戦略的工場経営ブログ優位性を価格に反映させる3つの取り組み
1.優位性がなければ価格の決定権を手にできない
値決めは経営である。稲盛和夫氏の言葉です。
利益は売上と費用で決まります。利益をふやすには、どちらかです。
・売上を大きくする
・費用を小さくする
90年代、国内GDPが右肩上がりで増えていた時、お客様からの問い合わせがドンドン舞い込んだ経験をした人も少なからずいるのではないでしょうか?しかし、時代は変わりました。あえて積み上げようとしなければ売上も付加価値額も積み上がりません。
コスト削減だけでは儲からないのです。そもそも、コスト削減には天井があります。一方、売上や付加価値額の積み上げは青天井です。こちらに焦点を当てた方が儲かります。
そして、売上=価格×販売数量です。
・100円の商品を1,000個販売する
・1,000円の商品を100個販売する
価格で付加価値額が決まります。薄利多売戦略か?高付加価値戦略か?は価格次第です。経営者は価値に見合った価格を設定したいと考えます。
ただし、価値の有無を決めるのはお客様です。競合と比べて優位性がなければ同質の競争に陥ります。行きつくところは価格競争です。
一方、優位性があれば価値に見合った価格を設定できるかもしれません。圧倒的な優位性があるなら、代替品がないわけで、価値に見合った価格プラスアルファも期待できます。iphoneのような製品の場合です。
ただし、そこそこの優位性水準では市場価格の影響を受け、我が社の優位性を価格に反映できない恐れがあります。
価値に見合った価格を設定して、付加価値額をドンドン積み上げたかったら、下記が前提条件です。
・お客様に認識してもらえる優位性があること
認識してもらえる優位性がなければお客様に選ばれないので、価格の決定権を手にできません。結果として、十分な付加価値額を得られず、薄利多売戦略になります。中小製造企業が絶対にやってはダメな戦略です。
2.付加価値の獲得に向けた適正な価格設定
中小企業白書2020年度版では「付加価値の獲得に向けた適正な価格設定」が解説されています。優位性や差別化で生み出した価値は価格に反映されない限り、中小製造経営者は付加価値額、粗利、儲けを手にできません。マネタイズ力が問われます。
適正な価格設定には前提条件があります。優位性や差別化があること。白書では「自社に優位性や差別化がある」と答えた経営者を対象に各種分析をしています。
3.優位性の価格への反映
自社に優位性があると考えている企業を対象に、「自社の優位性が価格に十分に反映されているか?」と尋ねました。優位性の価格反映状況をお客様属性(BtoB/BtoC)と業種別(宿泊業・飲食サービス業/製造業/運輸業・郵便業)でも分析しています。
優位性の有る企業における、優位性の価格反映状況
(1) 優位性の有る企業全体 (n=2,199)
十分に反映されている 49.7%
十分に反映されていない 50.3%
(2) 顧客属性別
BtoB(n=1,861)
十分に反映されている 48.1%
十分に反映されていない 51.9%
BtoC(n=327)
十分に反映されている 58.1%
十分に反映されていない 41.9%
(3) 業種別
宿泊業,飲食サービス業(n=54)
十分に反映されている 70.4%
十分に反映されていない 29.6%
製造業(n=1,137)
十分に反映されている 50.0%
十分に反映されていない 50.0%
運輸業、郵便業(n=100)
十分に反映されている 36.0%
十分に反映されていない 64.0%
資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」
(注)1.競合他社と比較した際の自社の主な製品・サービスの優位性(総合評価)について、「大きく優位」又は「やや優位」と回答した企業に対して、優位性が価格に十分に反映されているかを聞いたもの。
優位性の有る企業でも、約半数の企業は「十分に反映されていない」と考えています。また顧客の属性別に見ると、事業者向けに製品・サービスを販売する企業(「BtoB企業」)は消費者向けに製品・サービスを販売する企業(「BtoC企業」)よりも、「十分に反映されていない」と考えている企業の割合が1割多いようです。
業種別の優位性の価格反映状況をでは、宿泊業、飲食サービス業のように優位性を価格に反映させやすい業種がある一方で、運輸業、郵便業のように優位性を価格に十分に反映するのが難しい業種もあります。製造業は半々です。
差別化が進み優位性を構築できている企業は、価格競争に巻き込まることが少ないので、自社の希望価格に設定できるはずです。しかし、優位性の有る企業の半数で、優位性が価格に十分に反映されていない現実があります。
4.顧客への優位性の発信
企業が製品・サービスの優位性を顧客に伝えることができているかを尋ねました。製品・サービスの優位性を顧客に伝えることが「できている」か「できていない」、それぞれで優位性の価格反映状況を分析しています。
優位性の顧客への伝達状況別、優位性の価格反映状況
・製品・サービスの優位性を顧客に伝えることができている企業(n=282)
十分に反映されていない 30.1%
十分に反映されている 69.9%
・製品・サービスの優位性を顧客に伝えることができていない企業(n=23)
十分に反映されていない 69.6%
十分に反映されている 30.4%
資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」
(注)1.競合他社と比較した際の自社の主な製品・サービスの優位性(総合評価)について、「大きく優位」又は「やや優位」と回答した企業に対して、優位性が価格に十分に反映されているかを聞いたもの。
2.主な製品・サービスの優位性を、顧客に伝えることができているかについて聞いたもの。
製品・サービスの優位性を顧客に伝えることができていると回答した企業の方の方が出来ていない企業と比べて、明らかに優位性が価格に十分に反映されているようです。我が社の強みは黙っていても伝わりません。
お客様は我が社のことに興味を持ってくれているから我が社の強みを理解してくれるだろと考えている経営者がいたら考えをただす必要があります。そもそも、お客様は我が社のことにそれほど興味を持っていません。伝えない限りお客様に知ってもらえないのです。
5.価格競争からの脱却
競合他社の数別に、優位性の価格反映状況を尋ねました。
競合他社の数別、優位性の価格反映状況
0社(n=75)
十分に反映されていない 33.3%
十分に反映されている 66.7%
1~5社(n=639)
十分に反映されていない 47.1%
十分に反映されている 52.9%
6~10社 (n=478)
十分に反映されていない 51.0%
十分に反映されている 49.0%
11~50社(n=560)
十分に反映されていない 52.7%
十分に反映されている 47.3%
51社以上(n=320)
十分に反映されていない 57.2%
十分に反映されている 42.8%
資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」
(注)競合他社と比較した際の自社の主な製品・サービスの優位性(総合評価)について、「大きく優位」又は「やや優位」と回答した企業に対して、優位性が価格に十分に反映されているかを聞いたもの。
競合他社の数が少ない企業ほど、優位性が価格に十分に反映されている割合が高くなっています。そもそも、価格競争が存在する市場に身を置いている限り、決定権を持った値決めはできないということです。
さて、競合が値下げしたとき、貴社はどう対応しますか?
競合に負けないように10%以上値下げをする、5%程度値下げして様子を見る、信念を持って値下げはしない、などいろいろあると思います。
価格競争へ立ち向かう意向に経営者の想いが反映されるのです。価格競争意向別に、優位性の価格反映状況を尋ねました。
価格競争意向別、優位性の価格反映状況
値下げしない経営者(n=1,001)
1%以上5%未満の値下げする経営者(n=247)
5%以上10%未満の値下げする経営者(n=414)
10%の値下げをする経営者(n=282)
10%を上回る値下げをする経営者(n=53)
貴社はどれに当てはまりますか?こうした種々の価格競争意向別、優位性の価格反映状況は下記です。
値下げしない経営者(n=1,001)
十分に反映されていない 43.5%
十分に反映されている 56.5%
1%以上5%未満の値下げする経営者(n=247)
十分に反映されていない 52.6%
十分に反映されている 47.4%
5%以上10%未満の値下げする経営者(n=414)
十分に反映されていない 56.0%
十分に反映されている 44.0%
10%の値下げする経営者(n=282)
十分に反映されていない 61.0%
十分に反映されている 39.0%
10%を上回る値下げする経営者(n=53)
十分に反映されていない 62.3%
十分に反映されている 37.7%
資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」
(注)1.競合他社と比較した際の自社の主な製品・サービスの優位性(総合評価)について、「大きく優位」又は「やや優位」と回答した企業に対して、優位性が価格に十分に反映されているかを聞いたもの。
2.企業の価格競争意向とは、競合他社が価格を10%値下げをした場合に、自社の販売価格をどのくらい値下げするかについて聞いたもの。
3.競合他社の数が1社以上の企業について集計している。
当然の結果になっています。「値下げしない」と回答した企業で、優位性が価格に十分に反映されている割合が最も高く、値下げすると回答した企業でも、値下げ幅が大きいほど価格に十分に反映されていない割合が高いです。
値下げは戦略的に考えなければなりません。目前の受注を獲得したいからだけで値引きばかりしていたら、儲けを積み上げられないのは明らかです。
6.原価や販売価格の管理
適正な価格設定するには、個々の製品・サービスごとのコスト構造を知る必要があります。個々の製品・サービスごとのコストを把握している企業と把握していない企業、それぞれへ、優位性の価格反映状況を尋ねました。
コスト把握可否別、優位性の価格反映状況
把握している (n=819)
十分に反映されていない 46.3%
十分に反映されている 53.7%
把握していない (n=1,167)
十分に反映されていない 52.1%
十分に反映されている 47.9%
資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」
(注)競合他社と比較した際の自社の主な製品・サービスの優位性(総合評価)について、「大きく優位」又は「やや優位」と回答した企業に対して、優位性が価格に十分に反映されているかを聞いたもの。
個々の製品・サービスごとにコストを「把握している」と回答した企業の方が、「把握していない」と回答した企業に比べて、優位性が価格に反映されている割合が高いです。
価格交渉力の有無が影響しているのではないでしょうか?コスト構造を知って交渉に臨めば、強弱つけた働きかけができるのです。
7.価格設定と労働生産性
白書では優位性が価格に十分に反映されている企業の方が、どの程度労働生産性の水準が高いか分析しています。優位性が価格に十分に反映されていない企業と十分に反映されている企業の労働生産性です。
十分に反映されていない企業の値を100として、指標化しています。
労働生産性の比較
十分に反映されていない企業 100.0
十分に反映されている企業 117.5
資料:(株)東京商工リサーチ「令和元年度中小企業の製品サービスの付加価値創造・向上及び価格設定に関する調査事業」
(注)1.優位性が価格に十分に反映されていない企業の、2018年時点における各指標の水準を100とした場合の、優位性が価格に十分に反映されている企業の水準について分析している。
2.労働生産性=付加価値額÷従業員数、1人当たり売上高=売上高÷従業員数、売上高付加価値率=付加価値額÷売上高、付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費+賃借料+租税公課で算出。
優位性が価格に十分に反映されている企業は、価格に十分に反映されていない企業に比べて、17.5%労働生産性の水準が高いです。統計的に有意であったと結論付けています。
白書では優位性を価格に十分に反映するために必要な要素として3つ上げています。
「顧客への優位性の発信」
「価格競争に参加しない意識」
「個々の製品・サービスごとのコスト把握」
この3つで優位性を価格に十分に反映することができ、その結果、労働生産性の上昇につながる可能性があると白書は分析しています。
値決めは経営です。生殺与奪の権を他人に握らせたくなかったら、価格の決定権を手にしなければなりません。製造業は技術で戦っています。
同質の競争を割け、狭い市場でも構わないのでトップになることです。そうすればお客様は我が社を選んでくれます。優位性を価格に十分に反映させられるのです。