戦略的工場経営ブログ現場は利益を生み出す理屈を理解しているか?

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1.利益率、損益分岐点比率、労働生産性

中小企業白書2021年度版には2019年度の中小企業収益実績値が掲載されています。各種指標の平均値や中央値です。我が社の水準が分ります。

●売上高利益率
売上高経常利益率を2007年度と2019年度で比較しています。

大企業   5.2% 7.4%
 中規模企業 2.1% 3.1%
 小規模企業 1.1% 2.2%
 ※左数値が2007年、右数値が2019年

企業規模の定義は下記です。
大企業:資本金10億円以上
中規模企業:資本金1千万円以上1億円未満
小規模企業:資本金1千万円未満

企業規模に関わらず2007年度→2019年度で利益率は上昇しています。ただし、中小の成長率は大手の半分です。さらに中小製造企業における売上高経常利益率の分布は下記です。

2019年度中小製造企業の売上高経常利益率分布(n=24,186社)
0%未満(赤字)  16.9%
0%以上1%未満  14.0%
1%以上2%未満  11.2%
2%以上5%未満  23.6%
5%以上10%未満  20.6%
10%以上  13.7%

平均的な数値は3%前後です。この水準は10年以上前から変わっていません。貴社水準はどうですか?また、この調査によると赤字の中小製造企業は17%であることが分ります。さらに利益率10%以上の企業も14%あることにも注目です。大手以上の実績を上げているところもあります。

●損益分岐比率
2019年度の企業規模別損益分岐点比率です。

大企業   60.0% 
 中規模企業 85.1% 
 小規模企業 92.7% 

損益分岐点比率は売上減への耐力を表わします。目標は80%以下です。つまり売上高が今より2割減ってもまだトントン水準。これが概ね目標とされます。大手は60%台です。

経営者が枕を高くして寝たかったらこの数値を下げる必要があります。中小現場の管理者時代、担った職場は95%前後でした。毎月、ヒヤヒヤ・・・。

2019年度の中小製造企業損益分岐点比率の分布です。
(n=19,060社)
100%以上  19.9%
95%以上100%未満  11.4%
90%以上95%未満  10.5%
80%以上90%未満  16.7%
70%以上80%未満  11.1%
60%以上70%未満  7.9%
60%未満      22.6%

損益分岐点比率80%以下の中小製造企業が4割あります。収益力高く健闘している中小製造企業も少なくないです。大手並みの60%も2割ある事実にも注目です。

●製造業労働生産性
2019年度の企業規模別労働生産性です。
就業者1人当たり年間に稼ぐ付加価値額です。

中小企業 560万円
 中堅企業 757万円
 大企業 1,009万円
 (中央値)

企業規模の定義は下記です。
 大企業 資本金10億円以上
 中堅企業 資本金1億円以上10億円未満
 中小企業 資本金1億円未満

中小と大手の格差が明らかです。倍半分の差になっています。労働生産性は利益だけでなく従業員の給料も反映した指標です。経営者だけではなく従業員も気になります。

なお労働生産性は年間数値です。弊社で基準としているのは人時生産性です。工数当たりで人時生産性とすると、年間労働時間の影響を除外できます。
大手製造企業 6,500円/人時
中小製造企業 3,600円/人時
(出典:中小企業白書2018年度版)

中小はあらゆる指標で大手にかないません。ただ、これは平均値や中央値での話です。大手並みの実績を出している中小もある事実を忘れてはなりません。経営者は我が社の高みを目指します。

2.高みを目指すなら従業員へ儲かる理屈を教える

我が社の収益水準を知ったら、さらなる高みを目指したくなるものです。競合先には負けたくないと考えるのは自然なことです。人は具体的な数値で示されれば頑張りたくなります。

人時生産性を高めれば、結果として利益率や損益分岐点比率は良い方向へ向かいます。そこで共有したい考え方があります。

「製造業の収益構造が固定費vs付加価値額である」

これは人時生産性向上の要点です。共有できれば人時生産性向上の論点でベクトルが揃います。思考回路が一致したチームの凝集性は高いです。

一方、勘違いしている従業員がいるとベクトルが揃わず苦労します。儲けることが我が社の目的であるなら、従業員へ儲ける理屈を教えなければなりません。自然になんとなく習得させるものではなく、経営者が意志と意図を持って教えることなのです

製造業の収益構造は固定費vs付加価値額です。固定費と「積み上げた」付加価値額を比べた結果、生まれるものが利益です。これを知らないと、リードタイム短縮の狙いを理解できません。

なぜ、わざわざ詰めて、空けて、取り込むのだ?となります。商品の1つひとつに「利益」がぶら下がっているという誤解が原因です。

3.考え方が正しかったと確信を持った経営幹部

「やっと考え方を正しく伝えることができそうです。」
先月からご支援している企業幹部の言葉です。従業員が抱いている利益に対する勘違いを正すことができそうだと語ってくれました。

人時生産性向上プロジェクトの作戦会議のなかで収益構造を整理します。固定費の規模感を把握してから、商品別付加価値額を評価すれば、企業の収益構造が明らかになるわけです。固定費と「積み上げた」付加価値額と比べます。両者の差から生まれるのが利益です。

「現場では商品の価格を気にしています。」

安価な商品は1個当たりの利益が小さいので製造してもしょうがないと考えているようです。そんな雰囲気もあって、改善活動を促しても継続しません。利益が小さい商品を対象にやっても意味はないだろうというのです。

現場は価格が高いと利益が出る、価格が低いと利益が出ないと感覚的に考えてしまっています。これまで、そうした現場へ的確な指導ができませんでした。

先の幹部は商品別付加価値額の考え方を使えば作業者の勘違いを正せると考えたのです。商品別付加価値額はプロジェクトの作戦会議の中で取り上げた指標になります。

「自分の考え方が正しかったと確信を持てました。」

・利益は商品1個当たりの価格の高低だけで決まるわけではない。

・安価な商品でも積み上げれば利益に貢献する。

先の幹部は肌感覚でこのように理解していました。そうした考え方に至ったのには理由があります。

その幹部の昔の上司が商品1個当たりの利益にこだわっていたからです。その上司は見積もりで商品1個当たりの利益を計算し、その利益を達成できる価格以上で販売しなければならないと考えていました。いきおい見積もりが高くなります。

その見積では失注するのは明らか。そのことを上司へ説明しても、利益がでなければ売ってもしょうがないとの言葉が返ってきたのです。赤字商品は売ってもだめだというのが上司の考えでした。

しかし、その幹部は上司の考え方に納得できなかったわけです。

「そもそも売らなければ何も手にできないではないか?」

4.経営幹部が整理できたこと

固定費は経営者の将来投資ですから、付加価値額で固定費を回収するのが製造業の要点です。安価でも数量を増やせば付加価値額を積み上げて固定費を回収できます。安価であっても積み上げに貢献できると判断できれば、製造して固定費の回収をした方がいいのです。

商品1個当たりの利益の有無や高低ではなく、固定費回収の貢献度に焦点を当てるのです。

幹部の昔の上司は固定費を商品別に配賦してコスト評価し単価からコストを除去して、1個当たり利益を出していたと推察できます。考え方自体間違いではないです。ただし、固定費の配賦は恣意的です。状況を正しく説明できるとは限りません。

私達が知りたいのは経営者の想いを込めた固定費を1年間で回収できるのか?できないのか?

これだけです。

社長の想いが込めた固定費は原則、年間規模で「我が社のために・・・」と設定されます。それを販売数量、生産数量、工数、稼動時間等の「従量」で配賦するのには違和感があります。

商品1個当たりで評価できるのは利益ではなく、固定費回収の貢献度です。客観的に商品1個あたりの利益を出すことは無理と考えます。

経営者は先行投資としての固定費を回収したいのです。利益の前にこちらが先です。

5.値引き問題もシンプルに考えられる

全社で固定費vs付加価値額の考え方を共有できれば、値決めでしばしば問題となっている値引きの影響度も正しく判断できます。

・価格を10%値下げしたら利益は10%減る
これは○でしょうか?×でしょうか?

10%値上げと10%値下げを簡単な事例で計算します。

●単価100円の商品を1,000個販売したときの利益計算
(※下記の@は商品1個当たりという意味)
単価100円 @変動費60円 販売数量1,000個 固定費35,000円
@付加価値額=100-60=40
付加価値額=40×1,000=40,000
利益=40,000-35,000=5,000
5,000円の黒字です。

●上記の商品を10%値上げしたときの利益計算
単価110 @変動費60 販売数量1,000個
@付加価値額=110-60=50
付加価値額=50×1,000=50,000
値上げで付加価値額10,000円の増加、25%アップ
値上げ前で付加価値額を10,000円積み上げるのに必要な販売数量は
10,000÷40=250個
全体で1,250個の販売が必要、販売数量25%増。
値上げ10%は販売数量25%増やすのと同じ効果
その結果・・・・・
利益=50,000-35,000=15,000
値上げ前5,000円→値上げ後15,000円 利益が300%にアップ!しました。

●上記の商品を10%値下げしたときの利益計算
単価90 @変動費60 販売数量1,000個
@付加価値額=90-60=30
付加価値額=30×1,000=30,000
値下げで付加価値額10,000円の減少、25%ダウン
値下げによるダウン分を補填する販売数量は
10,000÷30=334個
全体で1,334個の販売が必要、販売数量33%増
値下げ10%は販売数量33%減らすのと同じダメージ
その結果・・・・・
利益=30,000-35,000=▲5,000
値上げ前5,000円→値下げ後▲5,000円 赤字へ転落!しました。

10%値引きでは、固定費を回収できなくなりました。その結果、赤字です。「価格を10%値下げしたら利益は10%減る」は誤りであることが分ります。

製造業の収益構造は固定費vs付加価値額です。商品1個当たりの利益は・・・ではなく、固定費と積み上げる付加価値額を比べる・・・・・と考えるのです。

6.経営者の右腕役には同じ思考回路を埋め込んでもらう

「価格を10%値下げしたら利益は10%減る」と考える幹部がいたら勘違いを指摘しなければなりません。経営者の意図した値決めができなくなります。

商品1個1個に利益がぶら下がっているのではなく、利益は固定費vs付加価値額の構造から生み出されるものだからです。経営者はご自身の意志や意図が込めた固定費に焦点を当てるよう幹部を指導する必要があります。

経営者の右腕役には同じ思考回路を埋め込んでもらうのです。

7.儲けの構造を共有してベクトルを揃える

人時生産性をアップさせ収益力を高めます。そうして利益率を上げ、損益分岐点比率を下げるのです。製販一体、全社一体感を持たない限り実現できません。工程間および部門間連携によるリードタイム短縮が収益力を生み出す原動力だからです。

ベクトル揃えが欠かせません。

我が社はなぜ経営改革をやるのか?成果を出すためにはどうすればイイのか?儲けの構造、収益構造を理解していないとこの辺りが曖昧模糊のままです。

経営者はトップダウンで教育し、従業員が「利益を生み出す理屈」を理解できるように促します。人は腹落ちしたことには頑張るものです。

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