戦略的工場経営ブログ人材確保のためにやらなければならないことは?

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中小企業の従業員数過不足DIはコロナ発生が発生した2020年以降、右肩下がりで悪化傾向にあります。従業員数過不足DIとは、従業員の今期の水準について、「過剰」と答えた企業の割合(%)から、「不足」と答えた企業の割合(%)を引いたものです。従業員数の不足感が増えるにしたがって、数値は減ります。

コロナで経済が停滞していた時、従業員数過不足DIはほぼゼロでした。「過剰」と感じる経営者と「不足」と感じる経営者は同じ程度だったということです。それが23年度では-40台になっています。-50が目前です。企業の人手不足が深刻化しています。

構造的にも就業者数の増加が見込めない中、日本の国際競争力を維持するためには、中小企業の生産性の引上げが必要であると中小企業白書2024年度版は指摘しています。

中小企業白書2024年版は中小企業が直面する大きな制約条件となる人手不足を乗り越えるための人への投資に焦点を当てています。人材確保についての現状と対応です。

1. 中小企業の経営課題 
 2.製造業での人材不足状況
 3.主な採用形態(事業規模別)
 4.中途採用/新卒採用に感じている課題 
 5.中核人材・業務人材の応募状況(製品・サービスの差別化度合い別) 
 6.経営者は応募者を増やす努力をする

出典は全て中小企業白書2024年版です。

1. 中小企業の経営課題

下記のデータは、現在対応する優先度が高いと考えている経営課題について確認したものです。

●中小企業の経営課題

(1)最も優先度が高い経営課題 n=21,526

人材の確保 46.6%
 ・人材の育成 13.1%
 ・財務・資金繰りの改善 7.5%
 ・資金の確保 7.3%
 ・業務の効率化 6.8%

(2)次点で優先度が高い経営課題 n=19,577

人材の育成 34.6%
 ・人材の確保 16.3%
 ・業務の効率化 14.8%
 ・資金の確保 6.7%
 ・財務・資金繰りの改善 6.6%

「人材の確保」、「人材の育成」が上位に並び、人口減少トレンドが続く中で、「人材の確保」は避けては通れない経営課題と認識されています。

トップ5以外の選択肢には新製品・新サービスの開発、後継者・後継者候補の選定、製品・サービスの差別化、技術・ノウハウの蓄積、投資案の検討、経営の透明性の確保、がありました。どれも重要項目ですが、優先度1番目と2番目は人材に関係した課題となっています。

2. 製造業での人材不足状況

そこで、中小製造企業における人材の過不足状況を見てみます。下記のデータは、中核人材と業務人材の過不足状況について、「不足」と回答した企業の割合です。

なお、「中核人材」とは「事業上の様々な業務において中核を担う人材」、「高度な専門性を有する人材」のことです。

また、「業務人材」とは、「事業運営において、各部門/業務の遂行を担う人材」、「専門性や技術レベルは高くないが、事業の運営に不可欠たる労働力を提供する人材」です。

●製造業での人材不足状況

「不足」と回答した企業の割合
 ・中核人材  75.4% (n=6,515)
 ・業務人材  61.2% (n=6,515)

いずれの人材においても半数以上の企業が「不足」と回答しています。特に中核人材については7割超の企業が「不足」と回答しており、業務人材に比べて不足感が大きいです。

3. 主な採用形態(事業規模別)

次のデータは、企業規模別の主な採用形態を見たものです。中小企業は、従業員数の観点で、常時雇用する従業員が300人以下、小規模企業は20人以下と定義されています。

●主な採用形態(事業規模別)

大企業(n=215)
 ・中途採用メイン 35.8%
 ・新卒採用メイン 48.8%
 ・未回答 15.3%

中小企業(n=1,335)
 ・中途採用メイン 60.0%
 ・新卒採用メイン 16.9%
 ・未回答 23.1%

うち小規模企業(n=507)
 ・中途採用メイン 63.5%
 ・新卒採用メイン 8.9%
 ・未回答 27.6%

中小企業は「中途採用メイン」と回答する企業が6割になっています。また、中小企業のうち小規模企業に絞って見ると、「中途採用メイン」と回答する割合がより高いです。規模の小さい企業は中途採用で即戦力を求めている傾向にあると白書は指摘しています。

あるいは、新卒を採用したくても、大手が地域の候補者を根こそぎ持っていってしまった結果かもしれません。採用候補者が大手を優先的に選択していればそうなります。

4.中途採用/新卒採用に感じている課題 

次のデータは、直近3年間で中途採用/新卒採用を行った企業が、中途採用/新卒採用に感じている課題を見たものです。複数回答です。

●中途採用/新卒採用に感じている課題

中途採用の場合(n=15,682)
  ・応募が少ない 61.1%
  ・指導する⼈材の不⾜ 23.6%
  ・早期離職が多い 17.1%
  ・採⽤に⾄る判断材料が少ない 14.2%
  ・育成に時間がかかる 9.9%
  ・育成コストが⾼い 6.3%
  ・その他 5.6%
  ・特にない 13.5%

新卒採用の場合(n=7,521)
  ・応募が少ない 62.8%
  ・育成に時間がかかる 44.5%
  ・指導する⼈材の不⾜ 37.3%
  ・早期離職が多い 21.2%
  ・育成コストが⾼い 12.1%
  ・採⽤に⾄る判断材料が少ない 10.7%
  ・その他 2.5%
  ・特にない 7.0%

中途採用も新卒採用も割合が最も高い回答は「応募が少ない」です。6割以上になっています。また、新卒採用の場合、「育成に時間がかかる」、「指導する⼈材の不⾜」が問題点として挙げられていますが、応募者があっても、その機会を活かせていない状況が読み取れます。

ただ、中途でも新卒でも、そもそも採用の際の応募者が少ないことが大問題です。応募者を増やさないと採用に至る成功事例を積み上げられません。ここは確率論の話です。人材の不足感の原因のひとつに、そもそも応募数が少ないことがあるとも推察されます。

5.中核人材・業務人材の応募状況(製品・サービスの差別化度合い別)

白書では興味深い調査をしています。次のデータは、製品・サービスの差別化度合い別に、中核人材・業務人材の応募状況を見たものです。

応募が少ないので人材の不足感が発生していると推察しました。そうであるなら、どうすれば応募者が増やせるか?そこで、製品・サービスの差別化度合いと応募状況との関係を調査したのです。

自社の製品・サービスの差別化度合いを5段階で自己評価してもらったうえで、応募状況を4段階評価しています。

自社の差別化度合いを5段階評価する
 5)我が社は差別化が⼤いにできていると考えている企業  (n=1,187)
 4)我が社は差別化がある程度できていると考えている企業  (n=8,988)
 3)我が社は差別化はどちらともいえないと考えている企業  (n=4,690)
 2)我が社は差別化があまりできていないと考えている企業  (n=1,665)
 1)我が社は差別化が全くできていないと考えている企業  (n=361)

そして、各企業の採用候補者の応募状況を4段階評価する。
 ・⼗分に応募がある
 ・ある程度応募がある
 ・あまり応募がない
 ・全く応募がない

差別化度合い5段階評価、最高の5,真ん中の3,最低の1に該当する企業での応募状況を調査した結果を下記に示します。

●中核人材および業務人材の応募状況(製品・サービスの差別化度合い別)

5)我が社は差別化が⼤いにできていると考えている企業  (n=1,187)
 3)我が社は差別化はどちらともいえないと考えている企業  (n=4,690)
 1)我が社は差別化が全くできていないと考えている企業  (n=361)

〇中核人材の応募状況について

5)我が社は差別化が⼤いにできていると考えている企業  (n=1,187)
 ・⼗分に応募がある 4.0%
 ・ある程度応募がある  23.3%

 ・あまり応募がない  44.5%
 ・全く応募がない 28.2%

3)我が社は差別化はどちらともいえないと考えている企業  (n=4,690)
 ・⼗分に応募がある 1%以下
 ・ある程度応募がある 9.9%

 ・あまり応募がない  49.8%
 ・全く応募がない 39.7%

1)我が社は差別化が全くできていないと考えている企業  (n=361)
 ・⼗分に応募がある 1%以下
 ・ある程度応募がある 5.0%

 ・あまり応募がない  28.0%
 ・全く応募がない 66.2%

〇業務人材の応募状況について

5)我が社は差別化が⼤いにできていると考えている企業  (n=1,187)
 ・⼗分に応募がある 6.5%
 ・ある程度応募がある  37.8%

 ・あまり応募がない  39.6%
 ・全く応募がない 16.1%

3)我が社は差別化はどちらともいえないと考えている企業  (n=4,690)
 ・⼗分に応募がある 1%以下
 ・ある程度応募がある 21.7%

 ・あまり応募がない  52.4%
 ・全く応募がない 24.7%

1)我が社は差別化が全くできていないと考えている企業  (n=361)
 ・⼗分に応募がある 1%以下
 ・ある程度応募がある 16.5%

 ・あまり応募がない  38.8%
 ・全く応募がない 43.4%

核人材・業務人材のいずれについても、製品・サービスを差別化しているほど、人材採用の応募を獲得できている傾向あります。


「十分に応募がある」、「ある程度応募がある」割合の合計を、差別化が全くない企業→どちららともいえない企業→大いにある企業の順に、概算の数値を並べると、

中核人材の応募があると感じている企業の割合
 ・5%→10%→30%

業務人材の応募があると感じている企業の割合
 ・15%→20%→45%

差別化の度合いが高まるにつれて、応募者数が増える傾向にあるのです。

差別化度合いは自己評価なので、回答者の主観を含んでいることに留意しなければなりませんが、今回の結果は、応募者を増やすヒントになりそうです。他社との差別化により自社の魅力を高めれば、良好な応募状況につながる可能性があります。

6.経営者は応募者を増やす努力をする

人材不足は多くの中小製造企業経営者が直面している経営課題です。少子化は避けられない将来となっています。そうであるなら、経営者がやることは人時生産性を高める事業モデル構築と人材確保です。

前者では、外と内での連携、製販一体でお客様に選ばれる商品を開発して、効率よく造ることが課題です。そして、後者では、応募者を増やすことが課題になりそうです。

応募者が多い企業では、他社と差別化が図られています。他社にはない魅力を持っているのです。

「採用活動」という言言葉に、会社側が採用候補者を選別するというニュアンスがあります。しかし、現実は逆です。採用候補者に我が社を選んでもらわないと、応募はゼロとなります。選んでもらうためには、会社としての魅力が無ければなりません。

結局、競争戦略で勝ち抜く差別化がある企業が、採用活動でも勝ち抜き、生き残るのです。差別化戦略は採用候補者の応募を獲得するためにも大事であると白書は語っています。経営者には、採用候補者に我が社を選んでもらう観点が、今後、求められそうです。

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