戦略的工場経営ブログ創業のとき、経営者に必要だったのものは?
中小企業白書2017年版のデータによると、起業後の企業生存率は2年後で90%、5年後で80%程度になっています。5年後、市場から退出している企業は5社に1社です。
企業である以上、市場と向き合わなければなりません。市場には競合とお客様が存在しています。競合に勝ち、お客様に選ばれて生き残れます。外部環境の変化に対応できない企業は市場を去らざるを得ないのです。
企業活動の前提条件としてゴーイングコンサーンが言われます。事業は継続してなんぼのものです。事業の豊かな持続的成長を実現させたい中小製造経営者にとって、何が大事なのでしょうか?
起業・創業のとき、経営者には何が必要だったのか。これはゴーイングコンサーンのヒントになるかもしれません。起業・創業のとき、それがあったから5社のうちの1社にならなくても済んだとも言えるからです。
1.経営者の年代別に見た、起業に踏み切れた理由
2.経営者が創業時に身につけていた能力・強み
3.創業期に確保した重要度の高い人材
4.開業資金の規模別に見た、売上高成長率・従業員数増加率の分布
5.各成長段階における、確保できた重要度の高い人材
事業を豊かに成長させるヒントを企業・創業時に求められたことから考えます。出典は全て中小企業白書2023年版です。
1.経営者の年代別に見た、起業に踏み切れた理由
下記は、起業に踏み切れた理由を経営者の年代別に見たものです。
●経営者の年代別に見た、起業に踏み切れた理由
30歳代以下(n=245)
・起業について、相談できる⽀援者がいた 31.0%
・⾝につけるべきスキルを習得した 26.1%
・家族や周囲からの納得を得られた 24.1%
40歳代(n=544)
・起業について、相談できる⽀援者がいた 30.5%
・資⾦調達の⽬処が⽴った 25.0%
・⾝につけるべきスキルを習得した 24.1%
50歳 代(n=403)
・起業について、相談できる⽀援者がいた 34.0%
・資⾦調達の⽬処が⽴った 31.0%
・具体的な事業化の⽅法がわかった 28.0%
60歳代以上(n=266)
・起業について、相談できる⽀援者がいた 39.8%
・資⾦調達の⽬処が⽴った 33.8%
・具体的な事業化の⽅法がわかった 28.2%
資料:(株)帝国データバンク「中⼩企業の起業・創業に関する調査」(注)複数回答のため、合計は必ずしも100%にはならない。
各年代で「起業について、相談できる支援者がいた」が最も高くなっています。起業・創業時に限らず、経営者が相談できる人を持つことは大事です。
経営とは判断、決断の連続です。その責任は経営者のみが負います。結局、経営者は一人です。判断・決断を他人に任せることはできません。
ただ、判断・決断のプロセスでは外部の力を借りることができます。
プロセスを客観化するためです。判断・決断には経営者の想いが込められます。その意味で、経営者による判断・決断とは主観的なものです。特にオーナーであることも多い中小製造企業経営者ならそうなります。自分の大切なモノですから当然です。
ただし、想いだけで突っ走るのもまずい場合があります。
人は人であるが故に避けられない一定の行動パターンがあります。認知バイアスはそのひとつです。思い込み、先入観によって非合理的になってしまうのは人として避けられません。
また、人は、自分の将来のことを考えるのは苦手とも言われています。どうしても今の自分に引っ張られます。
そんなこんなで避けられない行動パターンがあるなら、ここのところは外部の相談できる人に頼るのです。プロセスを客観化できます。
2.経営者が創業時に身につけていた能力・強み
白書では、創業時、経営者に備わっていた能力・強みを20あげています。 下記は、経営者が創業時に身につけていた、経営に関する20の能力・強みの有無です。複数回答です。
●経営者が創業時に身につけていた能力・強み
①業界に関する知識・経験(n=1,767) 79.3%
②リーダーシップ(n=1,763) 76.8%
③取引先拡⼤に向けた営業⼒(n=1,757) 65.4%
④製品・サービス等の知識、企画・開発の能力(n=1,751) 64.5%
⑤組織や従業員の管理能力(n=1,754) 63.8%
⑥事業計画の策定能力(n=1,767) 55.3%
⑦従業員の育成能⼒(n=1,749) 55.0%
⑧マーケティング能⼒(n=1,752 ) 52.3%
⑨経営について相談できるネットワーク(n=1,757) 50.5%
⑩⽣産・製造等の技術⼒(n=1,758) 45.0%
⑪決算書などの計数管理能⼒(n=1,763) 39.6%
⑫広告宣伝等のプロモーション能⼒(n=1,744) 28.2%
⑬IT・デジタル化に関する能⼒(n=1,752) 33.2%
⑭税務・法務等各種⼿続き等の実務能⼒(n=1,759) 25.1%
資料:(株)帝国データバンク「中⼩企業の起業・創業に関する調査」
「業界に関する知識・経験」の回答割合が最も高くなっています。次いで、「リーダーシップ」、「取引先拡大に向けた営業力」です。
事業をゼロイチで立ち上げたとき、早く達成したいことは売上の安定です。業界のことを知って、お客様へ働きかけて、売上を獲得します。経営者にはいろいろな能力・強みが求められますが、①と③は絶対です。
商売のスタートは「お客様に選ばれる」ことにあるので、経営者の仕事場は外にならざるを得ません。ここを他人に任せていたら、経営者は不要!となってしまいます。
3.創業期に確保した重要度の高い人材
工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにあります。経営者が一人で仕事はできません。先に挙げた外部の相談者の他に従業員の協力も得るのです。
下記は、創業期に確保した重要度の高い人材について該当すると回答した割合を示します。複数回答です。
●創業期に確保した重要度の高い人材
・経営者を補佐する右腕役人材 44.0%
・営業・販売に長けた人材 30.6%
・定型業務を行う人材 29.5%
・財務・会計に長けた人材 23.8%
・内部管理に長けた人材 22.3%
・経営企画に長けた人材 16.8%
・後継者候補となる人材 16.3%
・情報システムに長けた人材 16.1%
・研究開発・設計などができる高度な技術を持つ人材 15.4%
・マーケティングや商品・サービス企画に長けた人材 11.1%
・広報活動に長けた人材 8.9%
・その他 8.1%
「経営者を補佐する右腕人材」が最も多く、次いで「営業・販売に長けた人材」、「定型業務を行う人材」が多くなっています。外部の相談者に加えて、内部の右腕人材も大事ということではないでしょうか?
経営者の仕事場が外である以上、誰かに内のことを任せなければなりません。それが右腕人材です。人材の見極めがキモとなります。
さらに、事業の構造は「お客様に選ばれる」→「効率よく造る」です。上手に造ることを考える前に「お客様に選ばれる」ことを考えなければなりません。
だから、経営者の仕事場は外にあるわけですが、その業務の重要性を考えると、その経営者を実務上で補佐してくれる「営業・販売に長けた人材」は貴重と言えます。なかなか出会うことができない人材です。
よほど優れた営業や販売のスキルを持っている人材は、大手も引く手あまた、あるいは自分で商売をしています。
4.開業資金の規模別に見た、売上高成長率・従業員数増加率の分布
白書では、創業期における資金調達の状況が、その後の成長にどのような影響を与えるのかについて確認しています。下記は、開業資金の規模別に、売上高成長率と従業員数増加率の分布を見たものです。
なお、①売上高成長率は、創業時からの営業年数別に、2021年時点までの売上高の伸びが高い企業を上位から25%ごとに、4区分に分類し、「高」、「やや高」、「やや低」、「低」として集計した結果を使っています。
また、②従業員数増加率は、創業時からの営業年数別に、2022年時点まで の従業員数の伸びが高い企業を上位から25%ごとに、4区分に分類し、「高」、「やや高」、「やや低」、「低」として集計した結果を使っています。
①売上高成長率の分布、②従業員数増加率の分布では、「高」+「やや高」の割合を示しています。
●開業資金の規模別に見た、売上高成長率・従業員数増加率の分布
①売上高成長率の分布 「高」と回答した企業+「やや高」と回答した企業の割合
・1,000万円以上(n=767) 58.3%
・500万円以上1,000万円未満(n=545) 45.3%
・500万円未満(n=743) 37.8%
②従業員数増加率の分布 「高」と回答した企業+「やや高」と回答した企業の割合
・1,000万円以上(n=768) 58.4%
・500万円以上1,000万円未満(n=547) 48.1%
・500万円未満(n=743) 45.4%
開業資金の規模が大きいほど、売上高成長率と従業員数増加率の高い企業の割合が多くなっています。開業資金の規模が、その後の売上高の成長率や従業員数の増加率に影響を及ぼしているのかもしれません。
開業資金の規模は経営者が目指す事業規模と相関があると推測されます。事業規模を成長させたいとの経営の意志や意図の成果が売上高成長率や従業員数増加率に現れるのです。
事業を成長させたいという経営者の意志→積極的な人材採用→事業を成長させるための人材確保→売上高成長→さらに成長させたい・・・という豊かな成長スパイラルに入れます。
5.創業期と成長初期以降において、確保できた重要度の高い人材
中小企業白書2013版では、「質の高い人材確保」が企業の成長初期、安定拡大期における課題であると指摘しています。創業以降も人材の確保を進めていくことが重要です。
下記は、創業期(創業後3ケ月未満)と成長初期以降(創業後3年半以降)、それぞれにおいて確保できた重要度の高い人材について見たものです。「3.創業期に確保した重要度の高い人材」と同じ分類で数値の変化示しています。
●創業期と成長初期以降において、確保できた重要度の高い人材
創業期とは創業後3ケ月未満、成長初期以降とは創業後3年半以降を言います。各項目で創業期(n=2,257→成長初期以降(n=2,257)の数値を表記しています。
・経営者を補佐する右腕役人材 44.0%→52.5%
・営業・販売に長けた人材 30.6%→41.2%
・定型業務を行う人材 29.5%→35.8%
・財務・会計に長けた人材 23.8%→35.0%
・内部管理に長けた人材 2.3%→36.5%
・経営企画に長けた人材 16.8%→29.5%
・後継者候補となる人材 16.3%→31.7%
・情報システムに長けた人材 16.1%→28.1%
・研究開発・設計などができる高度な技術を持つ人材 15.4%→25.2%
・マーケティングや商品・サービス企画に長けた人材 11.1%→22.8%
・広報活動に長けた人材 8.9%→19.6%
・その他 8.1%→5.6%
創業期(創業後3ケ月未満)と成長初期以降(創業後3年半以降)、それぞれの段階においても、「経営者を補佐する右腕人材」と「営業・販売に長けた人材」の重要度が高くなっています。
さらに、成長段階が進むにつれて、その割合も高まっているようです。それ以外の人材についても、全般的に割合が上昇しています。成長段階に応じて多様な人材を確保していくことが大事です。
経営者を補佐する右腕役人材の確保は外で仕事をしなければならない経営者にとって不可欠の人材です。経営者が不在でも工場がしっかり回っていないと、経営者は安心して社長業に専念できません。経営者は右腕役を早期に指導する必要があります。人材の見極めも大事だからです。
不適切な人材を右腕役すると、経営者だけでなく、白羽の矢が立ったその人材も不幸になります。人に関する課題こそ、外部の相談できる人に頼るべきです。多様な外での事例が参考になるからです。