戦略的工場経営ブログコストアップ要因を価格に反映できているか?

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1.コストアップ要因を価格に反映できているか?

値決めは経営であるとは稲盛和夫氏の言葉です。@付加価値額=価格-@変動費で計算されることを考えると稲盛氏の言葉が理解できます。経営者が考えるのは@付加価値額を最大化です。やれることは限られます。
価格↑
@変動費↓

この2つです。そして、後者には限界があります。しかし、価格は原則、青天井です。市場価格が存在しますが、お客様に選ばれさえすれば、価格を釣り上げられます。削減の時代から積み上げの時代とお伝えしている所以です。

貴社では儲かる値決めができていますか?

原材料価格やエネルギー価格が高騰している昨今、この変動費アップ分を価格に反映できるかどうかは、積み上げる付加価値額の多寡を直撃します。中小企業白書2022年版では、最近の受注量や単価の変化、コストの価格転嫁状況を取り上げています。

2.中小製造業、2021年の受注量及び受注単価の変化

最も多く取引している販売先との取引において、2021年の受注量及び受注単価の変化を整理します。

受注量が減少している企業が40%程度ある一方、受注量が増加している企業が40%程度あります。また、受注単価が下がっている企業が20%程度ある一方、受注単価をアップできている企業が20%程度あります。

コロナを機会に収益の2極化が進んでいるのかもしれません。

●中小製造業での受注量の変化(2021年)
・受注量(対2020年比)(n=10,371)
50%超減少    1.8%
20%超~50%減少 8.9%
~20%減少 27.0%
変化なし     23.8%
増加       38.4%

●中小製造業での受注単価の変化(2021年)
・受注単価(対2020年比)(n=10,231)
10%超減少    3.1%
3%超~10%減少  5.1%
~3%減少  9.4%
変化なし      65%
増加       17.4%

(注)
1.受注側事業者向けアンケートを集計したもの。
2.最も多く取引している販売先との取引について、2021年の受注量・受注単価を尋ねたもの。

3.中小製造業、コロナ感染症下での販売先数の変化

中小製造業、コロナ感染症下での販売先数の変化を整理します。

20%程度で販売先数がしている。一方で、感染症下においても販売先数を増加させている企業も10%程度あることは注目すべきことです。

●中小製造業でのコロナ感染症下での販売先数の変化
(n=10,370)
減少した24.2%
変わらない68.8%
増加した7.0%
(注)受注側事業者向けアンケートを集計したもの。

4.コロナ感染症下での販売先数の変化の状況別、取引先との接触頻度

コロナ感染症下で販売先数の変化の状況別に、取引先との接触頻度の増減を整理します。

販売先数を増やした企業は販売先数が増えていない、あるいは減らした企業に比べて、接触頻度が2倍です。お客様と接触する努力は新規顧客開拓に寄与できています。

●感染症下での販売先数の変化の状況別に見た、取引先との接触頻度

①販売先数が増加した企業(n=1,489)の取引先との接触頻度
 減少した32.0%
 変わらない43.5%
 増加した24.5%

②販売先数が変わらない企業(n=15,492)の取引先との接触頻度
 減少した34.8%
 変わらない52.9%
 増加した12.3%

③販売先数が減少した企業(n=5,914)の取引先との接触頻度
 減少した43.8%
 変わらない43.8%
 増加した12.4%

5.中小製造業、直近1年間の各コストの動向

中小製造業の原材料価格・仕入価格、エネルギーコスト、人件費、それぞれの変化を整理します。

原材料価格・仕入価格は70%以上、エネルギーコスト(電気料金・燃料費等)は50%程度、人件費は60%程度の企業がコストアップです。

●製造業での、直近1年間の各コストの動向

原材料価格・仕入価格(n=10,408)
 上昇73.3%
 不変23.6%
 低下3.0%

エネルギーコスト(電気料金・燃料費等)(n=10,391)
 上昇48.3%
 不変40.6%
 低下11.1%

人件費(n=10,398)
 上昇60.9%
 不変30.0%
 低下9.2%

(注)受注側事業者向けアンケートを集計したもの

6.直近1年間の各コストの変動に対する価格転嫁の状況

直近1年間の各コストの変動に対する価格転嫁の状況について整理します。

コストの内容によっても、価格転嫁の可否が異なっているようです。原材料・仕入価格は70%程度の企業で価格転嫁ができています。逆にエネルギーコストや人件費の価格転嫁ができていない企業が60%存在しているようです。

●製造業の、直近1年間の各コストの変動に対する価格転嫁の状況

原材料・仕入価格の変動(n=9,101)
 転嫁できなかった32.5%
 一部転嫁できた 49.3%
 概ね転嫁できた18.3%

エネルギーコストの変動(n=8,056)
 転嫁できなかった63.5%
 一部転嫁できた 28.4%
 概ね転嫁できた8.1%

労務費の変動(n=8,070)
 転嫁できなかった61.4%
 一部転嫁できた 29.1%
 概ね転嫁できた9.5%

1.受注側事業者向けアンケートを集計したもの。
2.直近1年の各コストの変動に対して、「転嫁の必要がない」と回答した企業を除き集計している。

7.取引価格や単価の交渉機会の有無別、コストの価格転嫁の状況

取引価格や単価の交渉機会の有無別、コスト全般の変動に対する価格転嫁の状況について整理します。

販売先との交渉機会が設けられていない企業では、「価格転嫁できなかった」とする企業が65%です。交渉機会があれば価格転嫁できる可能性が高まります。黙っていても成果は出ません。

●販売先との取引価格や単価の交渉機会の有無別に見た、コスト全般の変動に対する価格転嫁の状況

交渉機会が設けられている企業(n=15,481)
 転嫁できなかった35.7%
 一部転嫁できた50.5%
 概ね転嫁できた13.8%

交渉機会が設けられていない企業(n=2,771)
 転嫁できなかった64.7%
 一部転嫁できた28.9%
 概ね転嫁できた6.4%
(注)
1.受注側事業者向けアンケートを集計したもの。
2.直近1年のコスト全般の変動に対して、「転嫁の必要がない」と回答した企業を除き集計している。

8.取引価格や単価の交渉の機会のきっかけについて

取引価格や単価の交渉の機会のきっかけについて整理します。

「自社から提案する」や「販売先・自社の双方から提案」が合わせて90%超です。交渉機会は自ら作らないとどうしようもありません。

●取引価格や単価の交渉の機会のきっかけ
(n=19,118)
販売先から提案される 7.1%
販売先・自社の双方から提案される 55.5%
自社から提案する 37.5%

(注)
1.受注側事業者向けアンケートを集計したもの。
2.販売先との取引における取引価格や単価の交渉の機会について「設けられている」と回答した者に対する質問。

9.販売先との交渉の機会が設けられていない要因について

販売先と交渉する機会がない企業は、どうしてその機会をつくれないのかを整理します。

「取引関係が長く交渉の機会が不要であるため」が50%程度と最も高くなっています。一方で、「商慣行として提案が難しい状況にある」や「販売先の意向が強いため」といった回答も30%超となっています。

親企業と下請けとの力関係が存在しているため、容易にこうした状況を変えるのは難しいと推察されますが、我が社の存亡にかかわることです。お客様に働きかけることは重要な経営者の仕事と言えます。

●販売先との交渉の機会が設けられていない要因
(n=3,702)
取引関係が長く交渉の機会が不要であるため 48.5%
商慣行として提案が難しい状況にある 31.3%
販売先の意向が強いため 31.0%
交渉の経験が少なく提案することが困難 6.3%
交渉にあたっての準備をする時間がない 3.6%
その他 10.9%

(注)
1.受注側事業者向けアンケートを集計したもの。
2.販売先との取引における取引価格や単価の交渉の機会について、「設けられていない」と回答した者に対する質問。
3.複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。

10.適正な値決めのために

値決めが企業の命運を決めます。儲かる価格を決定できなければ成長できません。お客様もよし、我が社もよし、市場もよしの価格を決めるためには交渉が必要です。お客様の要望に耳を傾けつつ、我が社の要望も知ってもらいます。信頼関係の上に成り立つ話し合いが「交渉」です。

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