戦略的工場経営ブログ人時生産性向上も人材育成も仕組み次第

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1.人時生産性向上プロジェクトは結局、人材育成に行きつく

儲かる工場経営で目指すのは利益アップと給料アップの仕組みづくりです。

ご支援をしている経営者の方々とお話をしていると、多くの方が事業の持続的な成長とともに従業員の豊かな成長を望んでいることに気付きます。だから付加価値額の人時生産性向上なのです。

3,000円、4,000円を6,000円、7,000円の水準に成長させたいのです。貴社はどれくらいですか?

弊社は事業ステージを高めたいと願っている中小製造企業経営者の方々に人時生産性向上の体系と手順を指導する機関です。

ただし、指導だからと言って、一方的に伝えても定着しません。その企業の風土や雰囲気、現場の特徴を踏まえます。企業にも「性格」があるからです。

経営者ご自身がその「性格」を把握することはなかなかできません。外部の力を借りなければ分からないものです。自分の性格は自分では客観的に知ることはできないと言われます、それと同じです。

そうして、その企業独自の仕事のやり方でいいところは残し、変えるところは変えながら、新たな体系と手順を現場へ浸透させます。

経営改革の成果は2倍、3倍を目指すものです。現場改善の2割、3割とは水準が違います。したがって、改革では現場作業者の水準アップも求められるのです。

それまでできなかったことをできるようにならなければいけません。「できない」を「できる」に変えるのです。人時生産性向上プロジェクトは結局、人材育成に行きつきます。

2.若手育成の場でベテランが語った言葉

現場で人材育成の実務を担うのはベテランや中堅従業員です。弊社のプロジェクトでも人材育成の実務についてベテランや中堅従業員と話し合う機会がしばしばあります。

若手を育成する過程でいろいろな出来事が起きます。教える立場のベテランや中堅従業員の対応は大きく2通りに分類できるようです。

●相手のことを語るAさん
ある部品加工メーカー。ベテランのAさんは新入社員に段取りを教えていた。しかし、その新入社員はその手順を習得するのに時間がかかっている。覚えても忘れることもままあるようだ。手際も悪く時間も想定以上にかかっている。下記がAさんのコメント。
「いくら教えてもダメです。全く覚えてくれません。教えても無駄です。」

●自分を振り返るBさん
ある設備機器メーカー。ベテランのBさんは新入社員にある製品での作業手順を教えた。その後、その新入社員にその製品の仕事を任せた。ところが、その新入社員は手順を間違えてしまった。納期が目前だったため、現場総出でその製品を作り直した。下記がBさんのコメント。
「私の教え方がまずかったかもしれません。教え方を見直さなければ。」

3.AさんとBさんの言動が異なる理由

Aさんの職場では、若手育成は担当者に任せられています。会社として育成のやり方は決まっていないのです。したがって、問題が発生したら、担当者は、教える相手についての自分の感想を言うしかありません。属人的なやり方に留まっているとこうなります。

一方、Bさんの職場では、プロジェクトを通じて育成のマニュアルを作成しました。教える手順が決まっています。成果が出ないのは、皆で決めた教えるやり方が悪いからかも?という発想が出てきます。責めを負うのは若手ではなく、手順の方です。人材育成の仕組みがあるということです。

昨今の多品種少量でモノづくりが高度化、複雑化しています。加えて、少子化で若手採用も難しくなってきました。少数精鋭の中小現場では成果の上がる人材育成が求められます。人材育成は企業生き残りの要件となってきました。少数精鋭ならなおさらです。

これまでのように、経営者が担当者に丸投げ、属人的なやりかたで技能伝承するようではダメです。経営者が意図した人材が育たないうえに、当の若手も嫌になって会社を辞めるかもしれません。

人材育成の仕組みの有無が貴社の命脈を保つのです。

4.ミツトヨでの技能伝承

精密測定機器メーカーのミツトヨの製品にお世話になっている現場は多いのではないでしょうか?ノギスやマイクロメーター、3次元測定器などなど。

このミツトヨが従来の技能伝承の仕組みを強化した「匠マイスター制度」を新たに開始しました。(出典:日経ものづくり2021年9月)

この制度の要点は従来の制度を「強化」した点にあります。裏返しに言えば、従来の制度が上手くいっていなかったということです。うまくいかなくなったので「強化」しました。

ミツトヨ製品で技能を必要とするのは特注品、一品ものです。超高精度3次元測定器や石定盤、直角度マスターなどなど。

加えて、ミツトヨでは製造設備の多くを内製化しています。汎用の工作機械で対応できない重要工程に内製設備が使われているようです。こうした内製設備は匠の技で出来上がっています。

特注品や内製設備が差別化の原動力です。匠の技を伝承していかなければなりません。そこで、91年に技能を学ぶ場として「技能開発センター」を宇都宮事業所内に開設しました。

機械や電気の学科や実技を教える場です。さらに「師匠・師匠補制度」を設けました。優れた技能を持つ人を会社として認定する制度です。当時、若手育成を期待されました。

こうして、今から30年前、若手を育成するセンターを開設し、「師匠・師匠補制度」も設けましたが、技能伝承が行き詰ったようです。

・新たな師匠が育たないうちに師匠や師匠補が次々と退職した。
・技能伝承のスピードが遅い。

原因は若手への教え方が属人的あったことです。

師匠や師匠補は高い技能だけで選んでいます。こうしたベテランが教えることに長けているとは限りません。技は見て盗むものだと言われて腕を磨いてきた人たちです。教わったことがありません。教わったことがないのに教えることができないのは当然です。

さらに、そもそも若手を指導する時間的な余裕がなかったという事情もありました。

5.技能伝承強化の要点

そこで、技能伝承のやり方を強化したのです。

・内製設備を開発、製造、修理や製品の試作を担当する設備技術部に「匠課」を創設した
業務の中で技能伝承させる環境を整備しました。従来は仕事の流れの中でたまたまそこに若手がいて教えるべき技能があったら指導するという「偶然」に任せていたようです。

これでは仕事とは言えません。ベテランもやりにくかったと推察されます。

そこで、教える人と教えられる人をペアにして、匠課に所属させ、業務の中で指導できるようにしたのです。OFF-JTの大切さも論を俟ちませんが、実務を通じた指導にはかないません。

・600以上抽出した技能を分類して「匠の技」を明らかにした
伝承すべき技能を明らかにすれば教える方も教えられる方も伝承技能の体系を思い浮かべやすくなります。つまり、ゴールの共有化です。目隠ししたマラソンでは教えられる方はつらくなります。

また、育成で重要なのは時間軸です。いつまでに教え終わるか?伝承すべき技能の数量が明らかなので教える方は計画が立てやすくなります。

・「匠マイスター制度」で任命された師匠の仕事を明らかにした

「技能研鑽」「会社ならびに社会への貢献」「後継者の育成」3本柱による「匠マイスターの心得」を明文化しました。師匠は期待されることを理解できます。

また、顔写真入りの任命書が各事業所に掲げられました。しっかりやらなければという気持ちが自然に沸きます。さらに、任命にあたり一時金が支払われ、年に一回、経営陣の前で活動内容を報告してもらうことにしました。

ここまでくれば、これはもう「仕事」です。片手間でやることではなくなります。

6.人材育成も仕組み次第

人材育成を「仕事」としてやれる環境の整備が大切です。人材育成は現場丸投げ、担当者任せではいけません。ましてや自家薬籠中の物としてはダメです。

人材育成のやりかたを独自ノウハウとして共有し、人材育成を仕事にできるよう、日常業務に組み込みます。したがって、人材育成にも体系と手順が必要となってくるのです。いわゆる仕組みです。

仕組みがあれば、変更、改訂、ブラシュアップを客観的にできます。先のBさんの言葉です。仕組みがあるから、Bさんはあのような発想になったのです。

ミツトヨでは、もともと、若手への技能伝承に精を出していた師匠はたくさんいたと推察されます。ただし、やり方が任されていて、仕組みがありませんでした。そこで行き詰ったのです。

先のような環境整備のおかげで、技能伝承が地に足がついた取り組みに変わりました。人材育成が「仕事」となったのです。

業務になれば、上司からのフォローと評価が出てきます。ベテランにとっても、人に評価されることはやる気を生み出す機会になっているはずです。

経営者は人に動いてもらう際、「仕事」にすることの重要性を忘れてはなりません。人時生産性向上も人材育成も仕組み次第です。経営者の意志や意図を体系と手順で現場へ浸透させます。

仕組みもなく、経営者からの言葉や指示も言いっぱなしでは、標語やお題目の垂れ流しになるだけです。経営者の本気がいつまでたっても伝わりません。

先の事例で登場したAさんとBさんの言葉の違いは何から生まれたでしょうか?ここに生産性向上や人材育成を成功させる要点があります。現場は人の集まりだからです。

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