戦略的工場経営ブログ人手不足問題に直面したときの対応方針は?
中小企業白書2024年版では中小企業の雇用の状況について解説しています。コロナ後の需要回復を受けて、直面しているのは人手不足問題です。これらの解説から、中小製造経営者が直面する人手不足問題への対応方針を考えます。
1.中小企業の売上額DI、従業員数過不足DIの推移(概数)
2.人手が不足していない企業のその要因
3.人手不足対応の取組の内訳(企業規模別)
4.外国人労働者数と就業者数全体に占める割合の推移
5.人手不足問題への対応
出典は全て中小企業白書2024年版です。
1. 中小企業の売上額DI、従業員数過不足DIの推移(概数)
中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」による景況調査を用いて、中小企業の売上額DI、従業員数過不足DIの推移(概数)を見ると下記のようになっています。
なお、売上額DIは、今期の売上額について、前年同期と比べて「増加」と答えた企業の割合(%)から、「減少」と答えた企業の割合(%)を引いたものです。
また、従業員数過不足DIとは、従業員の今期の水準について、「過剰」と答えた企業の割合(%)から、「不足」と答えた企業の割合(%)を引いたものです。
●中小企業の売上額DI、従業員数過不足DIの推移(概数)
売上高DI(概数)
2020年第2四半期 -70%pt
2023年第4四半期 -5%pt
従業員数過不足DI(概数)
2020年第2四半期 -1%pt
2023年第4四半期 -48%pt
これを見ると、コロナ後の需要回復を受けて中小企業の売上げが回復基調(約65%pt改善)にある一方、人手不足感は強まっている(約45%pt悪化)ようです。需要回復を受けて、中小企業では人手不足が深刻な課題となっています。
2. 人手が不足していない企業のその要因
人手不足問題に直面していない企業に共通していることを探ります。下記は人手が不足していない中小企業のその要因を整理したものです。n=319のデータです。複数回答です。
●人手が不足していない企業のその要因(n=319)(複数回答)
賃金や賞与の引き上げ 52.0%
働きやすい職場環境づくり 35.1%
定年延長やシニアの再雇用 31.7%
福利厚生の充実 25.7%
公平で公正な人事評価 23.2%
働き方の多様化やワークライフバランスの推進 19.1%
仕事内容の魅力度の向上 19.1%
業務プロセスの見直しなどによる効率化 19.1%
多様な人材の積極的な採用・登用 16.3%
機械化や自動化の実施 14.4%
「賃金や賞与の引き上げ」、「働きやすい職場環境づくり」、「定年延長やシニアの再雇用」がトップ3となっています。「定年延長やシニアの再雇用」は人手不足を解消する直接的な手段です。
ここでは、第1位と第2位に注目します。人手不足問題に直面していない中小企業の半数が「賃金や賞与の引き上げ」を実施しています。給料やボーナスのアップは従業員定着や採用活動に貢献するのです。
ただし、この施策は、当然ですが、付加価値額に占める人件費の割合に余力がなければできません。中小の労働分配率平均値は80~90%であることを踏まえると、「賃金や賞与の引き上げ」をできる企業とできない企業での人不足問題への対応状況に大きな差異が現われてきそうです。
人時生産性向上は生き残りのための課題となります。また「働きやすい職場環境づくり」も重要です。この施策による具体的な実施事項は不明ですが、他の選択肢の内容を踏まえると、チーム力や職場での相互補完性や応需援性を高めることではないかと推測されます。
これは「賃金や賞与の引き上げ」とは異なり、経営者に意志があればできることです。チーム力や職場での相互補完性や応需援性を高める仕組みづくりを推進します。この仕組みは今いる従業員が定着することに貢献するはずです。
3.人手不足対応の取組の内訳(企業規模別)
下記は、企業の規模別に人手不足対応の取組みトップ3を上位から並べたものです。複数回答です。
●人手不足対応の取組の内訳(企業規模別)
(1)1,000人以上企業での取組みトップ3
①採用、正社員登用
②臨時・パートタイムの増加
③派遣労働者活用
(2)300~999人企業での取組みトップ3
①採用、正社員登用
②在職者賃金改善
③派遣労働者活用
(3)100~299人企業での取組みトップ3
①採用、正社員登用
②在職者賃金改善
③派遣労働者活用
(4)30~99人企業での取組みトップ3
①在職者賃金改善
②採用、正社員登用
③求人条件緩和(賃金、労働時間等)
30~99人企業での取組みでは「在職者賃金改善」がトップです。規模が大きい企業は外から人を取り込んで解決していますが、100人未満の企業では、まずは内から手を打っています。給与などの処遇水準の高低は企業規模と比例すると仮定するなら、足元の強化からです。
在職者が安心して働き続けられるようにした後、外部から人を取り込むことになります。
・外部の前に内部へ向けて手を打つ
人手不足問題を解決する視点として加えたいです。
4.外国人労働者数と就業者数全体に占める割合の推移
前述の1.中小企業の売上額DI、従業員数過不足DIの推移で明らかなように、コロナ後の需要回復を受けて、中小企業では人手不足が深刻な課題となっています。課題解決の具体策として、白書では、外国人労働者の活用をあげています。
下記は、外国人労働者数と就業者数全体に占める割合の推移です。
●外国人労働者数と就業者数全体に占める割合の推移
外国⼈労働者数(万人)
2017年 127.9
2018年 146.0
2019年 165.9
2020年 172.4
2021年 172.7
2022年 182.3
2023年 204.9
就業者数全体に占める割合
2017年 2.0%
2018年 2.2%
2019年 2.5%
2020年 2.6%
2021年 2.6%
2022年 2.7%
2023年 3.0%
総務省「労働⼒調査(基本集計)」、厚⽣労働省「『外国⼈雇⽤状況』 の届出状況まとめ」(注)就業者数は年平均、外国⼈労働者数は各年10⽉末時点の数値
外国人労働者数は、感染症の感染拡大の影響により、2020年から2022年にかけて上昇幅が小さくなっていますが、需要回復と共に、足下では急激に増大しています。2023 年 10 月末時点では204.9万人です。就業者数全体に占める割合も、3.0%にまで増えつつあります。
5. 人手不足問題への対応
少子化による人口減少は避けられない外部環境変化です。それと共に生産年齢人口(15~65歳)も右肩下がりです。2020年から2050年の30年間で30%減るとの推定値も出されています。採用活動は限られたパイの争奪戦になることは間違いありません。
国内の採用候補者は大手が根こそぎ、ごっそり持っていってしまいそうです。足りない採用候補者を補うために外国人労働者の力も借りるのは必然的であるとも言えます。
中小製造企業で従業員を確保する採用活動は厳しさを増すことは明らかです。人材を確保するためには、国内での採用候補者や外国人労働者に、就職先として、我が社を選んでもらわなければなりません。労働市場は今後、ますます売り手市場になると推測されます。
経営者は、人材採用市場の状況を踏まえ、人材確保のために、「我が社を選んでもらう」取組みにも力を入れる必要があるのです。
・「我が社を選んでもらう」には?
我が社を選んでもらうために、まずは、今の従業員が定着してくれる職場づくりです。今の従業員が定着しないのに外から新たなメンバーを入れても何が起きるかは明らかです。
まずは足元を固めます。足元が固まれば、自然と新人を受け入れる体制ができます。採用活動は受け入れ体制の構築とセットです。
市場活動は外をやってから内ですが、採用活動は内をやってから、外です。