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「なくせないか」の視点では、蟻の目と鳥の目を使い分けて開発テーマを見つける。

技術開発では効果とトレードオフとなる要因に留意する、という話です。

 

1.「なくせないか」の観点で付加価値を高める

金型を活用する製造方法にとって多品種化は少々辛いです。

品種ごとに金型一式をそろえねばならないからです。

金型を保管するスペースの確保、メンテナンスの工数増等、多くの課題があります。

少量多品種になればなるほど、金型の表面に発生する亀裂や摩耗をメンテする工数は

増える傾向にあります。

 

そこで、メンテナンス作業をなくせないかと考えます。

工学的には亀裂や摩耗をなくせないか?

そう考えて、金型表面に施すセラミック粉末のコーティングに着目するのは、

解決方針のひとつです。

 

従来から、あって当たり前と考えられている現象や行為を「なくせないか」と

考えることがカイゼンのきっかけです。

(カイゼンは「なくせないか、なくせないか」と考える)

 

特に「なくせないか」はリードタイム短縮に効果的です。

超短納期が高付加価値化につながることから、「なくせないか」の観点から生産技術や

製造技術を見直します。

 

一貫ラインの象徴である工程間のコンベアーを撤去して、新たにU字ライン(1人生産

方式)を導入した工場の事例は多く、組み立て工程が中心となる工場で実績が上がって

います。

多品種化、生産リードタイム短縮、仕掛削減を実現させています。

大きな視点で「コンベアをなくせないか」と考えた方がいたということです。

 

「なくせないか」の視点では、工程内での作業から工場の生産ラインを構成する

工程まで、自在に蟻の目や鳥の目を使い分けます。

 

工場オペレーションでは、現場リーダーは鳥の目を、各工程のキーパーソンは蟻の目を

役割分担として持つのが望ましいです。

 

 

 

2.ホンダ寄居工場での「なくせないか」の実践事例

ホンダはレーザーを使って自動車のボディー用鋼板を切り抜くブランキングシステム

を開発し、完成車工場である埼玉製作所寄居工場に導入しました。

(出典:日経ものづくり2016年7月号)

 

抜き加工であるブランク加工は金型を使いプレスで打ち抜くの一般的です。

それをホンダでは金型を使わずにレーザー加工で連続生産できるようにしました。

 

自動車のボディーを構成するインナーパネルとアウターパネルは下記の工程で加工

されます。

コイル材 → フィーダー → ブランク加工 → プレス加工

 

コイル材からブランキング材を打ち抜き、その後プレス加工で最終形状に成形する

流れです。

 

ブランク加工に必要な金型は1車種当たり上型と下型のセットで7セット分でした。

金型費用がかさむことに加えて、金型製作のリードタイムが3~4ヶ月程かかり

開発リードタイム全体への影響が避けられない状況でした。

 

金型を超短納期で製作できる新工程ができれば解決できますが、金型設計、金型加工

の技術的な制約条件に対応できる固有技術は簡単には生まれません。

 

そこで、ホンダは考えた。

金型をなくせないか。

ブランク加工の「金型レス化」です。

 

そこで、レーザー加工に焦点を当てて、金型レスのブランキングシステムを開発

しました。

その結果、金型費用が不要になり、新たな形状のブランク加工で必要なのは、

プログラムを作成するだけとなりました。

 

準備に3~4ヶ月要していたのが数日に短縮されました。

量産開始までの準備期間が短くなり、開発リードタイムが短縮されたわけです。

 

制約条件となっている金型をまるごとなくそうという発想で大きな成果が得られました。

「なくせないか」で取り上げた対象物がおおきければ大きいほど、取り組みの成果も

大きいです。

 

 

3.成果の波及効果

ブランク加工へレーザー加工を導入することで、金型費削減、開発リードタイム短縮

という成果が得られましたが、効果はそれだけに留まっていません。

 

ブランク加工の後工程となるプレス加工で使用するプレス金型の修正作業が不要に

なりました。

 

プレス金型は繰り返し使ううちに摩耗しますから、定期的に現状復帰を目的とした

金型修正作業が必要です。

溶接肉盛り後、放電加工等で図面寸法へ戻します。

 

修正作業中は当然、金型は使用できず、連続生産を可能にするには、生産工程上の

工夫を重ねるか、複数型でローテーションを組むか、いずれにしてもさらなるコスト

アップの要因になっています。

 

これらが不要になったのです。

 

プレス型の摩耗状況に合わせて、ブランキング材の形状をレーザー加工で微修正します。

つまり、摩耗したプレス金型を修正するのではなく、摩耗したプレス金型でも公差内

の形状に成形できるようにブランキング材を加工するわけです。

レーザー加工ではプログラム変更で自由に加工形状を設定できます。

 

ボディー軽量化のために薄くて強い高張力鋼板が使用され、金型の摩耗が従来にも

増して激しくなっているという背景もあり、金型修正に関連するトータルコストと

比較してプログラム変更のみで済むレーザー加工の方がランニングコストは安くなる

との判断がホンダではなされたようです。

 

 

4.新技術には弱点もある

ブランク加工を金型で抜き加工する最大の利点は、”早い”ことです。

上型で材料を打ち抜けば所定の処理は完了です。

 

それに対してレーザー加工は所定の形状に沿ってトレースしなければなりません。

レーザー加工の技術も高度化して、そのうち一瞬にして所定の形状に切断できる

ようになるかもしれませんが、今は、どうしてもレーザーヘッドを移動させながら

加工せざるを得ません。

 

少しでもトレース時間(加工時間)を短くするならば、レーザーヘッドを高速で

動かせるガントリーシステムが必要です。

 

レーザーヘッドを抱いたアームが上下左右に自由に動き、止まり、反転して逆方向へ

動き出す・・・・、こうした性能が不可欠です。

そこで、ホンダはガントリーシステムの可動部にCRFP(炭素繊維強化プラスチック)

製のフレームを採用しました。

 

つまり軽量化です。

可動部が重くては、慣性が働き俊敏な動きができない・・・・、自動車と同じです。

 

工作機械の機能を高めるためには軽量化も重要であるということです。

軽量化のトレンドは自動車や飛行機などの輸送手段に留まっていません。

 

こうして開発した新システムですが、加工時間は金型を使ったブランキングに比べて

20%程度遅いそうです。

遅い分はラインの数を増やすなどの対応が必要になると推察されます。

 

しかし、それ以上に開発リードタイムの短縮、ランニングコストの低減、経営資源の

有効活用等、全体最適の観点からメリットがあるとホンダでは判断しました。

 

「なくせないか」の視点では、工程内での作業から工場の生産ラインを構成する

工程まで、自在に蟻の目や鳥の目を使い分けて技術開発や製品開発の糸口を探ります。

 

鳥の目を必要とする規模の取り組みではメリットの波及効果が大きい一方で、デメリット

の影響も小さくないことに留意します。

 

新技術も万能ではなく、それまでの制約条件とトレードオフを成す項目が出てくる

こともあります。

 

工場オペレーションでは技術開発や製品開発で影響を受ける現場の要因を明確に

しておくことです。

こうした要因は指標として見える化されているのが望ましいです。

 

技術開発や製品開発による効果や影響を客観的に把握しやすくなり、開発が成功する

確度が高まります。

そして、最後の判断基準は全体最適です。

 

 

まとめ。

なくせないか」の視点では、蟻の目と鳥の目を使い分けて開発テーマを見つける。

技術開発では効果とトレードオフとなる要因に留意する、という話です。

 

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