戦略的工場経営ブログ21年製造業労働生産性水準の国際比較
(公財)日本生産性本部は、毎年12月に労働生産性国際比較の報告書を公表しています。昨年の12月、「労働生産性の国際比較 2022」が出されました。当本部がOECD.Statデータベース等をもとに毎年計測・分析を行い、公表しています。
弊社のご支援策である中小製造経営者の方々に、ご自身の事業が前進しているか否かをチェックするために注視していただきたいとお伝えしているのもこの数値です。労働生産性、付加価値額の生産性です。
中小製造企業の人時生産性は3,000~4,000円水準、大手のそれは6,000~7,000円水準が平均値と見込まれます。利益アップと給料アップを実現させるにはこの数値を上げるしかありません。
1.国民 1 人当たり GDP の国際比較(2021年)
2.就業者 1 人当たり労働生産性の国際比較(2021年)
3.就業時間当たり労働生産性の国際比較(2021年)
4.製造業の労働生産性水準の国際比較(2020年)
上記の4つのデータを確認します。出典は全て「労働生産性の国際比較 2022」です。
国民一人当たりGDP
↓
就業者一人当たり付加価値額
↓
就業1時間当たり付加価値額
↓
製造業就業者 1 人当たり付加価値額
上記の順です。
1.国民 1 人当たり GDP の国際比較(2021年)
国民 1 人当たり国内総生産(GDP)は、経済的な豊かさを国どうしで比べるときに用いられる数値です。国で生み出された付加価値額の総額です。
国民 1 人当たり GDP = 国内総生産(GDP)÷人口
国民 1 人当たり GDP をドルベースに換算する際は、物価水準の違いなどを調整した購買力平価(Purchasing Power Parity/PPP)レートを利用しています。実際の為替レートを用いると変動が大きくなるためです。
OECD(経済協力開発機構)に加盟する 38カ国 で、2021 年国民 1 人当たり GDP のトップ5の国は下記です。
第1位 ルクセンブルク (132,474 ドル/1,330 万円)
第2位 アイルランド (107,862 ドル/1,083 万円)
第3位 ノルウェー (79,163 ドル/795 万円)
第4位 スイス (76,074 ドル/764 万円)
第5位 米国 (70,523 ドル/708 万円)
●2021年の日本の国民 1 人当たり GDP は、43,595 ドル (438 万円)
OECD 加盟 38 カ国中 24位でした。米国の62%です。2020年は23位だったので順位を1つ下げています。
今から30年ほど前、1996年の日本の国民 1 人当たり GDP はOECD 加盟国中 5 位でした。70年代の高度成長期を通じて右肩上がりでランクを上げ、90年代半ばで主要先進 7 カ国 で米国に次ぐ水準になったのです。しかし、その後がいけません。
1990 年代半ば以降、国民 1 人当たり GDP は伸び悩み始めました。徐々に他の主要国に後れをとるようになり、2000 年代に入ると主要先進 7 カ国の中でも、下位に落ち着くようになっています。失われた30年です。
平均的な豊かさを感じられない国になりました。中流層が薄くなり、2極化したとの指摘もあります。年齢が50代以降の方なら実感のある一億総中流という考え方はもはや存在しません。
流れに任せればそこそこの生活ができる・・・そういう時代ではなくなったのです。コロナをきっかけとして、20代のなかには、ますます「豊かさ」を感じることなく、年齢を重ねてきた人達もいるかもしれません。
せっかくの学生生活を満喫する機会すら奪われたのですから。少子化が進む中、このままではマズいと誰でも考えています。
2 .就業者 1 人当たり労働生産性の国際比較(2021年)
GDP=国民 1 人当たり GDP×人口
先進国に先駆け、既に人口減少モードになっている日本が国力を維持するには、国民一人当たりGDPを増やすしかありません。規模も縮小、1人あたりも減少ではジリ貧です。
少ない労力でより多くの経済的成果を生み出すことが欠かせません。持続的な経済成長や経済的豊かさを実現するには、労働生産性の上昇がカギです。
労働生産性 = GDP(付加価値額)/就業者数
※GDP:購買力平価(PPP)によりドル換算
●2021 年の日本の就業者 1 人当たり労働生産性は81,510 ドル(818 万円)
これはOECD 加盟 38 カ国の中で 29 位にあたります。2020年は28位だったので順位が1つ落ちました。
ポーランド (85,748 ドル/861 万円)
ハンガリー (76,697 ドル/770 万円)
ニュージーランド (85,383 ドル/857 万円)
ポルトガル (77,970 ドル/783 万円)
とほぼ同水準です。
西欧諸国との比較では、労働生産性が比較的低い部類の英国(101,405 ドル/1,018万円)やスペイン(97,737 ドル/981 万円)と比べても、2 割近く低くなっています。米国(152,805 ドル/1,534 万円)と比べると、半分強(53%)しかありません。
日本の就業者 1 人当たり労働生産性の順位の推移は下記です。
1970年 19位
1980年 19位
1990年 13位
2000年 20位
2010年 21位
2021年 29位
90年代をピークにして、それ以降の下げが止まりません。主要先進 7 カ国を概観すると、日本以外の国では 2021 年の順位に大きな変化はなく、順位の落ち込みが目立つ日本の一人負けです。
3.就業時間当たり労働生産性の国際比較(2021年)
働き方改革が叫ばれている中、短い時間でどれだけ成果を生み出したかを定量化した「時間当たり労働生産性」に注目です。弊社がお伝えしている人時生産性です。
●2021 年の日本の就業 1 時間当たり労働生産性は、49.9 ドル(5,006 円)
OECD 加盟 38 カ国中 27 位です。ニュージーランドに抜かれて昨年より順位を一つ下げています。
1970 年以降、最も低くなってしまいました。ほぼ同じ労働生産性水準の国をみると、エストニア(51.0 ドル)やラトビア(48.6 ドル)、スロバキア(48.3 ドル)といった東欧・バルト諸国、ニュージーランド(50.1 ドル)といった国です。
日本の就業 1 時間当たり労働生産性の順位の推移は下記です。
1970年 18位
1980年 20位
1990年 20位
2000年 21位
2010年 20位
2021年 27位
4.製造業の労働生産性水準の国際比較(2020年)
製造業の名目労働生産性(就業者 1 人当たり)を比較すると、OECD 加盟国のトップ5は下記です。
第1位 アイルランド (555,848 ドル/6,045 万円)
第2位 スイス (208,378 ドル/2,266 万 円 )
第3位 デンマーク (161,975 ドル/1,762 万円)
第4位 アメリカ (159,865 ドル/1,739 万円)
第5位 ベルギー (128,389ドル)
●2020年の日本の製造業の労働生産性は 92,993 ドル/1,011 万円で第 18 位。
米国の 6 割弱(58%)に留まっています。また、フランス(93,817 ドル)や韓国(94,137 ドル)とほぼ同水準です。
製造業の就業者 1 人当たり名目労働生産性の順位の推移は下記です。
1995年 1位
2000年 1位
2005年 9位
2010年 9位
2015年 17位
2016年 17位
2017年 16位
2018年 19位
2019年 17位
2020年 18位
2000年まではトップ水準を維持していました。技術立国ニッポンに相応しい結果を残していたのです。それが2000年以降順位を落としています。失われた30年で、周辺諸国にドンドン抜かれてしまいました。現在はOECD 加盟38カ国中18位です。
5.我が社の人時生産性を上げるには?
生産性を上げるために報告書では下記のキーワードを上げています。
・デジタル化
・集約化
・規模拡大
・「ソフトテクノロジー」(トヨタ生産方式に代表される経営管理技術など)
・製品・サービス開発
・人的資本
今では世界でトップ水準の労働生産性を誇るアイルランドは、1980 年代をみると日本とさほど変わらない水準でした。その後、法人税率などを低く抑えて Google や Apple などの多国籍企業を呼び込むことで経済が急拡大したのです。労働生産性も 2010 年から2021 年の間に実質ベースで 1.7 倍になりました。
国のトップが意志や意図を持って改革を推し進めた結果です。
我が社の人時生産性を上げるにはどうするか?トップが意志や意図を持って行動するしかないのです。それをしないとどうなるか?答えは目の前にあります。我が国の現状がその答えです。