戦略的工場経営ブログ仕事のやり方を変えてエンゲージメントを高める
1.日本的経営3種の神器
高度成長期と平成バブルまでの経済成長を支えた日本的経営3種の神器と言われるものがあります。
・終身雇用
・年功序列
・企業別労働組合
高度成長期とは戦後から1973年の第1次オイルショックの頃までのことです。経済成長率の平均が9%前後でした。そこから平成バブルまでは平均が4%前後です。
3種の神器は全て人の扱い方に関係しています。ここが日本的と言われる所以です。人の扱い方に日本の経営の特徴があると言われてきました。(出典:経営学入門 伊丹敬之・加護野忠男著)
終身雇用には従業員にも企業にもメリットがあります。企業のメリットは大きく2つです。
・企業へのコミットメンとモチベーション
・ノウハウと技術の蓄積
企業が成長発展すればするほど、従業員自身も経済的、業務的に成長発展できるのだという思いが浸透している企業風土なら、従業員は一層頑張ろうとします。自分も豊かになるのです。そうした中堅、ベテランの姿勢は若手へ波及します。
また企業でイノベーションを起こすノウハウと技術は,従業員1人ひとりによって具体化されなければならない「体化されるもの」です。人が流動的では組織に蓄積できません。雇用が継続的であれば蓄積も増えます。頑張ろうという気持ちが生まれるものです。
2.時代の流れに合うやり方でエンゲージメントを高める
同様に年功序列と企業別労働組合も従業員と企業にメリットをもたらしました。ただし、今や終身雇用をはじめとする3種の神器が話題に上がることはありません。時代の流れです。価値観や仕事観が大きく変わりました。
しかし、3種の神器を機能させる前提条件は今でも重要な役割を果たしています。少数精鋭の中小製造現場ならなおさらです。
前提条件とは、従業員のエンゲージメント(engagement)です。経営者が従業員に最も抱いて欲しいものです。自分の会社に対する思い入れや愛着心、会社の発展に貢献したいという自然な感情のことです。これらがあるので3種の神器が機能しました。逆もまた真なりです。
・エンゲージメントがあったので3種の神器が機能した。
・3種の神器があったのでエンゲージメントが機能した。
これからは時代の流れに合うやり方で従業員のエンゲージメントを高める必要があります。3種の神器以外のやり方です。
3.従業員のエンゲージメント調査
従業員のエンゲージメントについて興味深い調査手法があります。アメリカの心理学者フランク・L・シュミット博士が世論調査会社・ギャラップ社(米国)とともに開発した「Q12(キュートゥエルブ)」という従業員エンゲージメントサーベイです。
従業員に下記の質問をします。
Q1:職場で自分が何を期待されているのかを知っている
Q2:仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
Q3:職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられている
Q4:この1週間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
Q5:上司または職場の誰かが、自分を一人の人間として気にかけてくれている
Q6:職場の誰かが自分の成長を促してくれる
Q7:職場で自分の意見が尊重されているようだ
Q8:会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる
Q9:職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
Q10:職場に親友がいる
Q11:この6カ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
Q12:この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった
回答を数値化し基準を定めて評価します。
4.ギャラップ社のグローバルな調査結果
ギャラップ社ではグローバルな調査をしました。結果の一部を下記に示します。
従業員のエンゲージメントを3段階で評価しています。
・熱意あふれる社員
・普通の社員
・風委に不満をまき散らしている無気力な社員
3段階の合計が100%になるように評価しています。日本を含めたグローバルな地域別の評価です。
●経営者にとって頼りになる「熱意あふれる社員」の割合
北米 31%
南米 27%
東南アジア 19%
日本 6%
●機会を与えれば活躍してくれるだろう「普通の社員」の割合
北米 52%
南米 59%
東南アジア 70%
日本 71%
●経営者にとっては残念な「周囲に不満をまきちらしている無気力な社員」の割合
北米 17%
南米 14%
東南アジア 11%
日本 23%
出所:State of the Global Workplace 2017: GALLUP
5.質問が問いかけていること
熱意あふれる社員の割合が6%にとどまっています。グローバルで比較すると際立って低い数値です。また「周囲に不満をまきちらしている無気力な社員」の割合が23%と逆にこちらはグローバルで比較して高くなっています。
国内企業従業員のエンゲージメントはそんなに低いのだろうか?という素朴な疑問は浮かびます。その一方で、弊社がご支援で伺う企業様の現場で、こうしたエンゲージメン問題に直面している事例に出会うことがあるのも事実です。この問題に直面している状況では人時生産向上活動の云々以前となります。
グローバル比較で、国内従業員エンゲージメンがここまで劣後しているのが現状を正確に反映しているのか否かはわかりません。しかし、この結果は、エンゲージメント問題を解決したいと考えている経営者に手掛かりを与えてくれます。
12の質問は企業側の姿勢に関係しています。仕事をするための動機や環境の有無、仕事への貢献を具体化しているか否か、チーム力を発揮しやすくしているかどうかなどなど。これらは全て経営者が意図して設定するものです。自然発生的にそうなるものではありません。
6.日本独自の会社観
会社や経営者をどのようなものと考えるか?社会学では次のような指摘があります。(出典:東洋経済オンライン 20年2月10日「人望のないゴーン」逮捕が招いた意外な副作用 リーダーに人格を求める考え方はもう古い? 日沖健)
「日本的会社観」
会社は家族のような共同体的組織(ゲマインシャフト)で経営者は家父長として家族である従業員を守る。子供が愛情を注いでくれる父親を慕うのと同じで、従業員は経営者に高潔な
人間性を求める。
「欧米的会社観」
会社は機能的組織(ゲゼルシャフト)で経営者は経営機能を遂行する責任者である。従業員から見たら、きちんと経営して業績を上げ、高い給料を払ってくれれば十分でそれ以上の人間性を求めていない。
日本人が会社という組織に求めるものは欧米人と異なるという考え方です。イイとか悪いとかという話ではなく、日本人が持つDNAのようなものかもしれません。
7.経営者の現場に対する思い込み
比較すると日本企業独自の雰囲気が見えてきます。そして経営者が自然と持つにいたる思考回路は次のようなものです。
・阿吽の呼吸
・「言わなくても伝わるだろう。」という思い込み
・「一回言えば分かるだろう。」という思い込み
・社内のコミュニケーションは自然にあるものとの誤解
家族のような組織で経営者は家父長のような存在であるならこうした思い込みや誤解はしょうがないかもしれません。家父長ですから箸の上げ下ろしには口やかましいです。
経営者の仕事が「業務の指示」になりがちです。家族の今が気になります。
一方、経営者が経営機能を遂行する責任者であるなら振る舞いが変わります。結果を出すことが求められているのです。従業員には貢献して欲しいことを具体的に提示しなければなりません。
成果を出すためです。進捗をフォローし、最終結果を評価します。焦点が成果に当たっていれば自然とそうなるのです。
また、会社の5年後、10年後の見通しを示すことがエンゲージメントを高めるのに効果的であるとの研究報告があります。
見通しを全く示していない職場で離職願望が70%であったのに対して、見通しをしっかり示すと離職願望が20%にまで下がるとの結果です(出典:組織文化の経営学 高橋伸夫編)。
8.「現場へ業務を指示する」を変える
こうした結果を踏まえれば、経営者にとって頼りになる「熱意あふれる社員」の割合が低く、経営者にとっては残念な「周囲に不満をまきちらしている無気力な社員」の割合が高い現状を打破する具体策が浮かびませんか?
経営者は5年後、10年後の見通しを示して、貢献して欲しいことを各自に伝え、その進捗をフォローし、結果を評価する。
経営者の仕事は将来を向いています。市場やお客様の変化、時代の流れなど「外」を知っている経営者にしかできない仕事です。
将来を見せるのです。将来への貢献を期待感とともに現場へ伝えます。現場に具体業務を考える機会を与えるのです。
経営者に期待されて、自分で考えた仕事ですから当事者意識がわきます。それを評価されれば誰でもうれしいものです。承認欲求を満たす環境を作ります。「私がやらねば。」という思いも生まれやすくなるはずです。
経営者が現場へ業務の指示をしているうちは変わりません。言われたことはやっつけ仕事にしかならないのは明らかです。
経営者の仕事は「外」にあります。「内」にはありません。「内」を現場に任せる体制が必要です。
「現場へ業務を指示する」から「進捗をフォローし結果を評価する」仕事に変えた方が経営者は楽になります。現場の自発性が高まり、結果、エンゲージメントも高まるからです。
経営者は社長業に専念できます。
従来の強みやいいところは今後も継続ですが、時代の流れを読み、欧米のやり方で使えそうなところは取り入れます。グローバルで戦う中小製造企業なら変えるべきことは変えたいです。