品質でも仕事でも、曖昧さを排除して定量化するとワンランクアップする。
市場の入口側ばかりではなく、出口側にも着目する、という話です。
新しいことを考える時の切り口はいくつありますか?
その切り口に対する経営者の想いが現場に浸透していますか?
1.石川県の会宝産業株式会社
現在、世界中を12億台以上の車が走り、
そのうち約35%が日本メーカー製と言われています。
世界中で日本製の車が活躍しているわけです。
ただし、その車が故障した時、どこの国でも
簡単に、新品の部品を手に入れられるわけではありません。
そこに注目して新たなビジネスを創出したのが会宝産業株式会社です。
石川県金沢市の企業です。
従業員は76人、15年12月期の売上高は27億6800万円です。
自動車リサイクル・中古自動車部品の輸出・販売が主な業務です。
もともと中古車の解体が中心だった同社が
部品輸出を手掛けるようになったのは20数年前のこと。
クウェート人のバイヤーが来て20tもの
部品をスクラップ価格の3倍で買っていったのがきっかけ。
こうしてクウェートの会社と商売を始めると
口コミで評判が広まり、瞬く間に取引をする国が広がっていきました。
強みは同社独自の中古エンジンの評価規格を2010年に導入したことです。
走行距離、オーバーヒートをしたことが
あるか、腐食の状態など6項目で0~5点の間で評価し商品に添付しています。
創業者の近藤典彦会長は次のように語っています。
それまでバイヤーが勘を頼りに買っていった。
評価規格を作ったことでバイヤーが安心して買えるようになった。
今ではうちの評価規格が世界の多くの国で通用する。
世界では30万~50万キロ走るのはめずらしくない。
でも日本では10万キロで廃車にする。
それだけ日本の中古エンジンのニーズは高い。
(出典:日本経済新聞 2017年1月16日)
2015年にはウルグアイの企業との商談が
まとまり、取引があるのは世界80か国・地域になっています。
石川県にある中小企業が、
世界を相手に商売を展開しているのです。
(出典:日本経済新聞 2017年1月16日)
同社のHPには会長挨拶として以下の文章が掲載されています。
会宝産業は1969年に創業以来、
自動車リサイクル業を営んできましたが、
時代も大きく変わり、
我々の事業が担っていく使命と責任を強く感じています。
解体屋という枠から
スタートした我々の事業も、
自動車リサイクル業を経て、
今では世界の静脈産業の確立と
循環型社会の創造を目指す域に入ってきました。
その中で、現在は事業の根底には、
「利益だけを追求するのではなく、
産業資源の循環で地球環境の保全に
貢献したい」という思いがあります。
人間の体と同じように自動車業界でも、
動脈産業と静脈産業があります。
ものをつくるメーカー側の動脈産業に対して
我々は排出・廃棄される不要物を回収し、
再利用・再資源化したり適正に処分したり
する静脈産業に属しています。
(出典:同社HP)
2.創業者の出口に着目したコンセプト
同社のコンセプトは明確です。
静脈産業で新たなビジネスモデルを確立して社会へ貢献したい。
さて静脈産業で、注目すべきは扱う商品の品質です。
中古品の品質は曖昧な場合が多いです。
顧客は外観でしか評価ができません。
そこで、同社は独自に中古エンジンの評価
規格を作り、それに基づいて中古商品の品質を定量化しました。
新たなビジネスモデルを確立する時のポイントは”先駆ける”。
それまで誰も手掛けていなかったことをする。
会宝産業が注目したのは中古品質の定量化。
バイヤーは定量化された品質情報を
”知る”ことで、同社へ信頼感を抱くでしょう。
ですから、同社の値付けには説得力があるはずです。
曖昧になりがちな中古品の品質を見える化して付加価値を創出しました。
さらに、自社解体で生まれてくる”製品”を見る目を、現場で養いやすくなります。
判断基準を持っているからです。
この”製品”は高いとか、安いとか・・・。
中古部品の品質を規格化することで、
現場での仕事のやり方もワンランクアップしたであろうと推察できます。
同様に、仕事の成果を指標化、定量化する意義も判断基準を明確にすることです。
判断基準を明確にすると、仕事に取り組むやる気が高まります。
品質でも仕事でも、曖昧さを排除します。
定量化すると水準がワンランクアップするということです。
また、静脈産業のキーワードは「後始末」であると同社は述べています。
自社製品のことを振り返ってみて下さい。
かって在職していた工場で扱っていた自動車
部品の業界でも、リサイクル事業を展開している企業の事例がありました。
自社製品の”その後”に注目されたことはあるでしょうか?
使用後も、まだまだ付加価値を生み出す部分はないでしょうか?
十把一絡げにスクラップにするのではなく、
そこから新たな価値や情報は得られないでしょうか?
新たな自社製品を開発するために顧客の声
(VOC)を重視することは、しばしば言われることです。
そこで、市場の入口側ばかりではなく、
出口側にも着目します。
自社製品が廃棄されたり、
スクラップになるときの顧客の声から意外な気付きがあるかもしれません。
会社の規模の関係なく、
グローバル展開ができることを、同社の実績は示しています。
こうした展開を可能にしているのは人財のおかげです。
同社のやる気にあふれた人財が事業を支えているはずです。
同社のHPを見ると、人財を育てよう、
大切にしようという雰囲気が伝わってきます。
同社の語る”静脈産業”は、必ずしも華やかではありません。
が、同社の現場は、誇りをもって仕事をしているだろうと感じさせられます。
同社のHPには、同社会長、社長と一緒に写っている従業員の写真が掲載されています。
その雰囲気から、こうしたことが十分に推察されます。
社長のブログに「後始末」にまつわる話が掲載されていました。
経営者の想いが現場に反映され、
浸透していると、こうしたエピソードも生まれると感じた次第です。
静脈産業で新たなビジネスモデルを確立して
社会へ貢献したいというのが近藤会長の想いです。
事業の内容の如何にかかわらず、
どのような事業でも、経営者が明確な想いをもっていれば、その想いは必ず現場へ伝わります。
曖昧になりがちな中古品の品質を見える化し、信頼を勝ち取った創業者の着眼点。
”静脈産業”というコンセプトを明確にした創業者の想い。
創業者の人財育成の姿勢。
いずれにしても経営者の熱い想いというところに行き着きます。
経営者の熱い想いが人財を育てます。
品質を見える化して付加価値を生み出す余地はありませんか?
自社製品の”後始末”という着眼点で付加価値を生み出す余地はありませんか?
経営者の想いはどれほど現場へ浸透していますか?
まとめ。
品質でも仕事でも、曖昧さを排除して定量化するとワンランクアップする。
市場の入口側ばかりではなく、出口側にも着目する。