戦略的工場経営ブログ創造意欲を持ってリスクに立ち向かっているか?
中小企業白書2024年版では「中小企業の成長」について下記のように説明しています。
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日本の経済・社会構造の中長期的な変化や、足下の環境を踏まえると、域内経済の
牽引や外需拡大に貢献し、賃上げを可能とする持続的な利益を生み出す企業の存在が
重要である。
特に中小企業は、所有と経営の一致等を背景に、小回りの利いた経営やイノベーションに向けた取組が可能であり、1社でも多くの中小企業がこうした特徴をいかし、価値創出に取り組み、中長期的に成長を遂げることで、日本経済の発展を促し、生産性を高めることが期待される。
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白書では、中小企業の経営方針の変化や、経営方針別に見た、投資行動への取組状況や業績動向について解説をしています。そして、分析のため、企業の経営方針を「リスク選択性向」で分類しています。
具体的には、下記の2つです。
・「損失を避けるために静観するべき(投資行動等は行わない)」
・「新たな需要を獲得するための行動をするべき」あるいは「付加価値を高めるための行動をするべき」
前者の経営方針を掲げている企業を「投資に消極的な企業」として捉え、一方、後者の経営方針を掲げている企業を「成長投資に意欲的な企業」として捉えています。
なお、これらは企業家的傾向(Entrepreneurial Orientation)の尺度として挙げられる分類のようです。白書は企業家的傾向を次のように説明しています。
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久保(2005)は、「企業家的傾向(Entrepreneurial Orientation)」を、「企業の戦略オペレーションのうちアントレプレナーシップに関連するもの」と定義した上で、アントレプレナーシップは、「企業家が不確実性の中に機会を見出し、リスクを取りながらイノベーションを達成し(機会を活用し)、そこから得られる企業家レントを追求する行動やプロセス」であり、新たな製品やサービスを生み出すことにつながることから、スタートアップ企業のみならず既存企業においても重要であると指摘している。
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白書では、見通しがつかなく、経済的な損失を被る懸念がある状況でも成長の機会を手にしようと挑戦する企業とそれをしない企業の「成長への投資行動差異」を分析しています。出典は全て中小企業白書2024年版です。
1.2020 年及び2023 年における経営方針
2.「新たな需要を獲得するための行動をするべき」、「付加価値を高めるための行動をするべき」と考える理由
3.「損失を避けるために静観するべき(投資行動等は行わない)」と考える理由
4.業績の変化率(経営方針別、中央値)
1.2020 年及び2023 年における経営方針
まずは、中小企業の経営方針と投資意欲の変化について確認します。下記は、中小企業の経営方針を2020 年と2023年で比較したものです。
●2020 年及び2023 年における経営方針
(1)2020年 (n=18,373)
・新たな需要を獲得するための⾏動をするべきとした企業 30.3%
・付加価値を⾼めるための⾏動をするべきとした企業 32.9%
・損失を避けるために静観するべき(投資⾏動等は⾏わない)とした企業 36.7%
(2)2023年 (n=19,025)
・新たな需要を獲得するための⾏動をするべきとした企業 41.3%
・付加価値を⾼めるための⾏動をするべきとした企業 47.1%
・損失を避けるために静観するべき(投資⾏動等は⾏わない)とした企業 11.6%
2020年に比べて、2023年では、「新たな需要を獲得するための行動をするべき」、「付加価値を高めるための行動をするべき」と回答した企業の割合は、合計で約9割を増えています。今、中小企業の投資意欲が高まっているようです。挑戦しなければ、生き残れないと考える経営者が増えています。
2.「新たな需要を獲得するための行動をするべき」、「付加価値を高めるための行動をするべき」と考える理由
下記は、企業が2023年における経営方針について「新たな需要を獲得するための行動を
するべき」、「付加価値を高めるための行動をするべき」と考える理由について確認したものです。
●「新たな需要を獲得するための行動をするべき」、「付加価値を高めるための行動をす
るべき」と考える理由(複数回答)
利益を上げるため 71.3%
賃上げ等により従業員の生活を豊かにするため 58.8%
事業継続のため 51.5%
競争力を維持するため 51.2%
企業の安定化・リスク分散のため 44.7%
自社の経営ビジョン実現のため 37.4%
社会・経済の発展に貢献するため 30.2%
地域の雇用を支えるため 13.6%
その他 0.8%
特にない 0.4%
これを見ると、「利益を上げるため」が最も多く、次いで「賃上げ等により従業員の生活を豊かにするため」となっています。利益アップと給料アップは多くの経営者の願いです。だから人時生産性を高めるのです。
また、約半数の企業は、「事業継続のため」と回答しています。刻々と変化する外部環境に対応するには、投資行動などの新たな取組に着手する必要があるとの考えを持っている経営者も少なくないようです。
3.「損失を避けるために静観するべき(投資行動等は行わない)」と考える理由
下記は、企業が2023年における経営方針について「損失を避けるために静観するべき(投資行動等は行わない)」と考える理由を見たものです。
●「損失を避けるために静観するべき(投資行動等は行わない)」と考える理由
リスクに見合う結果が得られるとは思えないから 49.3%
行動を起こすための資金が足りないから 30.6%
行動を起こすための人材が足りないから 29.3%
行動を起こす余力がないから 20.7%
具体的な行動内容のアイデアがないため 16.0%
取引先の動向が分からないため 14.5%
同業他社の動向が分からないため 5.9%
その他 6.3%
特にない 4.9%
これを見ると、「リスクに見合う結果が得られるとは思えないため」が最も多くなっています。この結果は当然と言えます。投資をする前に需要の有無を調査するのは、投資でのお作法です。
我が社を選んでくれるお客様の見込みもないのに投資に踏み出すのは無謀すぎます。なんとかなるだろうとの甘い見込は概ね実現しないものです。事前に投資効果を明らかにしなければなりません。
さらに、およそ3割の企業が「行動を起こすための資金が足りないため」、「行動を起こすための人材が足りないため」と回答しています。ただ、2項目以降は、ほとんど、「できない言い訳」のようです。そうできていないのは、全て経営者の責任であるとも言えます。
成果は従業員が出してくれる一方、失敗やできない原因は全て経営者にあります。是が非でもやりたい事があれば、外の力でもなんでも使ってでも、なんとしてもやりとげるのが経営者です。
4.業績の変化率(経営方針別、中央値)
中小企業の経営方針と業績動向の関係について確認します。下記は、企業の経営方針別に売上高、経常利益、労働生産性の変化率(中央値)を見たものです。
ここでの経営⽅針は、2023年における経営⽅針です。変化率は2022年と2017年を比べたものです。なお、対象企業全体の中央値は、売上⾼の変化率0.4%、経常利益の変化率33.4%、労働⽣産性の変化率0.4%となっています。
(1) 売上⾼の変化率(2022年と2017年を比べた)(中央値)
新たな需要を獲得するための⾏動をするべきとしている企業(n=7,614)
0.9%
付加価値を⾼めるための⾏動をするべきとしている企業(n=8,729)
1.6%
損失を避けるために静観するべき(投資⾏動等は⾏わない)としている企業 (n=2,130)
▲6.0%
(2) 経常利益の変化率(中央値)(2022年と2017年を比べた)(中央値)
新たな需要を獲得するための⾏動をするべきとしている企業(n=3,138)
40.6%
付加価値を⾼めるための⾏動をするべきとしている企業(n=3,761)
31.5%
損失を避けるために静観するべき(投資⾏動等は⾏わない)としている企業 (n=730)
18.8%
(3) 労働⽣産性の変化率(中央値)(2022年と2017年を比べた)(中央値)
新たな需要を獲得するための⾏動をするべきとしている企業(n=3,975)
1.3%
付加価値を⾼めるための⾏動をするべきとしている企業(n=4,669)
0.4%
損失を避けるために静観するべき(投資⾏動等は⾏わない)としている企業 (n=1,008)
▲2.2%
売上高については、「付加価値を高めるための行動をするべき」と回答した企業で最も増加しています。経常利益及び労働生産性については、「新たな需要を獲得するための行動をするべき」と回答した企業で最も増加しています。
興味深いのは、投資行動に消極的な企業の売上高及び労働生産性の変化率が負の水準となっていることです。そもそも、我が社が、
・新たな需要を獲得するための⾏動をするべきとしている企業
・付加価値を⾼めるための⾏動をするべきとしている企業
・損失を避けるために静観するべき(投資⾏動等は⾏わない)としている企業
のうちのどれであるかは、経営者自身が回答したものです。
経営者が抱く挑戦心の現われが、そのまま、収益結果に繋がっています。
投資行動を推進するには、経営者は外で仕事をしなければなりません。外観環境の変化を捉えるためです。設備投資を通じて外部環境に合わせて、我が社を変えます。
外で仕事をして、外部環境の変化を捉えている経営者に導かれた現場は、結果として、的確な投資行動ができていると推測されます。
会社で起きることの全ては経営者の責任です。経営の言動が積極的であれば、収益もそうなります。経営者の言動が消極的であれば、やはり収益もそうなります。
収益も現場も経営者を映し出す鏡です。とは言っても、自身のことは意外と見えないかもしれません。外の力も借りで、自身がどのように見えるのか、教えてもらうことも効果的です。
経営者は、ご自身の言動について、周囲に評価してもらう機会を持つべきかもしれません。積極的な言動には積極的な収益がついてきます。興味深い調査結果です。