戦略的工場経営ブログ人事評価制度は動機付けのための環境整備

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1.従業員を評価する

従業員の動機付けは工場経営での重要な論点です。動機付けは経営課題のひとつと言えます。何も手を打たず、なんでやる気を出してくれないのだろう?と嘆いてもはじまりません。効果的なやり方を考えます。

従業員もつまるところ”他人”です。工場経営の本質は他人を通じて経営者の想いを実現させることにあるとしばしばお伝えしています。そうであるなら、“赤の他人”に頑張ってもらえる環境整備が必要となります。

「分かってくれているだろう」は経営者の願望にすぎません。動機付けが自然発生的に生まれることはないのです。ただ、だからと言ってやる気に火をつけようと、経営者が声高に「やる気を出せ~」と熱弁奮ってもそうならないのが動機付けの難しいところです。

人のやる気は直接に操作できないものです。できることは、やる気を出す環境を整備するまでです。後は、本人がやる気を出してくれるのを見守るしかありません。人事評価制度はそうした具体策のひとつです。

人事評価制度を動機付けのための環境整備と捉えます。

採点されないテストほど興味がわきにくいものはありません。テストをやった後、それで終わり?では進歩がないのは明らかです。

仕事ぶりの評価結果を聞かされて、初めて従業員は経営者が自分に対して何を期待しているのかを知ります。知れば頑張りたくなるのが現場です。

中小企業白書2022年版では、従業員の仕事に対する意欲や能力を引き出す環境整備のひとつとして人事評価を上げています。白書に興味深い調査結果が掲載されていました。

2.人事評価制度

白書では従業員の仕事に対する意欲や能力を引き出す要点として、体系的な人事施策を上げています。企業の特性に応じた人事評価制度や賃金制度、福利厚生施策などです。能力開発のような成長機会だけでなく、成長したことを実感できる認識機会も整備します。

人事評価制度は中小企業でどれくらいやられているか?従業員規模別に調査した結果があります。

下記は従業員規模別に見た、人事評価制度の有無割合です。

5〜 20⼈ (n=1,383)  ある35.0% ない65.0%
 21〜 50⼈ (n=1,277)  ある57.2% ない42.8%
 51〜100⼈ ( n=917)   ある72.5% ない27.5%
 101⼈以上 (n=690)   ある87.2% ない12.8%

(株)帝国データバンク「中小企業の経営力及び組織に関する調査」

従業員5~20人の企業では人事評価制度があるのは4割未満であるのに対し、101人以上の企業では9割程度となっています。従業員規模と人事評価制度有無に相関関係がありそうです。

規模が大きくなればなるほど、経営者は人事評価制度が大事だと感じています。逆に言うと、規模が小さかったら、なくてもいいと考える経営者が少なくないようです。

人事評価制度の目的は環境整備にあります。

大切なのは受け手の従業員側がどう感じているかです。規模が小さいからなくてもイイと考えることは、動機づけに影響を及ぼさないでしょうか?

人事評価制度がない現場の従業員と人事評価制度がある現場の従業員、両者を比べるとどちらが頑張れるか?

この問いに、企業の規模は関係ありません。環境整備だからです。動機付けの環境整備は従業員規模に関係なく、やる必要があります。

3.人事評価制度の有無と売上高増加率の関係

人事評価制度の有無と売上高増加率との関係を従業員規模別に調査した結果があります。人事評価制度があれば儲かる!という事実があったらどうしますか?

下記は従業員規模別に見た、人事評価制度の有無売上高増加率(中央値)との関係です。

●従業員規模5〜20⼈
   ある (n=463)   6.6%
   ない (n=868)   2.6%

●従業員規模21〜50⼈
   ある (n=708)   7.9%
 
  ない (n=536)   3.9%

●従業員規模51〜100⼈
   ある (n=658)   7.7%
   ない (n=250)   5.9%

●従業員規模101⼈以上
   ある (n=592)   10.4%
   ない (n=87)    0.6%

帝国データバンク「中⼩企業の経営⼒及び組織に関する調査」
(注)売上⾼増加率は2015年と2020年を⽐較したものである

興味深い結果です。それなりのn数データになっています。人事評価制度の有無と売上高増加率には相関関係がありそうです。

いずれの従業員規模においても、人事評価制度がある企業の方が、売上高増加率が高くなっています。これは注目に値する事実です。

実際、人事評価制度導入が企業の生産性向上につながる可能性を指摘している研究結果もあります。しかし、だからといって導入すれば即、売上増につながるという因果関係ではないのは明らかです。透明性や公平性に欠ける評価制度では従業員のエンゲージメントにつながりません。

人事評価制度は環境整備です。

それを導入することで、「従業員の何をどうしたいのか?」そちらの方が大事です。「従業員の何をそうしたいのか?」を実現させた結果、収益上の成果が出るのです。

環境整備とはそういうものです。

4.人事評価制度を設けていない理由

経営者が考える人事評価制度を設けない理由を知ることを参考になります。考え方を修正する機会になるからです。

白書では7つの理由を挙げて、従業員規模別で人事評価制度を設けない理由を調査しています。

1)従業員が少なく、経営者が全従業員の状況を把握しているため
2)制度を設けても運⽤が困難であるため
3)⼈事評価をしても給与に反映できないため
4)従業員を評価する⾵⼟がないため
5)制度設計の⽅法が分からないため
6)導⼊後、従業員の反発が予想されるため
7)その他
(株)帝国データバンク「中小企業の経営力及び組織に関する調査」

そもそも人事評価制度を設けていない5〜20⼈規模の中小企業経営者(n=877)のうち82.2%の経営者が設けていない理由として挙げたのが1)です。

人事評価をしていない5〜20⼈規模の中小経営者のほとんどが、「従業員が少なく、経営者が全従業員の状況を把握している」ので我が社には人事評価制度は不要であると考えています。

しかし、先述の通り、環境整備と言う観点では、そうした考え方を修正すべきでしょう。あくまで環境整備です。受け手の従業員の立場で考える必要があります。

有無によって従業員はどう考えるか?それによって従業員の意欲がどう変わるか?です。

また、人事評価制度を設けていない101⼈以上規模の中小企業経営者(n=84)のうち53.6%が設けていない理由として挙げたのが2)です。「制度を設けても運⽤が困難であるため」です。

規模が大きいので、一人ひとりを評価する手間暇がかかり、そのために継続的にやれないと考えていると推察できます。101⼈以上規模の中小企業経営者(n=84)で人事評価をしていない経営者の半分はそう考えているのです。モッタイナイ感じがします。

規模の経済を手にできるポテンシャルがあるのです。製販一体となったら馬力のあるチームができあがります。運用が困難なら、運用が困難にならないやり方で従業員を評価すればいいのです。

目的は環境整備にあります。「ウチの会社は100人を超えるそれなりの規模なのに、人事評価制度もないのか!」と考える従業員にやる気を出して欲しいと頼むのも酷ではないでしょうか?

5.人事評価制度の役割

人事評価制度は何のためにあるのか?

種々議論があります。絶対評価をやって従業員の成績をきっちりつけよう、360度評価で客観性を高めた成績をつけたいなどなど人事評価の手法や方法はいろいろあるので、そこは、我が社に合ったやり方を選択すればいいのです。

ここでは、手法や方法ではなくその役割を重視したいのです。人事評価制度の役割は環境整備であると考えています。それがあることで従業員の動機づけを後押しすることです。ここが要点であると考えています。

したがって、持続してやれるようにします。必要以上に手間暇を要するのでは継続しにくいです。弊社がご支援している中小製造企業の規模感は概ね100人以下の少数精鋭ですから、継続性を重視しています。

継続できないと環境整備にならないのです。

そして、弊社は人事評価に経営者の主観が入ってもいいと考えています。製品機能のように工学的な判断基準が明確に数値化されていれば、主観の入りようがありません。しかし、従業員の評価です。相手は「人」です。

そうした「人」に、経営者の思考回路に沿った仕事をしてもらわないといけません。そうであるなら、経営者に共感してくれる従業員をピックアップすることが肝要です。経営者の主観が評価に含まれるはずです。

また、人事評価制度を通じて経営者は従業員1人ひとりと膝を詰めて語れます。経営者と従業員の信頼関係はコミュニケ―ションで構築するものです。人事評価制度はそうした機会も提供してくれます。この機能も大事だと考えています。

人事評価制度は動機付けのための環境整備のひとつです。

その観点で我が社に最適なやり方を考えます。

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