戦略的工場経営ブログ経営者は伝えたつもりになっていないか?

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1.伝えたつもりになっていないか?

「経営者が考えているほどに現場は経営者のことを理解していない。」

ご支援先の現場でしばしば感じることです。経営者は自分の思いや意志を伝えたと考えています。しかし、現場は教えてもらったことはないと感じています。

経営者と現場では、持っている情報量に大きな差があります。経営者はよほど丁寧に現場へ語らないとギャップは埋まりません。あえて伝えないと伝わらないのです。

5人~10人程度の組織なら語らずとも考えが浸透するかもしれません。阿吽の呼吸です。しかし、組織の規模が大きくなるとそうはいきません。人間関係の規模が大きくなるとその質も変わります。規模に合せて伝え方を変えないと伝わらないのです。伝えたつもりになっていませんか?

2.人間関係の質と規模の関係

「情報は上から下の一方通行ではなく、相互に横に流れる。」インターネットにおける情報の流れを説明した表現です。この「横の情報の流れ」を体系化して説明した人がいます。「Grouped」を著したPaul Adams氏です。人間関係の規模と質を結び付けて体系化しました。

5人規模:家族や親友など、精神的支えや困ったときの助けを求めることのできる相手の平均的な人数。家族とか親友とか自分にとって最も大事な人たちの数。

15人規模:社会心理学がシンパシーグループと呼ぶ人たち。家族や親友ではないが、その人が亡くなれば大きな悲しみを経験するような人の数

50人規模:比較的頻繁にコミュニケーションを取る人の数。

150人規模:人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数。人間の頭脳の大きさで決まる数字で、一人ひとりの名前を覚えていて、だれがだれだかをはっきり認識できる人の数。

(出典:インフルエンサーより「仲のいい少人数グループ重視」の時代へ 書評「Grouped」【湯川】12年4月9日TECHWAVE)

ちなみに、150人は「ダンパー数」と呼ばれています。1990年代に、イギリスの人類学者であるロビン・ダンバーによって初めて提案されました。霊長類の脳の大きさと平均的な群れの大きさとの間に相関関係を見出したことによります。

ダンバーは、平均的な人間の脳の大きさを計算して、人間が円滑に安定して維持できる関係は150人程度であると提案しました。古代から中世にかけての集落の数は、だいたい150人程度だったようです。(出典:Wikipedia)

5人、15人、50人、150人という数値は興味深いです。中小製造企業経営者が「一人」で掌握できる人数の目安も150人程度と考えられそうです。Paul Adams氏の考え方は中小製造現場の組織づくりに応用できます。

3.事業成長の過程で直面する3億の壁、10億の壁

平成27年度調査中小事業実態基本調査に基づく中小企業の財務指標(中小企業診断士協会編)によると、製造業一人当たり売上高は従業員21~50人で18,577千円/人、51人以上で22,429千円/人です。そこで、中小製造企業従業者一人当たり売上高を2千万円とします。

先ほどの5人、15人、50人、150人と結び付けると次のようになり

5人 1億円
15人 3億円
50人 10億円
150人 30億円

3億の壁、10億の壁・・・。事業が成長する過程で直面する壁と言われる売上高規模です。それと類似した数値になっています。

事業が成長するのに合わせて組織も成長しなければなりません。150人というのが経営者は一人で従業員一人ひとりの名前を覚えていて、だれがだれだかをはっきり認識しながら、事業を回せる目安と考えられます。

ただし、150人以下でも、経営者とのかかわり方の質に違いがあります。その目安が5人、15人、50人です。従業員数が増えるにしたがい、経営者は認識できるけれども、経営者との関わり合いが薄い従業員が増えてきます。

そうした人達にどのようなメッセージを送るのか?経営者の重要な仕事です。

事業の成長に組織の成長が追い付かず、経営者が力尽くで現場を回すこともあるでしょう。こうしたとき、経営者は事業の成長と組織の成長とのギャップを感じます。このギャップが「壁」と認識されるのかもしれません。

4.従業員規模と仕組み

「Grouped」を著したPaul Adams氏の説明した「5人-15人-50人-150人」を仕事に当てはめると、経営者を支援するチームは経営者自身を含めて5人程度が適当であるとなります。経営者を意志や意図を「完全」に理解するメンバーの規模はこれくらいが適切ということです。

もしかしたら、この規模で事業展開できるのがベストなのかもしれません。

しかし、製造業の場合、ある程度の規模が求められます。製造業で投入工数と付加価値額は比例関係です。付加価値額の規模を大きくしたかったら原則、投入工数を増やすしかありません。10人、20人、30人・・と増やします。

そして、人員が増えるにしたがって、問われるのが仕組みの有無です。15~30人までなら、仕組みが無くても、経営者の号令で現場を回せます。弊社がご支援している現場を見ているとそう感じます。

当然、業種業態や現場のチーム力次第ですが、30人規模、売上高3~5億円程度までなら力尽くでも仕事をこなすことは可能です。中小製造企業のロードマップでマイルストーンと設定するとしたら、一つ目はこのステージです。

15人までは「悲しみを感じてくれる人」の集団をつくれる規模なので、家族的経営でも行けます。

問題はその後、15~50人規模までの過程です。ここまで増えてくると、コミュニケーションをとっていますという程度の集団です。力尽くで回すやり方から仕組みで回すやり方へ移行しないと経営者が徐々に辛くなります。30人~50人規模、10億円の壁です。

50人以上の規模、10億円の壁を超えると力尽くで事業を回すのはいよいよ難しくなります。経営者との関係性を構築できるものの、繋がりの希薄な従業員が増えてくるからです。仕組みが重要な役割を果たします。150人が目安になりそうです。「任せる」が論点になります。

人間関係の質は規模とともに変わります。

阿吽の呼吸で仕事ができるパートナーの水準~顔と名前が一致する程度の水準まで。

「5人-15人-50人-150人」は規模の目安になりそうです。

経営者も含めて5人程度で2~3億円規模の事業を展開する水準が最も密度の濃い仕事ができるのかも知れません。ただ、製造業の場合、占有率を高める、業界で存在感を示すために「ある程度」の規模も必要です。雇用の創出で地元に貢献するためにもそうなります。

事業成長発展の過程で15人以上の規模を目指すことになるでしょう。家族ほどの親密さはないけど、コミュニケーションを交わす水準の従業員には経営者の意志を知ってもらう必要が出てきます。

家族ほどの親密さはありません。阿吽の呼吸は難しいのですからしっかり伝えることです。最早、以心伝心も無理です。丁寧に伝えます。

従業員は経営者自身が思うほど、経営者のことを理解していません。経営者の意志や意図を従業員に伝えたつもりになっていることが少なくないのです。実は伝わっていないこともあります。

5.経営者の意志や意図を伝える具体策

弊社がご支援するときはプロジェクトの手法を使います。

期間限定でPDCAを回し成果を出すのがプロジェクトです。経営者の意志や意図を伝える役割も果たします。日頃の生産活動とは異なる取り組みです。あえてやります。ここに経営者の意志や意図が含まれるのです。

プロジェクトを通じて、経営者は現場へ意志や意図を浸透させられます。15人以上の規模にあると阿吽の呼吸は通じません。浸透させようとしない限り浸透させられないのが経営者の意志や意図、考え方や思考回路です。プロジェクトはその機会になります。

6.プロジェクト3種の神器

プロジェクトはただやればいいというものではありません。プロジェクトを成功させる3種の神器があります。


1)経営方針
2)プロジェクト名
3)合い言葉


プロジェクトは経営方針に従います。そしてプロジェクトには特定の目的があります。したがって、この3つの構造が揃ってこそ、従業員は経営者の意志や意図を理解できます。

これ抜きでは上手くいきません。多忙な生産活動に飲み込まれて、活動そのもの、雲散霧消するのが関の山です。納期遵守以外の仕事です。大義名分が明らかになっていない限り、後回しにされます。3種の神器が必要です。経営者の意志や意図を伝えることに他なりません。

Paul Adams氏の説明した「5人-15人-50人-150人」は興味深い考え方です。人間関係の規模と質の相関、経営者が一人で掌握できる人員数規模を考える手がかりを与えてくれます。

経営者は伝えたつもりになっているけど、伝わっていないことが多くないですか?

15人以上の従業員での阿吽の呼吸や以心伝心は無理です。そこまで密な人間関係ではないのです。あえて伝えないと伝わりません。プロジェクトが解決の手段になります。

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