戦略的工場経営ブログ成長に向けて経営戦略を策定しているか?
1.豊かな成長を願う経営者の必要ツール
我が社の豊かな成長を願わない経営者はいません。利益アップと給料アップ。これを実現させる具体策をロードマップで言語化、数値化するのです。
GDPが右肩上がりの時代なら、流れにのれば成長できます。ドンドン仕事が舞い込むからです。しかし、00年以降、国内GDPは伸び悩んでいます。新卒初任給や賃金の推移をみれば、もはや右肩上がりの時代でないことは明らかです。
昨今は、流れにのっても成長はできません。そもそも、市場全体に好影響をおよぼす好ましい「流れ」などほとんど期待できないのです。
だから、経営者は、自らの意志と意図を持って、好ましい「流れ」をつくらなければなりません。経営者は時間を味方にして市場へ働き掛け、新たなお客様とのご縁を結びます。一方で工場の改革を進めるのです。外に合わせて内を変えます。
時間を味方につけるために大事なのが戦略です。我が社の羅針盤。ロードマップで言語化、数値化すれば従業員へ浸透しやすくなります。
先が見通せない今日において、経営戦略の重要性は高まっているのです。大手のみならず、少数精鋭の中小製造企業にとってもロードマップは欠かせないツールになっています。経営者の頭の中は従業員には見えないからです。
中小企業白書2023年版では成長企業を対象に経営戦策定策定について調査しています。なお、ここでは、2020~2021年の売上高が2期連続で増収しているなど、感染症下においても成長している企業を「成長企業」としています。
2.直近 10年間における経営戦略の策定状況
直近 10年間における経営戦略の策定状況を見たものです。
(n=2,964)
策定した 71.4%
策定しなかった 28.6%
成長企業のうち、約7割の企業が経営戦略を策定しています。持続的競争優位を築くためには、競合他社と異なる価値の創出につながる戦略を策定していくことが重要であると白書は指摘しています。
限りある経営資源を有効活用するために製販一体、ベクトルを揃えなければなりません。全社のこころがそろわないと成功の成果は手にできないのです。
3.経営戦略を策定した際に、最終的に選定した市場の特徴
経営戦略を策定した際に、最終的に選定した市場の特徴を見たものです。
(n=2,079)
「競合他社が多い市場」16.9%
「どちらかといえば競合他社が多い市場」35.4%
「どちらかといえば競合他社が少ない市場」41.8%
「競合他社がほとんどいない市場」5.9%
「競合他社が多い市場」、「どちらかといえば競合他社が多い市場」と回答した企業が52.3%、「競合他社がほとんどいない市場」、「どちらかといえば競合他社が少ない市場」と回答した企業が 47.7%となっています。
競争戦略のお作法から考えれば、中小企業の生き残り戦略は競合他社が少ない市場を選定することです。
・競合が多ければ価格競争になる。
・だから差別化戦略で価格競争を回避する。
競合他社が多い市場を避けるべきですが、成長企業には、競合他社が多い市場を選定している企業と、競合他社が少ない市場を選定している企業がどちらも一定数存在しているのは興味深いです。
4.経営戦略策定時に選定した市場の特徴別に見た、売上高増加率と付加価値額増加率の水準(中央値)
経営戦略策定時に選定した市場の特徴別に、売上高増加率と付加価値額増加率の水準(中央値)を見たものです。
(1)売上⾼増加率の⽔準(中央値)
競合他社が多い市場 (n=1,087)33.0%
競合他社が少ない市場 (n=992)35.0%
(2)付加価値額増加率の⽔準(中央値)
競合他社が多い市場 (n=1,087)38.1%
競合他社が少ない市場 (n=992)43.7%
「競合他社が少ない市場」を選択した企業は、「競合他社が多い市場」を選択した企業よりも、売上高増加率と付加価値額増加率の水準がいずれも高くなっています。
一方で、両者の差が、意外と小さいとも感じます。ただ、競合他社が少ない市場への参入や市場の創出が企業の成長につながる傾向にあることには注目したいです。
5.競合他社が多い市場を選定した理由別に見た、付加価値額増加率の水準(中央値)
競合他社が多い市場を選定した理由別に、付加価値額増加率の水準(中央値)の差を見たものです。付加価値額増加率は2016年と2021年を⽐較しています。
競合他社が多い市場を選んだのには何らかの理由や思いがあるはずです。経営者なら、生き残れそうな見込みもないのに、わざわざ価格競争に陥ることが見え見えの市場へ参入するはずはありません。何か勝算があってのことです。
調査では4つの選択肢を上げています。
①⾮効率な部分を標準化して効率化することで、競争優位に⽴つことが可能
②競合他社にない製品・商品・サービスが提供でき、差別化を図ることが可能
③市場⾃体が⼤きいため、参⼊すれば⼀定の売上⾼・利益を確保することが可能
④市場⾃体が成⻑しているため、参⼊すれば⼀定の売上⾼・利益を確保することが可能
競合他社が多い市場を選んだ成長企業は、どのような理由や思いを持っているのでしょうか?そして、その理由が当てはまる場合と当てはまらない場合で付加価値額増加率はどう違うでしょうか?
(1)⾮効率な部分を標準化して効率化することで、競争優位に⽴つことが可能
当てはまる (n=748)38.8%
当てはまらない (n=227)25.3%
(2)競合他社にない製品・商品・サービスが提供でき、差別化を図ることが可能
当てはまる (n=786)38.0%
当てはまらない (n=219)39.1%
(3)市場⾃体が⼤きいため、参⼊すれば⼀定の売上⾼・利益を確保することが可能
当てはまる (n=639)38.8%
当てはまらない (n=356)34.5%
(4)市場⾃体が成⻑しているため、参⼊すれば⼀定の売上⾼・利益を確保することが可能
当てはまる (n=516)39.6%
当てはまらない (n=457)34.4%
4つの理由とも、それを選択した成長企業の付加価値額増加率は39%前後です。
さらに「非効率な部分を標準化して効率化することで、競争優位に立つことが可能」において、「当てはまる」と「当てはまらない」の付加価値額増加率の水準の差が最も大きくなっています。
競争が激しい市場へ参入するにあたって、⾮効率な部分を標準化して効率化することの有効性を示唆しているかもしれません。煩雑な特注品を標準化してコスト競争力を高める手法はしばしば取られる戦略です。
6.経営戦略を実行した際に活用した、経営資源の強み
経営戦略を実行した際に活用した、自社の経営資源の強みを見たものです。自社が有する経営資源の強みを3段階ランク付けしています。
最強は「他社がまねもできない」
中間は「他社が保有していない」
基本は「顧客からの評価に結び付いている」
顧客からの評価に結び付き、他社が保有しておらず、他社がまねもできない 9.5%
顧客からの評価に結び付き、他社が保有していない 23.2%
顧客からの評価に結び付いている 67.3%
成長企業の3分の1が「他社が保有していない強み」を生かしています。逆に言うと、成長企業の3分の2は「他社も保有している強み」で勝負しています。
強みで重要なのは、競合他社が持っているのか持っていないのか?ではなく、その強みをお客様が選んでくれるのかどうかにあるということです。
「世界でウチでしかできない製造や製品」があればそれに越したことはありませんが、iphoneのような商品は、そうあるものではありません。
競合他社が持っている技術や商品でも構わないのです。肝心なのは、お客様に選ばれることにあります。市場で一生懸命に手を上げて見つけてもらえば勝ちです。ハードだけでなく、ソフト、サービスも加えれば、我が社を見つけてもらいやすくなります。
7.経営戦略策定時の工夫・取組別に見た、売上高増加率の水準(中央値)
経営戦略策定時の工夫・取組別に、売上高増加率の水準(中央値)を見たものです。売上高増加率は2016年と2021年を比べています。調査対象は、経営戦略を実行した際に活用した経営資源の強みが下記の成長企業です。
・顧客からの評価に結び付いており、他社が保有していない強みを生かした成長企業
・顧客からの評価に結び付いている強みを生かした成長企業
さらに、経営戦略策定時に、「顧客、顧客への提供価値」、「顧客への価値の提供方法」を明確にした成長企業と明確にしなかった成長企業に分けて、それぞれでの売上高増加率の水準(中央値)を比較しました。
1)顧客からの評価に結び付いており、他社が保有していない強みを生かした成長企業
顧客、顧客への提供価値、顧客への価値の提供方法を明確にした(n=502) 36.0%
顧客、顧客への提供価値、顧客への価値の提供方法を明確にしなかった(n=117) 33.0%
2)顧客からの評価に結び付いている強みを生かした成長企業
顧客、顧客への提供価値、顧客への価値の提供方法を明確にした(n=1029) 35.0%
顧客、顧客への提供価値、顧客への価値の提供方法を明確にしなかった(n=244) 25.0%
他社が保有していない経営資源を活用し、「顧客、提供価値、価値提供方法を明確にした」企業において、売上高増加率の水準が最も高くなっています。
ここで注目したいのは、他社が保有していない経営資源の活用有無にかかわらず、「顧客、提供価値、価値提供方法を明確にした」企業は、「明確にしなかった」企業と比較して、売上高増加率の水準が高いことです。
ロードマップには戦略と共に戦術も明記します。
先が見通せない今日において経営戦略の重要性は高まっているのです。大手のみならず、少数精鋭の中小製造企業にとってもロードマップは欠かせないツールになってきました。
経営者の頭の中は従業員には見えないからです。言語化、数値化して、経営者の頭の中を見える化して、協力を見えるようにする必要があります。