戦略的工場経営ブログ相手をリスペクトし仲間を賞賛する雰囲気づくり

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1.日立製作所大みか事業所

日立製作所の大みか事業所では社会的インフラの情報システム開発、製造、保守を手がけています。生産品は制御盤です。その大みか事業所は2020年1月、世界経済フォーラムで世界の先進工場「ライトハウス」に選定されました。

事業所のキーワードは「リードタイム短縮」です。

下記を実践して高効率生産を実現させています。

1)現場でデジタルデータを活用し作業改善を進める。
2)半製品をなくする。
3)設計段階で製品のつくりこみをする。

(出典:日経ものづくり2020年6月)

「リードタイム短縮」には定石があるということです。

2.我流でやっても儲からない

高効率生産現場では手離れのイイ生産が求められます。停滞している仕掛品があったりすると居心地良くありません。

現場は感覚的に「これは異常だ」と感じます。現状が定石とかけ離れているからです。この状況を放置できません。生産管理3本柱を理解している現場はそう考えます。

正しい考え方や知識に基づいた思考を積み重ねた結果、王道の定石ができあがっているからです。我流でやっても儲かりません。

3.生産の流れをつくるお作法を知る

儲かる工場経営の定石のひとつに工程設計があります。「生産の流れ」をつくる具体項目です。統合と分割の2つで考えます。例えば仕掛品の扱い方が論点です。

①工程と工程の間に仕掛品の置き場がある。

②工程と工程の間に仕掛品の置き場がない。

プラントレイアウトを考える時、①か②のどちらかを選択しなければなりません。そしてその選択は次工程との連携のやり方に従います。

・次の工程がトラブっているとき。

・次の工程との同期が不完全なとき。

こうした場合、自分の工程から次の工程へ半製品を送り出せないわけですが、それへどう対応するかは生産の流れを決める要点になります。送り出せないならやれることは2つです。

①仕掛品として、半製品を自分の工程以外の空いたスペースに置く。

②仕掛品として、半製品を自分の工程に留め置く。

両者の違いは、自分自身がとる次の行動です。①では、空いたスペースに置いた後、自分の工程に戻って次の製品に着手します。自工程は止めません。②では、次の工程が製品を受け入れられるようになるまで待ちます。自工程も止まります。

①のコンセプトは設備の稼動を維持させることです。後ろの工程がふん詰まり状況であっても、前工程の設備は止めません。②のコンサプトは仕掛品を最小化することです。後ろの工程がふん詰まり状況になったら、自分の工程を止めます。

②では、止まるのではなく、止めるのです。後ろの工程がふん詰まる状況=問題が発生していると考えます。設備を止めて問題を解決しようというスタンスです。

どちらを選択するかは全体最適化の検討次第ですが、ボトルネックの考え方を知っていれば、理論的な最適解を出せます。我流でやっても儲からない所以です。

リードタイムを短縮させて高効率生産に変えたいのなら、生産の流れをつくるお作法を知っておく必要があります。闇雲にやっても成果は出ません。

4.次の工程と連携する

自分の工程の仕事さえできていればイイ・・・・これは、先の事例で言えば①の考え方です。極力、設備を止めないようにするので、仕事をこなせているような感じにはなります。

ただ、それはあくまで「自工程」での話です。生産ライン全体ではどうでしょう。ボトルネック工程に仕掛品がドンドン溜まっているだけです。出口側の工程でいくら待っても完成品は出てきません。

ボトルネック工程の前と後ろとでは、「流れ」の状況が全く異なります。

そうした事実を知らないで、「自分の工程の仕事さえ・・」という振る舞いをしている限り、全体最適化での成果は出ないのです。自工程を止めて、次の工程との連携に知恵を絞ることも多品種少量生産、特急突発生産への対応では欠かせなくなります。

設備を止めて仕掛品を最小化するという②のコンセプトは中小現場でも大切です。多品種少量生産にしろ、突発特急生産にしろ、問われているのは柔軟性、機動性、小回り性という中小製造現場の本質的な強みだからです。

「止める」は遠回りのようですが、結局、都度、問題を解決することになり、全体最適化のひとつのやり方ということになります。後ろの工程を気にする姿勢が大切です。

製造業ではしばしば「後工程はお客様」と言われますが、相手の立場に立つことが、結局、全体最適化につながるのです。そうして自分も成果を出せます。

「情けは人のためならず」です。工程間連携とは相手の立場で考えることに他なりません。相手のことを思うことができるか、できないかです。貴社での工程間連携はどうですか?

5.相手をリスペクトする

2020東京オリンピックではアスリートの言動に心を揺さぶられました方も多かったのではないでしょうか?メダルを取ったとか取らないとか、勝負事ですから当然、気になることですが、それ以上にもっと大切なことを知る機会にもなったと思います。

敗れて泣き崩れる日本人選手に歩み寄ったメキシコのサッカー選手。

優勝した日本人選手と握手を交わした米国の野球チームの監督と選手。

優勝した日本人選手の手をかかげて称賛した敗者の韓国人柔道選手。

優勝した日本人女性選手を笑顔で称えたフィリピンのボクシング選手。

41歳の日本人ベテラン選手の演技が終わったらスタンドで見守った各国選手や関係者が万雷のスタンディングオベーションでレジェンドをたたえた男子板飛び込み。

等々、心を打つ光景を度々目にしました。枚挙にいとまがありません。勝ち負け以外にも大事なものがあると気が付かせてくれた大会であったような気がします。

その大切なものとは・・・・・。

相手をリスペクトすること。

仲間を賞賛する気持ち。

スケートボード女子パークの決勝で、世界ランキング1位の選手が難易度の高い技に挑戦するも失敗、メダルを逃しましたが、その挑戦に外国の選手たちが肩に担ぎ上げて称えていました。

この場面を目にした方も多いと思います。これまでのスポーツでは見られない光景でした。ただし、このスポーツでは普通なのだそうです。

相手の立場で考えること、相手のことを思うことができること。こうしたしたことが普通にやられる雰囲気がスケートボード競技会にあることを始めて知りました。

相手をリスペクトする姿勢の素晴らしさ。

仲間を賞賛するすがすがしさ。

自分の言動を振り返る機会になった経営者も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?

6.仲間のために貢献したい

リードタイム短縮は人時生産性を高める具体策のひとつです。お作法があるので、闇雲にやっても成果は出ません。だからと言って、生産の流れをつくるお作法を知っていれば、即、成果が出るというと、そういう代物でもありません。相手があるからです。

工程間、前後工程、ライン一気通貫、工場全体最適など、仲間との信頼関係が前提にあります。仲間のために貢献したいという気持ち抜きに成果を出すことはできないのです。

製造業の現場もチームで仕事をしています。この点ではオリンピック競技と同じです。

リードタイムを短縮するための技法は大事な事ですが、それ以上に、仲間のために貢献したい、相手をリスペクトし仲間を賞賛する雰囲気づくりが大切なのです。

若手が頑張れる職場はそんな雰囲気です。少なくともSNSなどで社会問題となっている誹謗中傷、非難の応酬とは真逆の雰囲気です。

経営者の仕事とは若手が力一杯仕事に打ち込める環境を整備することです。環境整備は経営者にしかできません。人時生産性向上の具体策を知るよりも前に、まずは環境整備ということです。

貴社ではどうですか?

環境整備はできていますか?

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