戦略的工場経営ブログ経営者に必要な六つの知識・スキル
1.経営者の知識・スキルをブラシュアップする
中小製造企業の人時生産性はトップダウンでなければ高められません。付加価値額の源泉であるお客様を知っているのが経営者だからです。
儲かる要点を一番知っている人に従えば儲かります。だから経営者の言動は大事です。現場の思考回路は経営者の持つ思考回路で決まると言われます。
経営者の言動以上の現場にはなりません。現場の質を高めたかったら、経営者は自身の知識やスキルを時代の変化や流れに合わせてブラシュアップさせる必要があります。
中小企業白書2022年版では「企業の成長に寄与する経営者の知識・スキル」について解説しています。以下のデータは全て「中小企業白書2022年版」からです。
2.製造業経営者の就任経緯
製造業経営者の就任経緯を見てみます。現経営者が社長に就任した経緯です。選択肢は6項目あります。
・創業者
・同族継承
・内部昇格
・親会社や取引先からの派遣・招へい
・買収
・その他
下記に中小企業と大企業それぞれについて、創業者と同族継承の2項目を取り上げ、結果を示します。中小と大手の製造経営者に占める創業者と同族経営者の割合です。
●製造業における経営者の就任経緯(中小企業と大企業)
中小企業:
創業者23.7%
同族継承56.9%
大企業:
創業者0.4%
同族継承18.0%
予想された結果ですが、中小では、「創業者」と「同族継承」の割合が高く、合わせて8割程度に達しています。一方で、大企業では、2割程度です。弊社のご支援先の多くも同族経営です。
同族経営企業の強みは何でしょう?
同族経営の良さを活かしたいです。
3.経営・マネジメント業務に充てる時間の比率
次に経営者が経営・マネジメント業務に充てる時間の比率を見てみます。経営者の業務を経営・マネジメント業務と現場業務に分け、1週間の中での経営・マネジメント業務に充てている時間を尋ねました。全産業が対象です。企業規模別に整理しています。
データn数は企業の規模が5~20人:n=1,376)、21~50人:n=1,260、 51~100人:n=912、101人以上:n=687です。
●従業員規模別に見た、経営者の経営・マネジメント業務に充てる時間の比率
時間の割は下記4つの水準で整理。
「①3割未満」
「②3割以上6割未満」
「③6割以上10割未満」
「④10割」
それぞれの企業規模における時間の比率
・5~20人
①20.1%
②26.6%
③38.9%
④14.5%
・21~50人
①9.4%
②18.7%
③48.2%
④23.7%
・51~100人
①5.2%
②14.1%
③52.3%
④28.4%
・101人以上
①2.6%
②9.2%
③53.0%
④35.2%
規模の大きい企業ほど経営者が経営・マネジメント業務に充てる時間が長くなっています。企業規模と社長業に割ける時間に相関がある事実は興味深いです。
経営者の仕事は従業員の仕事と根本的に違います。変化を起こすことが経営者の仕事です。製造業は技術の進化と競合の追い上げに晒されています。歩みを止めたら負けです。
外の変化に合せて内を変えて、新たな儲かるビジネスモデルを構築します。
これらは作業をしながらできる仕事ではありません。しかし、少数精鋭の現場では経営者も作業をこなさなければならないことが多々あります。経営者は本来100%社長業に時間を割けなければならないのですが、成長の過程では致し方がないことかもしれません。
4.経営・マネジメント業務に充てる時間の比率と売上高増加率
さらに経営者の経営・マネジメント業務に充てる時間の比率別に、売上高増加率を見てみます。時間の比率は先のデータと同様です。経営者の業務を経営・マネジメント業務と現場業務に分け、1週間の中での経営・マネジメント業務に充てている時間を尋ねました。
また、売上高増加率は2015年と2020年を比較したものです。中央値を取っています。
データn数は、1週間の中での経営・マネジメント業務に充てている時間の比率が3割未満:n=455、3割以上6割未満、:n=782、6割以上10割未満:n=1,948、10割:n=973です。
●経営者の経営・マネジメント業務に充てる時間の比率別、売上高増加率(中央値)
それぞれの時間の比率における売上高増加率
・3割未満
1.4%
・3割以上6割未満
3.5%
・6割以上10割未満
7.3%
・10割
7.2%
経営者の経営・マネジメント業務の比率が6割以上の企業では、相対的に売上高増加率が高くなっています。経営者が社長業に専念できる状況になれば儲かり易くなるのです。
お客様のことを一番知っている経営者が社長業に専念できないと、儲ける機会を逸しているかもしれません。
製造業におけるスケールメリットの本質は固定費の効率化です。さらに、社長業に専念する時間を生み出せることも挙げられそうです。
事業を成長させたかったら、一定水準以上の規模が必要になってきます。その閾値が従業員規模では30人前後にあるのではないかと感じています。
5.経営知識・スキルを習得するために有益な学習機会
次は経営に関する知識・スキルを習得するために有益な学習機会についてです。経営に関する知識・スキルを習得するために、直近5年間で具体的な取り組みを実施した経営者に尋ねました。
経営知識・スキルを習得するために有益な学習機会について上位3位までを整理しています。複数回答なので合計は必ずしも100%になっていません。データ数はn=2,709です。
●経営知識・スキルを習得するために有益な学習機会
・中小企業大学校
5.5%
・商工会、商工会議所
22.8%
・商工会、商工会議所以外の公的支援機関
12.0%
・金融機関
43.7%
・研修、セミナーを主催する民間企業
47.8%
・税理士やコンサルタント
56.2%
・業界団体や同業者・取引先のネットワーク
56.1%
・地域の経営者のネットワーク
34.7%
・その他
7.0%
「税理士やコンサルタント」や「業界団体や同業者・取引先とのネットワーク」、「金融機関」が上位にあります。経営者の学びはあくまで実学です。お勉強とは違います。
外部と比べる視点を持って知識を習得しなければ効果は薄いです。弊社がご支援先でいろいろな指導をする際の要点はここにあります。
・大手のやり方と比べてもらう
・他業種のやり方と比べてもらう
比べることで要点が見えてきます。
また「研修、セミナーを主催する民間企業」の割合も高いようです。研修、セミナーのような専門的な学習機会も積極的な姿勢で臨めばお勉強ではなく、実学になります。
6.企業の成長に寄与する経営者の知識・スキル
経営者と従業員の仕事は全く違います。仕事が違えば、求められる知識やスキルも異なります。経営者に求められる知識やスキルは、企業が置かれている状況や環境などにより多様です。
そこで、白書では、アンケートから得られたデータについて因子分析して、中小企業の経営者が身につけている資質に共通する要素を抽出し、企業の成長に寄与する経営者の知識・スキルを類型化しています。
当該分析では経営者に必要と仮定した35の資質を基に分析を実施しています。必ずしも全ての知識・スキルが網羅されていないようですが、ご自身が今、持っている知識・スキルと比べることは有益です。
経営者に必要と仮定した35の資質について、因子分析を実施し、共通性が認められる資質ごとに分類し、類型化した結果、六つの知識・スキルが浮かび上がりました。
●経営者に必要な六つの知識・スキル
「臨機応変に対応し、意思決定する力」
「傾聴し、人を導く力」
「理論的に考えて本質を見抜き、適切に表現する力」
「計数管理・計画能力」
「問題意識を持ち、自己変革する力」
「業界に精通する力」
要素1 臨機応変に対応し、意思決定する力
特徴複数の選択肢の中から最適な選択肢を選び、組織を代表して責任を持って意思決定することができる。また、状況を臨機応変に見極め意思決定に影響を与える可能性のある要素に配慮することができる。
要素2 傾聴し、人を導く力
積極的に部下や関係者と関わるだけでなく、一人一人の性格や状況に応じた接し方ができる。また、部下や関係者と信頼関係を維持・構築することができる。
要素3 理論的に考えて本質を見抜き、適切に表現する力
答えのない問題や課題に対して、物事を理論的に考えて、その本質を見極めることができる。また、自分の考え方や伝えたい内容を他者に分かりやすく伝えることができる。
要素4 計数管理・計画能力
財務状況や資金繰りについて適切に把握し、数字を基に経営計画や投資計画を立案できる。
要素5 問題意識を持ち、自己変革する力
周囲の状況に積極的に関心を持ち、変化を恐れずに、得られた情報を基に自社の経営課題解決のために実践したり、応用することができる。
要素6 業界に精通する力
自社が属する業界や市場についてよく理解しており、競合他社を含めた業界の動向を把握することができる。
必ずしも全ての知識・スキルが網羅されているわけではないでが、それぞれ重要項目であることに異論はないでしょう。ご自身の知識・スキルと比べてください。
7.売上高増加率と六つの知識・スキルの高さ
売上高増加率別に、六つの知識・スキルの高さについて見みてみます。六つの知識・スキルの水準が高ければ、売上高増加率も高くなるのか?興味深い疑問です。
各知識・スキルの数値は、売上高増加率の水準ごとに偏差値化した因子得点の平均値を示しています。スキル水準が高ければ平均値は高くなります。
売上高増加率(2015年から2020年)が高い企業を上位から25%ごとに、4区分に分類しました。「高」、「やや高」、「やや低」、「低」として集計しました。データn数は高:n=927、やや高:n=1,022、やや低:n=997、低:n=975です。
●売上高増加率の高低別に見た、六つの知識・スキル水準
要素1 臨機応変に対応し、意思決定する力
高 52.0
やや高 49.9
やや低 49.4
低 48.6
※売上高増加率「高」の企業では、臨機応変に対応し、意思決定する力の水準が「52.0」であるのに対して、売上高増加率「低」の企業では、臨機応変に対応し、意思決定する力の水準が「48.6」となっている。売上高増加率が高ければ、スキル水準は高く、売上高増加率が低ければ、スキル水準は低い傾向が認められた。
要素2 傾聴し、人を導く力
高 51.6
やや高 50.2
やや低 49.5
低 48.6
要素3 理論的に考えて本質を見抜き、適切に表現する力
高 51.1
やや高 50.2
やや低 49.6
低 49.0
要素4 計数管理・計画能力
高 50.9
やや高 50.3
やや低 49.6
低 49.1
要素5 問題意識を持ち、自己変革する力
高 51.5
やや高 50.3
やや低 49.5
低 48.5
要素6 業界に精通する力
高 50.9
やや高 50.2
やや低 49.9
低 49.1
六つの知識・スキル、それぞれの水準が高ければ、年商も高くなる傾向にありました。
知識やスキルを学ぼうという積極的な姿勢は現場へ波及します。外部の力を借りて学べば、おのずと外の情報に触れる機会もできるのです。
経営者だけでなく、現場も自分たちの立ち位置に気付きます。状況が分かれば頑張りたくなるものです。
経営者の言動以上の現場にはなりません。現場の質を高めたかったら、経営者は自身の知識やスキルを時代の変化や流れに合わせてブラシュアップさせる必要があります。