戦略的工場経営ブログ新規参入企業
「新規参入企業」を目指しませんか?
1.デス・バイ・アマゾン
「競争の戦略」で有名なマイケル・E・ポーター氏は特定の事業分野における競争状態を決定する要因として5つの項目をあげています。
・既存業者間の敵対関係
・新規参入企業の脅威
・代替品の脅威
・売り手の競争力
・買い手の交渉力
企業の本質は変化へ対応すること、変化を創造することにあります。ですから、競争に勝ち、生き残るために、これら5項目の変化を検知することが不可欠です。変化に気付かず、あるいは気付いているけれどもなんとかなると、状況を自社のいい様に解釈して、従来の仕事のやり方を続けているとどうなるか・・・。
音楽業界におけるレコード→CD→データダウンロード、写真業界におけるフィルム→デジタル化、携帯電話業界におけるガラケー→スマホなどなど。技術の進化に伴う「新規参入企業の脅威」や「代替品の脅威」を実感できます。変化に対応できなかった企業は消えました。
驕れる者は久しからずの理のとおり、栄枯盛衰、多くの企業が市場からの退場を余儀なくされた歴史は皆さんのご存じのとおりです。技術進化を背景に、変化の振幅もスピードも大きくなっているモノづくりの業界において、「自分は大丈夫」という思い込み、心理学でいう正常性バイアスの罠に陥らないようにしなければなりません。
小売り業界にはデス・バイ・アマゾンという言葉があります。市場を根こそぎ奪うトロール網商法です。アマゾンが新規参入するときの手法でもあります。ご存知のようにアマゾンは世界最大級のECサイトを運営していますが、1995年7月にオンライン書店としてのサービスがその始まりとなっています。
スタート時、扱う商品は書籍のみでした。そこから登り龍の如くに成長を遂げ、扱う商品の種類を拡大し、既存の各種小売業界を脅かす存在になっています。おもちゃ業界で米トイザらスが消滅したのは、まさにデス・バイ・アマゾンです。貴社業界にとってのアマゾンはどんな企業でしょうか?
2.「新規参入企業の脅威」
自社が展開している市場や業界の新規参入障壁を強固にしておかないと、デス・バイ・アマゾンではないですが、新規参入企業にやられてしまいます。顧客に独自の価値を届ける視点を持たず、同業他社と同質の競争=価格競争のみに囚われていては、将来のアマゾンに根こそぎ顧客を奪われるかもしれません。
モノづくりの業界は技術の世界で戦っています。技術の進化によって新たなアマゾンが生まれるかもしれないのです。
近年の国内住宅業界では、IOT技術を活用した様々な新規事業が考えられています。
住友林業は木造軸組住宅の躯体などにセンサーを取り付けてデータを収集、分析して、住宅の安全性などを確認するサービスの開発に取り組んでいます。床下基礎部や天井部分に加速度センサーや浸水センサーを取り付ければ、地震や洪水への対応が可能です。
ミサワホームも住宅の基礎に取り付けた計測機が地震波を計測して、震度や被災状況を判定するサービスの開発に取り組んでいます。さらに、住宅の様々な部位に設置したセンサーによるメンテに役立つ情報収集や窓に取り付けたセンサーやカメラを活用した防犯目的の窓開閉モニタリングも開発中です。
こうして構築したIOTゲートウェイ(データの出入口)を活用すると応用が広がります。室温と湿度データによる「熱中症アラート」、水道の使用状況データによる高齢者の「見守りアラート」など各種の状況判断ができるようです。
パナソニックでは「エアコンみまもりサービス」に乗り出しています。室内の温度と湿度を測定するとともに、非接触方式のルームセンサーで人の動きを検知し、高齢者の見守りに活用しようとしています。
(出典:世界をつなぐ100の技術 日経BP)
これらは住宅業界を舞台とした、いわゆる「安全」「安心」を提供するサービスです。住宅の安全、安心といえば、多くの方はセコムやALSOKを思い浮かべるのではないでしょうか?セコムやALSOKは「安全」「安心」を顧客に届けている大手です。
ですから、「安全」「安心」提供市場を主導するセコムやALSOKにとって、上記企業は「新規参入企業」です。セコムやALSOKも手をこまねいているだけではなく、より価値の高いサービスを提供すべく知恵を絞っていることでしょう。
既存企業は新規参入障壁となる独自のサービスを生み出し、「新規参入企業」を迎え撃つのです。
3.自社が「新規参入企業」になる
請負型事業を展開している多くの中小製造企業では、自社に加えて、供給先の企業がどうなるかも見極める必要があります。自社が展開する請負型事業への新規参入者に警戒するとともに、受注先企業の動向にも気を配らないと、親亀がこけたら皆こけたになりかねません。
受注先企業との密接な関係、強固なパートナーシップは中小製造現場に安定した生産量を担保してくれますが、一方で依存度が高くなると、受注先企業の命運が自社の命脈にもかかわります。
「新規参入企業の脅威」は会社の規模に関係なく、旧態依然とした企業を市場から退場させます。ですから、かってのように大手受注先を確保していることは生き残りの保証にはならないのです。
国内市場が成熟化しているといわれる中、儲かるためには付加価値額を積み上げる事業展開が欠かせなくなりました。顧客に価値を認めてもらい、自社製品や自社サービスを選んでもらわないと事業の存続ができません。
顧客に独自の価値を届けられなければ、行きつくところは価格競争であり、同質の競合企業間における安売り競争に至るだけです。
貴社のモノづくり戦略では、価格競争を回避するようなストーリーを設定しているでしょうか?顧客に独自の価値を認めてもらい、付加価値額を積み上げます。そこで、付加価値額を積み上げるために、自社自体が「新規参入企業」になるのです。
技術の進化でこうした戦略が可能となりました。コア技術をブラシュアップし、差別化により競争力を高めます。
弊社が一緒に仕事をしている企業様でも、こうしたことに挑戦しています。
・大手の牙城を切り崩して、成熟業界でのトップを目指す。
・従来の土木建築分野に加えて、新たな業界の仕事に挑戦する。
・部品加工のみから、後工程を加えて、顧客へ新たな価値を届ける。
などなど。
請負型事業の中小製造現場でもコア技術に焦点を当てて強みを生かせば、自社が「新規参入企業」になることは可能です。参入に挑戦するということは、事業を成長させるチャンスでもあります。攻撃は最大の防御です。
既存事業を存続させるために、顧客へ届ける価値を追及して新規参入障壁を築きつつ、その一方で自ら「新規参入企業」になることへ挑戦です。デス・バイ・アマゾンを恐れるのではなく、柔軟性、機動性、小回り性、中小の強みを生かします。
「新規参入者」になって事業を成長させませんか?