戦略的工場経営ブログ将来のために
将来のために、今、何をしていますか?
1.将来を知ることはできない
「未来を知ることはできない」
ドラッガーの言葉です。そして、続けて、このように語っています。
「未来は、今日存在しているものや、今日予測しているものとは違う。」
セミナーなどで、「3つの改革」をご紹介することがあります。弊社が考える、生き残るのに欠かせない戦略です。技術進化が進むモノづくりの業界にあって、中小製造現場が実践すべき改革となります。
・組織的に仕事をするチームに変える、現場改革。
・顧客視点を持つように変える、意識改革。
・儲かる体質に変える、構造改革。
弊社では、価格力と現場力を連動させて付加価値額を積み上げる手法をご指導しています、これは儲かる体質に変えること、つまり構造改革に他なりません。
モノづくりは、技術の世界で戦っています。その技術の進化が加速されている昨今、現状維持という戦略はあり得ません。相対的な後退を意味するからです。したがって、変わること、変えることが生き残りの前提条件となります。
しばしば申し上げていることですが、「現場に問題はありません。」という現場リーダーがいたら、生産性向上云々に言及する以前の状況です。本来、経営者を支援し、改革を推進するべきリーダー役が、そうした思考回路のままでは、当然、変われません。
積極的、能動的な「変化」への対応が、豊かな現場をつくる唯一の戦略となります。そして、それは結果として、多くの経営者が望んでいる従業員の幸せに繋がるのです。ですから、経営者は、現場へ、変わることが幸せに通じると訴え続けなければなりません。
変わること、変えることには、エネルギーが必要です。場合によっては、リスクを伴うかもしれません。現状維持の方が遙かに楽です。しかし、それは「ゆでがえる」を意味します。ドラッガーは、変わること、変えることの重要性を先の言葉で私達に伝えているのです。
2.予測できなければ、自分で設定すればいい
ドラッガーはこうも語っています。
「(中略)明日は必ず来る。そして、明日は今日とは違う。そのとき、今日最強の企業といえども、未来に対する働きかけを行っていないならば、苦境に陥ることになる。(中略)新しいことを起こすというリスクを避けて、起こってくるものに驚かされるというはるかに大きなリスクを負うことになる。」
「ゆでがえる」のままでは、事が起きた時のダメージが大きくなる・・・。
変わることに対して腰の重い現場への警告です。変化へ対応する心構えがなければ、そうなったとき、どうしようもなく、あたふたするのは自明の理ではないでしょうか。その一方で、未来は予測できないとも言っているのです。
自らを変えるには、なんらかの目標を持つ必要があります。すると、5年先、10年先の将来を明らかにしなければなりません。が、その将来を「予測」することはできないと、ドラッガーは言っているのです。
そうであるなら、私達自身が、5年先、10年先にくるであろう将来を「設定」するしかありません。自分の頭で考えて、来るであろう将来を決めてしまえばいいのです。では、5年先、10年先にどのような将来を迎えることになるのか?
技術トレンドは考える手がかりのひとつです。
3.技術トレンドから考える
ここに日経BP総研と日経BPコンサルティングが2018年6月、7月に実施した調査結果があります。
(出典:世界をつなぐ100の技術 日経BP)
ビジネスパーソンが期待するテクノロジーのランキングです。1006名のビジネスパーソンから回答を得ています。75件の技術が対象です。質問は2つです。
「2019年に期待度が高いと思うテクノロジーを最大5つ回答して下さい。」
「2030年に期待度が高いと思うテクノロジーを最大5つ回答して下さい。」
2019年でのトップ5は下記です。
1位 AI・音声対話(63.3%)
2位 AI・機械学習/深層学習(62.7%)
3位 自動運転・操舵(55.4%)
4位 IOT(53.9%)
5位 自動運転・駐車支援(46.7%)
その他、モノづくりに関連した技術では下記があります。
現場支援ロボットは12位(31.6%)
IOT工場は15位(28.8%)
金属3Dプリンターは18位(23.0%)
協働ロボットは20位(22.4%)
これが2030年となるとどうなるか?
1位 再生医療(56.0%)
2位 自動運転・操舵(47.5%)
3位 AI・機械学習/深層学習(43.2%)
4位 量子コンピューター(42.1%)
5位 自動運転・駐車支援(42.0%)
また、先に挙げた、その他、モノづくりに関連した技術の2030年はどうなるか?
現場支援ロボットは12位(26.8%)
IOT工場は29位(15.6%)
金属3Dプリンターは31位以下
協働ロボットは9位(28.6%)
そして、IOTは30位(14.4%)
2019年と2030年で期待される技術のランキングを比べると、興味深いことに気付くのではないでしょうか。2030年では、IOTとIOT工場が、大きくランキングを下げています。(金属3Dプリンターも同様です。)
これは何を意味するのでしょうか?IOTやIOT工場への技術期待度が下がるのでしょうか?そうではないでしょう。
多くの人は、2030年に、これらの技術が「あたりまえ」になると考えているようです。
2030年、中小現場でも、IOTを「あたりまえ」のように使う時代がやってきます。そうなると、積極的に挑戦する現場とそうでない現場との間に生産性で大きな差異が生まれそうです。
生産性向上の道具として、情報通信技術を生かすやり方を知っている現場は大きなアドバンテージを得ることになります。
将来へ向けて、IOTをはじめとして、各種情報通信技術を現場で活用することを目指したいです。少数精鋭の現場でローコストオペレーションを実現させます。
将来のために今日、何をすべきかを決定するのは経営者の仕事です。現場は生産活動を通して、今日のための仕事をしています。
4.情報通信技術を生かせる現場に変わるには
IOT工場のキーワードは、「これまで取れなかったデータ」です。センシング技術やネットワーク技術、エッジコンピューティング技術によって、取ろうとしても取れなかったデータが、取れるようになりました。
そうしたデータを集め、分析して生産性を高めます。貴社の現場では、こうした仕事を組織的にこなせるでしょうか?
役割分担が不明確で、なにかと属人的な頑張りで仕事がやられている現場のままでは、上手くいかないことは明らかです。
まずは、生産性を高める要因が共有されていなければなりません。原材料の状態、設備の調整具合、あるいは現場スキルの優劣や外気温や湿度などの外的要因などなど。さらに、こうした要因と生産性向上との因果関係を明らかにする必要もあります。
これは現場独自のテーマであり、この要因分析が組織的に為されていること、そして分析結果が共有されていることが大切なのです。曖昧な個人のノウハウにとどまらず、論理的なモノづくりが求められます。
現場の一体化、タテの連携がなければ、モノづくりの全体最適化に至りません。工程間連携がなされていない現場で、いくら工程会議のような全体会議をしても、ほとんど前向きの意見が出てこないのと同じです。
議論をして、結論を導くのも現場が持つスキルのひとつであり、これは連携力によって高められます。人と人が繋がることで情報が共有され、そこから化学反応が起きるのです。
「現場に問題はありません。」という現場リーダーがいたら、それは論外と申し上げました。そうした現場に共通するのは、相互に連携する雰囲気が希薄であること、(その結果)化学反応が起きないことです。
そもそも、「生産性を高めるのに、こうしたデータを取りたいのだが・・・」と考えることもないでしょう。そうしたいという欲求がないところで、それができるようになってもスルーです。
満腹の人に、どれほどすばらしく美味しい食事をすすめても、スルーするのと同じです。
納期遵守の重要性は、これまでも、これからも変わりません。ただ、納期遵守をしていれば問題はないだろうという思考回路だけでは、志高い仕事を期待するのも難しく、儲かりません。
付加価値額人時生産性を高める観点がないと、豊かに成長させる固定費を回収できないのです。生産性向上を製販一体となって議論します。現場に問題がないと思い込んでいる現場リーダーがいたら経営者が導くことです。
5.人と人を繋ぎ、連携力を強化する
将来に向けて、現場でIOTをはじめとする各種情報通信技術を活用したいのなら、今、何をすべきか考える必要があります。従来の延長線上にはない、データを生かす、新たな仕事のやり方が求められるからです。
組織的にデータを集め、組織的に分析して、組織的に生産性を高める仕事のやり方を身に着けます。
そうした現場では、役割分担が明らかで、相互に補完しようという活気に満ちています。そうでなければ、データを生かして良い仕事をしようという気も起きないものです。人と人を繋ぐこと、連携力を強化します。
情報通信技術は道具に過ぎません。組織で、チームで、連携力を生かして仕事をする姿勢の有無の方が大切です。設備や工場を繋ぐ前に、人と人を繋ぎます。工程間連携が機能し、化学反応が起きる現場でこそ、IOTの機能を最大化させられるのです。
未来を予測することはできません。できるのは、起きるであろう将来を自ら設定して、それに向かって取り組むことだけです。今後の生産性向上では、情報通信技術がキーテクノロジーであると予想されます。
将来、それを生かすために、今、何をすべきか考えたいです。
そうすることが、”事を起こさない”最良の危機管理にもなります。
起きるであろう将来を自ら設定して、それに向かって取り組む仕組みをつくりませんか?