戦略的工場経営ブログ大きな改革は繰り返し語る事から始める

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1.「トヨタ生産方式」大野耐一氏の言葉

トヨタ自動車元副社長、大野耐一氏の著書「トヨタ生産方式」には副題があります。
「脱規模の経営を目指して」

「トヨタ生産方式」が出版されたのは1978年、今から43年前のことです。当時、1973年のオイルショックをきっかけに高度成長期が終焉を迎え、経済成長率は下がっていました。

経済成長率平均値の推移
1956年~1973年 9.1% 高度成長期
1974年~1990年 4.1% 第一次オイルショック~平成バブル
1991年~1919年 0.9% 
※経済成長率とは実質GDPの対前年度増減率(出典:内閣府 令和2年度 年次経済財政報告の統計データより算出)

経済成長率は高度成長期の半分にまで低下したのです。大野氏は高度成長期のイケイケ雰囲気に警鐘をならしました。低成長経済時代の工場経営がどうあるべきかを考えなければならないとも説きました。それが「脱規模の経営を目指して」です。

製品の性質上、多品種化への対応にも言及しています。大野氏の答えがトヨタ生産方式です。今から40年以上も前にそうした着眼点を持っていたトヨタのスゴさを感じずにはいられません。

今でこそ「普通に」語られるトヨタ生産方式ですが、当時は現場からの反発も大きかったようです。それを粘り強く、地道に、繰り返し、繰り返し言って聞かせました。意識が変わらないと実現できません。経営者層のリーダーシップが問われます。

大野氏は次のように語っています。

厳しい低成長経済時代の企業経営がいかにあるべきかについては、すでに多くの議論が積み重ねられてきているが、私企業としては、ここはなにがなんでも、ふんばらなくてはならない。

トヨタ生産方式は、生産現場からムダとムラとムリを徹底的に追放してきた。トヨタ生産方式は、決して消極的な守りの経営ではない。

在来の経営体制、たとえば計画的量産体制を全面的にトヨタ生産方式に切り替えるとするならば、積極性を超えて超積極的な経営姿勢が打ち出されないと、中途半端に終わってしまい、逆に大混乱が起きる危険がある。

トヨタ生産方式はいわば意識革命である。考え方を根本から改める必要があるため、力強い賛成の声と同時に、批判の声も私の耳に入ってくる。

批判される理由を求めると、すべてがトヨタ生産方式のなんたるかを、まだ十分に理解してもらっていないことにつきる。

私どもの側でも、むろん、トヨタ生産方式の本質がなんであるかを十分に知ってもらう努力を欠いてきたうらみがある。(出典:トヨタ生産方式 p131)

2.新しいことをやり切るのは、経営者層の胆力次第

当時、繊維産業は構造不況業種と言われていました。根本的に事業構想を変えないと再建はできないわけですが、低成長経済時代になり自動車産業も構造不況産業に転落しないとも限らないとの危機感があったようです。

成長率が半減し、低成長時代に変わりました。在来のやり方では生き残れないと考えたわけです。在来のやり方、考え方を大きく変えなければなりません。生き残りを掛けたやり方がトヨタ生産方式でした。それが当時のトヨタ生産方式の位置付けです。

成長率が半減し、世の中の価値観や仕事観、社会観に大きな変化があったはずです。公害問題が認識され始めた頃でもあります。経営者層は「変わらないと生き残れない」との想いを強くしたはずです。

しかし、現場をはじめとして多くの関係者は在来のやり方に固執していたとも推測されます。どんな時代でも、新しいことに挑戦しようとすると抵抗勢力が出てくるものです。

それに対峙して新しいことをやり切るのは、経営者層の胆力次第。これ以外ありません。大野氏の言葉から知ることができます。

・積極性を超えて超積極的な経営姿勢が打ち出されないと、中途半端に終わってしまう。
・意識革命である。
・本質がなんであるかを十分に知ってもらう努力を欠いてきたうらみがある。

トヨタ生産方式は意識革命だというのです。そして、それができないのは経営者側の努力不足なのだとも語っています。経営者層が“超積極的”に働き掛けてこそやり切れるのが意識革命です。全ての責任は経営者側にあります。

弊社ご支援先の企業で人時生産性プロジェクトに着手したときに、経営者や幹部から出てくる次のよな言葉をしばしば耳にします。

「現場が自主的に動かない。」
「現場はできないと言ってくる。」
「現場には責任感が足りない。」

大野氏の言葉を知れば、経営者層の考え方に何かが足りません。そもそも「責任」というのは経営者側にしかないものです。

3.語ること、伝えること、知らせることは経営者の仕事

「言えば伝わるものだ。」「言わなくても分かっている。」と思い込んでいませんか?

経営者の頭の中は見えません。簡単に伝わらないです。大野氏の表現を借りれば、「努力」をしないと分かってもらえないのです。分かってもらえない原因は分かってもらいたいと考える方にあります。

社内コミュニケーションは自然発生的に存在するものではありません。意図して、意識して計画的にやらないと腹を割って意見交換をする水準には至らないのです。経営者が阿吽の呼吸に依存するようでは論外です。

改革プロジェクトでは、誰でも分かるように「改革」を言語化、数値化するスキルが求められます。大きな変化を現場に分かってもらわないとなりません。語ること、伝えること、知らせることは経営者の仕事です。

4.トヨタ生産方式は意識改革

大野氏は4%の経済成長率を低成長経済時代と言っていました。その低成長経済時代に持続的な成長を遂げるため、新しい仕事のやり方を考え、それを定着させようとしました。先の引用文に「計画的量産体制を全面的にトヨタ生産方式に切り替える」とありますが、これです。

計画的量産体制とはいわゆる「押し出し方式」のことです。コントロールセンターがあって、そこから提示される指示にしたがって、製品を次工程へ送り込みます。ただし、自動車のような多品種製品の場合、「押し出し方式」でジャストインタイム生産をやるのは難しいです。そこで考えられたのが「押し出し方式」と「引っ張り方式」の組み合わせ、トヨタ生産方式になります。

・最終組立工程は受注生産による「押し出し方式」
・前工程は見込生産による「引っ張り方式」

前工程は場内にある機械加工工程、サブ組立工程、鍛造・プレス・鋳造工程、各種成型工程や部品・材料仕入先、それと加工外注先が該当します。

前工程での仕事のやり方は、最終組立工程とは真逆です。これまでの意識を変えなければ実現できません。トヨタ生産方式は意識改革だという所以です。信念を持った強力な経営者層のリーダーシップがなければなし得ないことです。

時代の流れを読んで、大きな変革、イノベーションを現場に起こすことができました。経営者層が繰り返し、繰り返し、繰り返し、地道に現場へ説いて、語った成果です。

5.競合にできない無理難題に挑戦する

今、まさに大きな変化の流れの中にいます。従来の仕事にやり方を変える絶好の機会です。どんなことを現場へ説いて、語りますか?「現場が自主的に動かない。」「現場には責任感が足りない。」とか言っているようではダメです。その努力が必要なのです。

あのトヨタ自動車もそうでした。成長率が半減の時代になって、大野氏は「低成長時代だ」「脱規模の経営だ」と説いて、現場へ知らせたのです。

大きな改革は、経営者層が繰り返し、繰り返し、繰り返し、地道に現場へ説いて、語る事から始めます。日々の業務に忙しい現場は「外」の変化に気付きません。経営者の言葉で「外」の変化に気付いてもらうことが必要です。

変わらないと生き残れない・・・そういう状況に直面していると知らせます。そうして現場のベクトルを揃えるのです。大きな変化に対応するために、改革のスケールが大きくなれば大きくなるほど成果も大きくなります。

ただし、簡単なことではありません。だからこそ挑戦です。経営者層が繰り返し、繰り返し、繰り返し、語ります。手間が掛かるからこそ挑戦です。簡単にできることは、既に競合でもやっています。競合にできない無理難題に挑戦してやり切るからこそ持続的成長ができるのです。人時生産性を2倍、3倍のスケールで向上させられます。

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