戦略的工場経営ブログ危機を乗り越え、再び確かな成長軌道へ
1.避けられない大きな問題に立ち向かう
2019年に起きた新型コロナ感染拡大のような予期しない問題が起きる度に、多くの中小製造企業はその問題に対峙し、乗り切ってきました。
そもそも問題は起こさないようにしたいのですが、中には避けられない問題もあります。今、直面しているロシアによるウクライナ侵攻や中国による台湾周辺の大規模軍事演習、円安や世界的なリセッションへの懸念などがそうです。
こうした予期せぬ問題は今後も起きます。こうした問題にどう立ち向かうか?経営者の姿勢が問われます。
中小企業白書2021年版のテーマは「危機を乗り越え、再び確かな成長軌道へ」です。新型コロナウイルス感染症が中小企業・小規模事業者に与えた影響を分析しています。危機を乗り越える取り組みや具体行動が整理されています。
2.最も影響の大きかった経済や事業環境の変化
事業の大幅な見直しを迫られる危機に直面したことがある企業を対象に「最も影響の大きかった経済や事業環境の変化」について尋ねました。中小製造企業(n=994)での結果です。
●最も影響の大きかった経済や事業環境の変化。n=994
リーマンショック (49.1%)
平成バブル崩壊 (8.8%)
大口取引先の受注打ち切り (7.3%)
東日本大震災 (7.0%)
その他自社特有の事情 (13.6%)
(出典:中小企業白書2021年版)
回答した企業の半分がリーマンショックを上げています。世界規模での金融危機の影響は大きかったようです。
当時は自動車部品工場に勤務していましたが、生産量が半分以下に落ち込み、工場が帰休しました。グローバルの影響を受けない中小製造企業はありません。
2.経営危機を乗り越える上で最も重要だった取り組み
事業の大幅な見直しを迫られる危機に直面したことがある企業を対象に経営危機を乗り越える上で最も重要な取り組みについて尋ねました。中小企業(n=2,427)での結果です。危機に直面する「前後」での取り組みを分析しています。
●経営危機を乗り越える上で最も重要だった取り組み。n=2,427
危機前の取り組み
新事業分野への進出、事業多角化 (24.2%)
資金繰りの改善 (18.5%)
人材の確保、従業員の待遇改善 (11.1%)
不採算事業からの撤退、中核事業への集中 (9.5%)
金融機関への相談、信頼関係の構築 (9.5%)
危機後の取り組み
資金繰りの改善 (17.4%)
金融機関への相談、信頼関係の構築 (12.5%)
不採算事業からの撤退、中核事業への集中 (11.7%)
雇用や人件費の削減 (11.7%)
新事業分野への進出、事業多角化 (10.4%)
(出典:中小企業白書2021年版)
危機に直面した「後」の取り組みを危機に直面する「前」の時点でやれていたら経営者は枕を高くして寝られます。家に火が付いてから必死になって消火活動をやるより、防火活動の方が気持ちも楽です。
ただし、言うほど簡単ではありません。それだけに消火活動ではなく、防火活動ができる経営者はすごいと言えます。ロードマップで計画的にやるのです。
3.危機を乗り越えるために行った事業戦略上の取り組み
総資本利益率2%以上の中小企業を対象に、危機を乗り越えるために行った事業戦略上の取り組みを尋ねました。
危機とはリーマンショックによる影響があった企業においてはリーマンショックによる危機を指します。また、リーマンショックによる影響はないがその他の危機を経験したことがある企業においてはその直近の危機を指します。n=520の結果です。
●危機を乗り越えるために行った事業戦略上の取り組み。n=520
本業回帰 (30.8%)
事業多角化 (17.3%)
事業転換 (4.4%)
海外進出・拡大 (2.7%)
その他 (20.2%)
特になし 30.8%)
(出典:中小企業白書2021年版)
最も多いのが本業回帰です。強みは本業にあります。我が社の本業は何か?我が社の強みは何か?整理しておけば、経営者のブレない軸をつくるのに役立ちます。
多角化をするにも本業が土台です。技術は絞り、品種を多角化するのが方針となります。
危機に直面したらシンプル イズ ベスト。一旦、本業に帰ってみます。我が社のDNAがあるからです。
4.危機を乗り越えるために行った雇用・人材以外の取り組み
先と同様に、総資本利益率2%以上の中小企業を対象に、危機を乗り越えるために行った雇用・人材以外の取り組みを尋ねました。危機の定義は先と同じです。
●危機を乗り越えるために行った雇用・人材以外の取り組み。n=520
新規顧客開拓 (56.5%)
生産効率改善 (40.2%)
高付加価値製品・サービスの拡充 (28.1%)
仕入先見直し (26.5%)
販売エリアの拡大 (24.8%)
(出典:中小企業白書2021年版)
経営者の仕事は外にあります。危機に直面しても売上が盤石ならひと安心ですが、そうはなりません。
外部環境の影響を受けるので、各種危機では売上も減少することになります。具体行動はトップ営業による顧客開拓、受注開拓です。半分以上の企業がそうしています。
危機に直面しても、受注さえあればなんとかなります。したがって経営者は常時も非常時も社長業に専念できていないとダメです。
生産効率改善も大事ですが、これは現場に任せます。現場キーパーソンに指示してやらせます。経営者は新規受注の確保です。
5.危機を乗り越えるために行った雇用・人材の取り組み
先の質問に引き続き、「雇用・人材」の取り組みについてです。
●危機を乗り越えるために行った雇用・人材以外の取り組み。n=520
役員報酬カット(52.5%)
賞与カット(47.9%)
減給(23.5%)
新規採用抑制(23.3%)
社内人材の教育・訓練(19.4%)
固定費のカットです。まずは経営陣の報酬カットをやっています。次に賞与。従業員の給与カットは最後です。人時生産性を高め、こうした事態を回避します。目指すは下げにも強い体質です。人時生産性を高めれば損益分岐点比率をグイグイ下げられます。
6.感染症流行前に経営計画を見直して役に立った経験
経営計画がどのように役に立っているかを尋ねました。
●感症症流行前に経営計画を見直して役に立った経験 n=4,149
自社の課題が整理された (35.1%)
円滑に資金調達ができた (34.7%)
従業員の雇用を守ることができた (31.0%)
事業のリスクを回避できた (16.9%)
適切なタイミングで設備投資を実施できた (15.7%)
従業員の士気が上がった (13.0%)
周辺の支援が得られた (10.5%)
新事業の立ち上げにつながった (7.8%)
経営危機を乗り越えることができた (7.4%)
特にない (15.5%)
複数回答、n=4,149
弊社はご支援先でロードマップ作成を指導しています。経営計画には、それを実務で活用している経営者にしか理解できないメリットがあるものです。
経営計画があろうがなかろうが、それなりに工場経営はできます。5億円規模、30~40人気のまでなら経営者の力尽くでも仕事を回せるからです。
しかし、それ以上になると徐々に経営者が辛くなります。社長業に専念できなくなります。ロードマップは経営者が楽に仕事を回せるようになる唯一の道具です。
上記の各項目を確認すれば納得できます。
貴社はロードマップを持っていますか?
7.本業回帰とロードマップ
我が社の強みを既存のお客様、新規のお客様に知ってもらってことは拡販で欠かせない取り組みです。我が社のモノづくりDNAを整理することになります。
今、売上減に直面している、あるご支援先の経営者はトップ営業を強化しようと考えています。付加価値額の積み上げが人時生産性を高める王道です。
トップ営業では、丸腰でお客様へお伺しません。商談を通じて、我が社を選んでもらえるように道具が必要です。
パンフや技術資料、説明動画。
説明動画を作成するにも、訴求点を絞らないとそれを見たお客様に刺さりません。
我が社の強み、お客様に訴求することを議論していると、創業当時のやり方に話が及ぶことがあります。実際、このご支援先では、先代の創業者が創業当時にやっていたやり方をヒントに説明動画で訴求する事項を設定できました。
本業回帰は、危機に直面したときだけではなく、我が社の強みを考える上でも大切です。そうした強みを経営計画で明文化します。言語化されたものは伝わりやすいです。
危機に直面したときの取り組みにも、儲かる工場経営のヒントがあります。危機に直面したときの思考回路を想像するのです。その時にやるであろうことを、今からやっておきます。危機に直面しても収益力低下を最小化するためです。