戦略的工場経営ブログ中小企業におけるイノベーション活動の取組状況
1.企業には二つの基本的な機能が存在する
「企業には二つの基本的な機能が存在する。」と語ったのはドラッガーです。その二つの機能とは、マーケティングとイノベーション。
マーケティングは企業に特有の機能であり、在野サービスを市場で売ることが、企業を他のあらゆる人間組織から区別するとドラッガーは説明しています。
軍隊や宗教、学校、国には原則、市場はありません。(少子化のため、昨今の大学をはじめとする教育機関はマーケティングの視点を持たないと生き残れないようですが。)
さらにドラッガーは、企業は発展する経済においてのみ存在するので、少なくとも変化が当然であり望ましいものとされる経済においてのみ存在しうるとも説明しています。
企業とは、成長、拡大、変化のための機関。
したがって第二の企業的機能がイノベーションです。より優れた、より経済的な財やサービスを創造します。
企業は、単に経済的な財やサービスを供給するだけでは十分ではありません。ドラッガーは、企業はより優れたものを創造し供給しなければならないと説明しています。そのための機能がイノベーションです。
製造業は技術の世界で戦っています。技術は進化するので、イノベーション抜きでは生き残れないのは明らかです。中小企業白書2023年版には中小企業におけるイノベーション活動が取り上げられています。
2.中小企業におけるイノベーション活動の取組状況
下記の調査は、従業員規模別に、2017年から2019年までの3年間におけるイノベーション活動の実行状況を見たものです。
●従業員規模別、イノベーション活動の実⾏状況(2017-2019年)
・⼩規模企業(n=355,455)
イノベーション活動実行 45.7%
イノベーション活動非実行 54.3%
・中規模企業(n=24,540)
イノベーション活動実行 59.1%
イノベーション活動非実行 40.9%
・⼤規模企業(n=15,701)
イノベーション活動実行 69.1%
イノベーション活動非実行 30.9%
大手では約7割、中規模企業では約6割、小規模企業では約半数の企業がイノベーション活動に取り組んでいることが分かります。
半分以上の中小企業は、納期遵守の仕事をこなして足元の収益を確保しながら、将来への投資をやっているわけです。少数精鋭体制の中でも頑張っています。
3.従業員規模別に2017年から2019年までの3年間におけるイノベーションの実現状況
下記の調査は、従業員規模別に、2017年から2019年までの3年間におけるイノベーションの実現状況を見たものです。
●従業員規模別、2017年から2019年までの3年間におけるイノベーションの実現状況
・プロダクト・イノベーション実現
⼩規模企業 9.0%
中規模企業 11.4%
⼤規模企業 25.5%
・ビジネス・プロセス・イノベーション実現
⼩規模企業 21.0%
中規模企業 30.7%
⼤規模企業 44.5%
※「プロダクト・イノベーション」とは、「新しい又は改善された製品又はサービスであって、当該企業の以前の製品又はサービスとはかなり異なり、かつ市場に導入されているもの」です。
また、「ビジネス・プロセス・イノベーション」とは、「1つ以上のビジネス機能についての新しい又は改善されたビジネス・プロセスであって、当該企業の以前のビジネス・プロセスとはかなり異なり、かつ当該企業内において利用に付されているもの」です。
従業員規模が大きい企業ほど、イノベーションを実現している企業が多い傾向にあります。少数精鋭の中小企業がイノベーション活動の工数をひねり出すことは容易ではありません。
その重要性を理解していても、足元の仕事に追われ、将来の種まきに時間を割けず、こうした結果に繋がっていると推測できます。
4.イノベーション活動によって得られた効果
下記の調査は、イノベーション活動によって得られた効果を見たものです。
革新的なイノベーション活動に取り組んでいる企業(n=376)
革新的ではないがイノベーション活動に取り組んでいる企業(n=526)
これらの企業が調査の対象です。ここで言う「革新的なイノベーション活動に取り組んでいる」企業とは、「競合他社が導入していない全く新しい取り組みを行っている」と回答した企業です。
●イノベーション活動によって得られた効果
・競合との差別化
革新的なイノベーション活動に取り組んでいる 58.2%
革新的ではないがイノベーション活動に取り組んでいる 32.3%
・販路拡大(国内・海外)
革新的なイノベーション活動に取り組んでいる 49.5%
革新的ではないがイノベーション活動に取り組んでいる 30.6%
・顧客満足度向上
革新的なイノベーション活動に取り組んでいる 34.8%
革新的ではないがイノベーション活動に取り組んでいる 24.9%
・既存事業の効率化
革新的なイノベーション活動に取り組んでいる 23.1%
革新的ではないがイノベーション活動に取り組んでいる 36.7%
・コスト削減
革新的なイノベーション活動に取り組んでいる 23.1%
革新的ではないがイノベーション活動に取り組んでいる 36.7%
革新的なイノベーションを標榜している企業の視点は「外」に向いています。お客様や競合を対象に成果を出しています。
一方で、革新的ではないイノベーションの視点は「内」に向いていると言えるかもしれません。効率化かコスト削減で成果が出ています。
人時生産性を高めたかったら「外」です。付加価値額の源泉は「外」にしかありません。革新的なイノベーションが求められます。
5.コア技術への理解
下記の調査は、自社のコア技術の強みの認識状況別に、イノベーションの事業化状況を見たものです。
●コア技術への理解
・⾃社のコア技術の強みを認識している企業(n=264)
事業化して、利益増加につながった 33.0%
事業化したが、利益増加につながるかはまだ判断できない 26.1%
まだ事業化できていないが、将来的に事業化できる⾒込みがある 27.3%
・⾃社のコア技術の強みはない/保有していない企業(n=244)
事業化して、利益増加につながった 16.8%
事業化したが、利益増加につながるかはまだ判断できない 29.1%
まだ事業化できていないが、将来的に事業化できる⾒込みがある 26.2%
自社のコア技術の強みがあると認識している企業ほど、イノベーションの事業化や、それによる利益増加につながっている傾向があります。イノベーションの事業化においては、自社のコア技術の強みを認識していることが重要です。強みを生かします。
6.新たな市場ニーズを踏まえたイノベーション
下記の調査は、新たな市場ニーズの探索状況別に、イノベーションの事業化状況を見たものです。
●新たな市場ニーズの探索状況別に見た、イノベーションの事業化状況
・新たな市場ニーズの探索に取り組んでいる(n=438)
事業化して、利益増加につながった 27.9%
事業化したが、利益増加につながるかはまだ判断できない 29.7%
まだ事業化できていないが、将来的に事業化できる⾒込みがある 26.5%
・新たな市場ニーズの探索に取り組んでいない(n=120)
事業化して、利益増加につながった 13.3%
事業化したが、利益増加につながるかはまだ判断できない 20.0%
まだ事業化できていないが、将来的に事業化できる⾒込みがある 31.7%
新たな市場ニーズの探索に取り組んでいる企業は、取り組んでいない企業と比べて、イノベーションの事業化や、それによる利益増加につながっている傾向があります。
イノベーションを事業化し、収益を生み出すためには、事業として提供する新たな市場ニーズを探索することが重要です。
お客様に選ばれない限り、仕事は来ません。選んでもらうには、市場ニーズに耳を傾けます。
7.技術戦略を策定する際に必要な情報の入手先
下記の調査は、技術戦略を策定する際に必要な情報の入手先を見たものです。
●技術戦略を策定する際に必要な情報の入手先
n=348
民間企業(取引先) 58.9%
民間企業(同業他社) 44.5%
インターネット 39.7%
展示会・見本市 38.2%
「商売のネタはお客様に教えてもらえ。」お客様に聞くことを実践している企業が少なくないです。
8.中小企業におけるイノベーションの課題
下記の調査は、イノベーションにおける、研究開発段階でのリソース面の課題を見たものです。
●中小企業におけるイノベーションの課題の大きさについて
1)研究開発段階における課題
・⼈材不⾜の課題(n=701)
大きいと答えた企業 46.6%
やや大きいと答えた企業 40.1%
・資⾦不⾜の課題(n=699)
大きいと答えた企業 20.0%
やや大きいと答えた企業 29.8%
・情報不測の課題(n=701)
大きいと答えた企業 19.1%
やや大きいと答えた企業 44.7%
2)イノベーションにより付加価値を加えた製品の販売開始・サービスの提供開始・事業拡大段階における課題
・⼈材不⾜の課題(n=701)
大きいと答えた企業 48.9%
やや大きいと答えた企業 37.1%
・資⾦不⾜の課題(n=697)
大きいと答えた企業 21.2%
やや大きいと答えた企業 28.7%
・情報不測の課題(n=692)
大きいと答えた企業 20.7%
やや大きいと答えた企業 41.2%
これを見ると、研究開発段階においては、人材不足の課題が最も大きいことが分かります。イノベーション開発段階、イノベーション事業化段階、どちらでも約9割の企業が人材不足と回答しています。
大手と比べて人材確保では不利な立場に立たされている中小製造企業は少なくありません。大手にドンドン人材が流れていきます。経営者が望む人材が確保できません。少数精鋭の中小です。今の人材でやるしかないのです。
経営者が自らイノベーション業務に専念しかありません。経営者が工場の業務に関わっていたらイノベーション業務は進まないのです。イノベーション業務に人材を回す前に、経営者がイノベーション業務に専念できる体制づくりが先です。
工場のことを任せられる右腕役や現場キーパーソンを配置して工場業務を経営者抜きでも回るようにします。その体制ができたら、経営者はイノベーション業務に専念です。経営者が自らイノベーション業務をやるのが、少数精鋭中小製造企業でのやり方と言えます。