方針上の優先順位はやや高い 42.2%
 事業方針上の優先順位はやや低い 21.2%
 特に必要性を感じていない 12.1%
 分からない 5.8%

コロナをきっかけに、中小製造企業でのDX化優先順位がドンドン高くなっています。優先順位が高いとやや高いとを合わせた割合の推移は下記です。
①37.1%→②56.9%→③60.0%

コロナを機会に外部環境が大きく変わったと感じる経営者がその変化に対応するためにデジタル化を進めていると推測できます。

4.今後のデジタル化の優先順位別に見た、感染症流行前後の労働生産性変化と水準

今後のデジタル化の優先順位別に、感染症流行前後の労働生産性変化を示したものです。
2021年時点の労働生産性と2019年時点の労働生産性を比べて増減を計算しています。調査対象は、製造業だけでなく全業種です。

●労働生産性増減(2021-2019)(千円/人)
 事業方針上の優先順位は高い (n=432) ⊿LP=-9
 事業方針上の優先順位はやや高い (n=696) ⊿LP=-205
 事業方針上の優先順位はやや低い (n=305) ⊿LP=-367
 特に必要性を感じていない (n=163) ⊿LP=-346

1.⊿LP(労働生産性の変化)とは、2021年時点と2019年時点の労働生産性の差のことをいう。労働生産性の変化、手元流動性、自己資本比率はいずれも中央値を集計している。
2.労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+賃借料+租税公課)÷従業員数。

DX化意識の高低に関わらず、全ての企業群において、コロナの影響を受けて付加価値額が減少傾向にあったことが分ります。

ただし、DX化優先順位が高い企業群と低い企業群では明らか差があります。優先順位が高い企業は、感染症による影響が比較的小さかったようです。

これは興味深い結果です。今後のデジタル化の優先順位が高い企業では、デジタル化のお陰で感染症の影響をある程度抑えられた経験をしていると推測されます。その結果、デジタル化の意識も高くなっているようです。

5.取組状況別に見た、労働生産性と売上高の変化

現在のデジタル化取組状況(4段階)別に労働生産性の水準と変化、売上高の変化率を示しました。

①労働生産性の水準(2015年)(千円/人)
 段階4 (n=65)     6,514
 段階3 (n=575) 6,555
 段階2 (n=827) 6,341
 段階1 (n=240) 5,879

②労働生産性の変化(2021年と2019年の労働生産性を比べた増減)(千円/人)
 段階4 (n=163)     ⊿LP=824
 段階3 (n=835)     ⊿LP=262
 段階2 (n=584)     ⊿LP=-48
 段階1 (n=120)     ⊿LP=-39

③売上高の変化率(2021年と2015年の売上高(中央値)を比べた増減)
 段階4 (n=243) 13.8%
 段階3 (n=1,092) 2.8%
 段階2 (n=764) -2.9%
 段階1 (n=160) -5.9%

1.⊿LP(労働生産性の変化)とは、2021年時点と2015年時点の労働生産性の差のことをいい、中央値を集計している。
2.労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+賃借料+租税公課)÷従業員数。
3.売上高の変化率とは、2021年と2015年の売上高を比べ、中央値を集計している。
4.取組状況とは現在(2021年時点)におけるデジタル化の状況を指している。
5.取組状況として「分からない」と回答した企業は除いている。

2015年時点の労働生産性の水準について段階1~4で大きな差はなかったようです。そこから2021年にかけての変化率で明らかに差が認められます。
段階1~2の企業は労働生産性、売上高が減少している
段階3~4の企業は労働生産性、売上高が増加している

これは極めて興味深い結果です。

デジタル化に取り組めば儲かると言う因果関係は成り立ちませんが、少なくともデジタル化による競争力の強化やデータ利活用に取り組んでいることで、業績面にプラスの効果が現れている事実があります。

デジタル化には製販一体で儲ける体質に変える力があるようです。

6.デジタル化による業務効率化の状況(段階3~4の企業)

段階3~4の企業、つまり、デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる企業、および、デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる企業での、デジタル化による業務効率化状況を示したものです。

●段階3:デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる企業(n=2,159)
 デジタル化に取り組んでおり、業務効率化を実感している   47.8%
 デジタル化に取り組んでいるが、業務効率化を実感していない 52.2%

●段階4:デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる企業(n=467)
 デジタル化に取り組んでおり、業務効率化を実感している   69.8%
 デジタル化に取り組んでいるが、業務効率化を実感していない 30.2%

1.業務効率化の効果として「デジタル化に取り組んでいない」と回答した企業を抜いた。
 2.取組状況とは現在(2021年時点)におけるデジタル化の状況を指している。

段階4の約7割が業務効率化を実感しているものの、段階3の5割以上は、業務効率化の実感に至っていません。「内」の効率化だけでは成果を実感し難いようです。

結局、「外」を対象にした取り組みにならなければ成果を実感しにくいかもしれません。内を磨いても外から付加価値額を獲ってこない限り人時生産性は高まらないからです。

7.デジタル化による業務効率化の効果(労働生産性の変化)

デジタル化による業務効率化の状況別に、2021年と2019年の労働生産性を比べた増減を示したものです。

●2021年と2019年の労働生産性を比べた増減(千円/人)
 デジタル化に取り組み、業務効率化を実感している企業 (n=627) ⊿LP=215
 デジタル化に取り組んでいるが、業務効率化を実感していない企業 (n=859)⊿LP=166

1.⊿LP(労働生産性の変化)とは、2021年時点と2015年時点の労働生産性の差のことをいい、中央値を集計している。
2.労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+賃借料+租税公課)÷従業員数。

業務効率化を実感している企業は、労働生産性の上昇率が大きくなっています。業務効率化の実感は労働生産性アップで裏付けされているようです。生産性向上は、
・分子の積み上げ
・分母の削減

この2つで実現できます。持続的な成長と発展では前者が重要です。内ばかり磨いても、外から付加価値額を獲ってこない限り人時生産性は高まりません。

せっかく取り組むデジタル化では「内」での業務効率を高めるだけで立ち止まらないことです。「外」にまで効果を波及させます。目指すのは付加価値額の積み上げです。

分母一定、分子積み上げの人時生産性向上を実現させます。

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