戦略的工場経営ブログ現場へ我が社のことを説明しているか?
「工場経営の本質は経営者の想いを他人の力を借りて実現することである。」
経営者一人で大きな仕事はできません。従業員から協力を得る必要があります。そこで経営者は協力をお願いするために、従業員へ会社のことを説明するのです。
言わなくてもわかるだろうというのは、経営者の思い込みにすぎません。他人の力を借りたかったら、我が社の事情を説明します。
中手企業白書2023年版では組織戦略の実行について、経営者や経営者に近い人材だけではなく、社員も含めた組織全体で取り組む必要があると指摘しています。
その際、組織を構成する社員が能力を発揮しやすい環境を整備することが戦略実行の推進に寄与するのです。具体的な取組として、白書では「経営の透明性を高める取組」を上げています。出典は全て中小企業白書2023年版です。
1.経営の透明性を高める取組の実施状況
2.経営の透明性を高める取組を開始したきっかけ
3.従業員規模別に経営の透明性を高める取組の実施状況
4.経営の透明性を高める具体的な取組の実施状況
5.経営の透明性を高める取組の実施状況別、売上高増加率の水準(中央値)
6.経営の透明性を高める取組の効果
1.経営の透明性を高める取組の実施状況
下記は経営の透明性を高める取組の実施状況を見たものです。
(株)帝国データバンク「中⼩企業の成⻑に向けたマネジメントと企業⾏動に関する調査」によります。ここでいう経営の透明性を高める取組とは、経営計画や経営課題、決算情報の共有、意思決定プロセスや⼈事制度、報酬制度の明確化等を指しています。
●経営の透明性を高める取組の実施状況(n=2,675)
十分実施している 14.5%
ある程度実施している 55.1%
あまり実施していない 22.3%
ほとんど実施していない 8.0%
約7割の企業が経営の透明性を高める取組を実施していることが分かります。我が社のことを知ってもらい、共感を得たい経営者は少なくないようです。
現場は経営者の頭の中が見えていません。経営者が考えるほどに現場は経営者のことを理解できていないかもしれないので、我が社のことを知ってもらうのは大事です。
2.経営の透明性を高める取組を開始したきっかけ
下記は、経営の透明性を高める取組を開始したきっかけを見たものです。
●経営の透明性を高める取組を開始したきっかけ(n=1,744)
従業員の増加 47.4%
経営者の交代 30.4%
金融機関からの借り入れ 14.1%
労使の対立 4.2%
社外株主の導入 2.7%
株式上場の検討 1.5%
その他 4.4%
当てはまるものがない 20.6%
「従業員の増加」と「経営者の交代」が大きなきっかけとなっています。経営の環境が変わることをきっかけに取り組み始めることが多いようです。
3.従業員規模別に、経営の透明性を高める取組の実施状況
下記は、従業員規模別に、経営の透明性を高める取組の実施状況を見たものです。
(株)帝国データバンク「中⼩企業の成⻑に向けたマネジメントと企業⾏動に関する調査」によります。ここでいう経営の透明性を⾼める取組とは、経営計画や経営課題、決算情報の共有、意思決定プロセスや⼈事制度、報酬制度の明確化等を指しています。
「十分実施している」あるいは「ある程度実施している」と回答した企業の割合です。
●従業員規模別に見た、経営の透明性を高める取組の実施状況
「十分実施している」+「ある程度実施している」の割合
5~20人(n=1,254) 61.8%
20~50人(n=765) 73.4%
51~100人(n=375) 80.3%
101人以上(n=1,254) 85.2%
従業員数が多い企業ほど、経営の透明性を高める取組を実施している傾向にあるようです。2項目では、経営の透明性を高める取組を開始したきっかけとして、従業員の増加が最も大きな理由であることを確認しました。従業員の増加とともに、経営の透明性を高める取組を実施しています。
チームの規模が大きくなると阿吽の呼吸だけでは上手くいきません。チームのベクトルを揃えるためには事情を説明するのは当然のことです。
4.経営の透明性を高める具体的な取組の実施状況
下記は、経営の透明性を高める具体的な取組の実施状況を見たものです。「十分実施している」+「ある程度実施している」の両者を合計割合です。割合の多い順になっています。
●経営の透明性を⾼める具体的な取組の実施状況
「十分実施している」+「ある程度実施している」の割合
(1)経営課題の共有(n=1,254) 76.9%
(2)経営計画の共有(n=2,675) 73.5%
(3)決算情報の共有(n=1,254) 68.3%
(4)意思決定プロセスの明確化(n=1,254) 68.0%
(5)⼈事評価制度の明確化(n=1,254) 58.5%
(6)報酬制度の明確化(n=1,254) 58.6%
これを見ると、「経営課題の共有」、「経営計画の共有」は7割以上の企業でやられています。全ては問題、課題を認識するところからです。さらには、それを解決、達成するために、今、何をやらなければならないかを従業員に説明します。
「将来」のために、「今」何をやるのかを示しているのが計画です。協力を得るために経営者の構想を知ってもらいます。
5.経営の透明性を高める取組の実施状況別、売上高増加率の水準(中央値)
下記は、経営の透明性を高める取組の実施状況別に、売上高増加率の水準(中央値)を見たものです。
帝国データバンク「中⼩企業の成⻑に向けたマネジメントと企業⾏動に関する調査」によります。「実施している」は、経営の透明性を⾼める取組の実施状況について、「⼗分実施している」、「ある程度実施している」と回答した企業の合計です。また、「実施していない」は、経営の透明性を⾼める取組の実施状況について、「あまり実施していない」、「ほとんど実施していない」と回答した企業の合計です。ここでいう経営の透明性を⾼める取組とは、経営計画や経営課題、決算情報の共有、意思決定プロセスや⼈事制度、報酬制度の明確化等を指しています。
売上⾼増加率は2016年と2021年を⽐較したものです。
●経営の透明性を高める取組の実施状況別に見た、売上高増加率の水準(中央値)
実施している (n=1,863) 35.0%
実施していない (n=812) 30.0%
白書では、経営の透明性を高める取組を実施している企業は、実施していない企業に比べて、売上高増加率の水準が高いと説明しています。経営の透明性は売上高を増やすことに貢献していそうです。経営者と従業員が情報を共有することで全社一丸、製販一体の体制ができます。
6.経営の透明性を高める取組の効果
下記は、経営の透明性を高める取組の効果を見たものです。「当てはまる」および「どちらかと言えば当てはまる」の、それぞれの割合になっています。
●経営の透明性を高める取組の効果
「当てはまる」および「どちらかと言えば当てはまる」の割合
(1)従業員との信頼関係構築(n=1,734) 60.1% 30.3%
(2)従業員のモチベーション向上(n=1,721) 61.7% 26.0%
(3)経営者の業務効率の向上(n=1,691) 17.9% 57.8%
(4)経営幹部からの信頼性向上(n=1,695) 61.8% 23.5%
(5)設備投資の円滑化(n=1,669) 24.6% 45.3%
(6)資⾦調達の円滑化(n=1,666) 23.2% 42.9%
(7)取引先からの信頼性向上(n=1,677) 19.9% 47.9%
(8)⾦融機関・株主からの信⽤向上(n=1,680) 16.6% 48.0%
(9)従業員の定着率の向上(n=1,691) 19.2% 57.2%
(10)採⽤活動の促進(n=1,669) 26.1% 49.2%
「従業員との信頼関係構築」、「従業員のモチベーション向上」、「経営幹部からの信頼性向上」、「従業員の定着率の向上」など、社内における効果が見て取れます。また、「金融機関・株主からの信用向上」、「取引先からの信頼性向上」、「資金調達の円滑化」など、社外からの評価に関する効果もありそうです。
経営の透明性を高めると、従業員や経営幹部との信頼関係の構築や従業員のモチベーション向上、定着率の向上などの成果が得られています。情報の開示は成長につながっているのかもしれません。
「工場経営の本質は経営者の想いを他人の力を借りて実現することにある。」他人の力を借りたかったら、事情を説明します。そして、説明をすれば、成果が出るのです。