戦略的工場経営ブログ人材確保は採用と定着の2本柱でやっているか?
人材確保は中小製造企業における喫緊の課題です。
生産年齢人口は(15~64歳の人口)は、1995年に8,716万人でピークを迎え、その後減少に転じ、2021年時点では7,450万人まで減少しています。ピークからすでに15%減です。今後も減少し続けることがほぼ確定しています。
将来、2029時点で6,951万人と7,000万人を割り、ピーク時から20%減。さらに、2065年、今から40年後には,4,500万人まで減ると予測されているのです。ピーク時のほぼ半分です(令和4年版高齢社会白書|内閣府)。
少子化により、生産年齢人口が減少することは止められない変化です。若手人材は貴重な存在となります。人材獲得競争が激しくなるのは明らかです。知名度を生かして、大手が人材をごっそり持っていくかもしれないのです。
そうした中でも、中小製造企業は、採用候補者に、働く場として、我が社を選んでもらう必要があります。選んでもらわない限り人材を確保できないのです。採用だけでなく、定着のための取り組みが欠かせません。
中小企業白書2024年版は採用活動や人材育成について解説しています。出典は全て中小企業白書2024年版です。
1.インターンシップの実施状況
2.インターンシップの実施で得られた効果
3.採用面接で自社から伝えている内容
4.従業員数の変動状況(職場環境の整備への取組状況別)
5. 人材育成の取組の増減と、増やした取組内容
6.人材育成に取り組む上での課題
7.売上高及び労働生産性の変化率(人材育成の取組の増減別)
8.人材・業務人材の定着状況(人材育成の取組の増減別)
1.インターンシップの実施状況
中小企業白書は採用の取り組みとして、中小企業には受入体制の整備等で難しい可能性もあるとしながらも、新卒採用においては、インターンシップが有効であると解説しています。下記は、インターンシップの実施状況を見たものです。
●インターンシップの実施状況 (n=20,320)
・オンラインと対⾯の両⽅で実施したことがある企業 8.5%
・対⾯のみ実施したことがある企業 22.4%
・オンラインのみ実施したことがある企業 0.8%
・実施したことはない企業 68.3%
インターシップを実施したことがある中小企業は30%程度です。インターシップで学生を受け入れることは、少数精鋭の中小製造現場では難しいと思われますが、競合がやっていないことに挑戦すれば得るものも大きいかもしれません。
2.インターンシップの実施で得られた効果
下記は、インターンシップを実施したことがある企業に対して、インターンシップの実施で得られた効果を確認したものです。複数回答です。
●インターンシップの実施で得られた効果 (n=6,295)
・学生の意見を知ることができた 46.8%
・自社に合う人材の採用につながった 29.7%
・自社の知名度が向上した 16.3%
・従業員のモチベーション向上につながった 14.9%
・育成のノウハウを蓄積できた 8.5%
・一時的に人手不足を補えた 6.4%
・事業の新たなアイデアを得られた 3.0%
・その他 3.0%
・特にない 24.4%
注目したいのは、3割程度の企業が「自社に合う人材の採用につながった」と回答していることです。新卒採用の成功に一定程度有効であると考えられます。受入には手間暇がかかりますが、採用者の適性を知るのにこれ以上の方法はありません。良いご縁があれば良い人材と出会えるのです。
また、半数程度の企業が「学生の意見を知ることができた」と回答しています。今後の応募や採用につながっていく意見に触れることができるのです。すぐには新卒採用につながらないかもしれません。
ただ、採用対象者の考え方に触れることができれば、就職場所として選ばれるポイントが浮かびます。学生の意見を取り入れた職場環境の整備などの取組により、若手が入社しても定着しやすい雰囲気ができるのです。
3.採用面接で自社から伝えている内容
下記は、採用面接で自社から伝えている内容について見たものです。
●採用面接で自社から伝えている内容
・給与体系 82.7% (n=18,476)
・休暇制度・福利厚生 81.6% (n=18,454)
・期待する専門性・役割 69.6% (n=18,097)
・自社の強み 67.1% (n=18.268)
・経営理念 47.2% (n=17,982)
・組織風土・組織文化 45.0% (n=17,761)
・育成体制 44.7% (n=17,909)
・経営ビジョン 37.2% (n=17,745)
・自社の課題 30.1% (n=17,828)
・人事制度・キャリアプラン 29.6% (n=17,589)
・現場の社員の声 28.7% (n=17,801)
・経営戦略 26.8% (n=17,549)
「給与体系」、「休暇制度・福利厚生」については8割超の企業が伝えています。採用希望者が知りたい事は何か?と考えれば、当然のことかもしれません。
別の観点では、採用したくない人を選別するための問いかけや説明があってもいいと考えられます。多くの経営者は、当事者意識が低い、他人のせいにする言動を嫌います。チームが成り立たなくなるからです。
それを見極めるためには、「組織風土・組織文化」、「育成体制」、「自社の課題」、「人事制度・キャリアプラン」、「現場の社員の声」など、働くときの姿勢や考え方の説明も大事ではないでしょうか?半分以下の企業しか触れていないようです。
4.従業員数の変動状況(職場環境の整備への取組状況別)
下記は、職場環境の整備への取組状況別に、従業員数の変動状況を見たものです。職場環境の整備を積極的に行うことで、従業員が定着して増えるのかどうかの検証となります。
●従業員数の変動状況(職場環境の整備への取組状況別)
積極的に行っている企業 増加48.9% 横ばい26.9% 減少24.2%
ある程度行っている企業 増加36.2% 横ばい31.8% 減少32.0%
ほとんど行っていない企業 増加27.5% 横ばい33.7% 減少38.8%
行っていない企業 増加18.9% 横ばい40.9% 減少40.2%
興味深い結果です。職場環境の整備に向けた取組に積極的であるほど、従業員数が「増加」していると回答する割合が高くなっています。さらには「減少」も低くなる傾向があります。
職場環境の整備は人材の確保につながっている可能性があるので、しっかり取り組みたいです。採用できても、その人材が定着してくれるかどうかはまた、別の課題となります。
5. 人材育成の取組の増減と、増やした取組内容
「育成」は人材確保の手法のひとつと考えられます。下記は、人材育成の取組の増減と、増やした取組内容について確認したものです。人材育成の取り組みの増減は2019年対比での増減です。また増やした人材育成の取り組みでは直近5年間で増やした取り組みが対象です。
●人材育成の取組の増減と、増やした取組内容
(1)⼈材育成の取組の増減 (n=20,127)
・⼤いに増やした企業 10.5%
・やや増やした企業 36.3%
・変わらない企業 49.5%
・やや減らした企業 2.4%
・⼤いに減らした企業 1.3%
(2)増やした⼈材育成の取組内容 (n=7,911)
・主にOJT 42.6%
・OJTを中⼼に⼀部OFF-JT 33.0%
・OJT・OFF-JTを半々程度 12.9%
・OFF-JTを中⼼に⼀部OJT 5.8%
・主にOFF-JT 5.8%
「大いに増やした」、「やや増やした」は4割超です。中小企業の2社に1社は人材育成を強化しています。少数精鋭だからこそ、チームの強化を図って、競争力を高めたいと考える経営者が多いということです。
また、増やした人材育成の取組内容では、7割程度の企業でOJTを中心に育成を強化しています。右腕役や現場キーパーソンの実務訓練は実践を通じてやるのが効果的です。
6.人材育成に取り組む上での課題
下記は、人材育成に取り組む上での課題を確認したものです。複数回答です。
●人材育成に取り組む上での課題 (n=19,330)
・指導する⼈材の不⾜ 53.3%
・育成にかける時間がない 39.5%
・育成しても離職してしまう 25.6%
・育成のためのノウハウがない 21.9%
・育てがいのある⼈材が少ない 20.3%
・育成のための資⾦がない 12.9%
・その他 3.8%
・特にない 15.3%
「指導する人材の不足」と回答する企業の割合が5割を超えて最も高くなっています。次いで、「育成にかける時間がない」が4割程度です。
人材育成は重要度が高いですが、緊急性は低い課題です。忙しいので、現場に丸投げで任せれば、なんとなく仕事を憶えてくれると考えるかもしれません。それでは、いつまでも経営者の思考ではなく、現場ベテランの思考をコピーした従業員ができるだけです。
人材育成は投資と考えなければなりません。必要なら外部の力を借りることもありです。指導者がいない、時間がないという理由で、人材育成の手を抜くと、つけは全て将来へ回ります。気付いたときは、もう遅いです。人材育成は経営者が決断する仕事です。
7.売上高及び労働生産性の変化率(人材育成の取組の増減別)
人材育成の効果を計るのは難しいです。中小企業白書では興味深い指摘をしています。下記は、人材育成の取組の増減別に見た、売上高及び労働生産性の変化率(中央値)です。⼈材育成の取組の増減は、2023年と2019年と⽐較をしたものです。
また売上⾼、労働⽣産性の変化率は、2022年と2017年を比べて算出したものです。具体的には下記です。
・人材育成の取り組みを増やした企業の売上⾼、労働⽣産性の中央値
・人材育成の取り組みを減らした企業の売上⾼、労働⽣産性の中央値
これらの2017年→2022年での変化率です。
●売上高及び労働生産性の変化率(人材育成の取組の増減別、中央値)
(1)売上⾼の変化率(中央値)
・人材育成の取組の増やした企業 6.9%(n=9,152)
・人材育成の取り組みを増やしていない企業 ▲5.3% (n=10,408)
(2)労働⽣産性の変化率(中央値)
人材育成の取組の増やした企業 3.2%(n=5,130)
人材育成の取り組みを増やしていない企業 ▲1.5%-(n=5,031)
とても興味深い結果です。人材育成の取組を「増やした」企業では売上高、労働生産性共に増加する傾向にあります。人材育成の取組は、業績の向上につながる可能性があるのかもしれません。
人材育成は将来投資です。因果関係は不明ですが、こうした相関関係があるなら、人材育成は将来投資と言えそうです。人材育成は将来へ向けた投資として、しっかり取り組みたいものです。
8.人材・業務人材の定着状況(人材育成の取組の増減別)
下記は、人材育成の取組の増減別に、人材の定着状況について確認したものです。⼈材育成の取組の増減は、2023年と2019年と⽐較をしたものです。人材の定着状況については下記ように回答した企業の割合を比べます。
・人材が十分に定着している企業の割合+人材がある程度定着している企業の割合
・人材があまり定着していない企業の割合+人材が全く定着していない企業の割合
●人材・業務人材の定着状況(人材育成の取組の増減別)
(1)中核人材(スタッフ部門人材)の定着状況
・人材育成の取組を増やした企業(n=8,676)
十分に定着している+ある程度定着している 77.0%
あまり定着していない+全く定着していない 23.0%
・人材育成の取り組みを増やしていない企業(n=8,623)
十分に定着している+ある程度定着している 68.6%
あまり定着していない+全く定着していない 31.4%
(2)業務人材(現場部門人材)の定着状況
・人材育成の取組を増やした企業(n=8,868)
十分に定着している+ある程度定着している 76.0%
あまり定着していない+全く定着していない 24.0%
・人材育成の取組を増やしていない企業(n=8,924)
十分に定着している+ある程度定着している 68.6%
あまり定着していない+全く定着していない 31.4%
人材育成の取組を「増やした」企業は、「増やしていない」企業と比べると、中核人材、業務人材共に、定着しているとの回答が10ポイントほど高くなっています。このことから、人材育成の取組は人材の定着に寄与する可能性がありそうです。
人材確保では人材採用と人材定着の両者が重要です。せっかくの人材を採用できても定着してくれなければ全ては水泡に帰します。その意味で、職場環境の整備や継続的な人材育成は人材を定着させ、収益力を高めることに貢献するかもしれないとの白書の指摘は大事です。経営者のやるべきことを示してくれています。