戦略的工場経営ブログ右腕役の能力開発は事業の命運を左右する
1.右腕役や幹部を自前で育成する
中小製造経営者の仕事場は「外」にあります。お客様と競合がいるのは市場だからです。スループット、付加価値額の源泉は外にあります。内にはありません。
右腕役や幹部に工場を任せて、経営者はお客様や競合に向き合わなければならないのです。したがって、経営者は自分に代わって工場を仕切る右腕役や幹部が欲しくなります。
頼れる人材を採用できれば、これほど嬉しいことはありません。ただ、これはほとんどかなわぬ夢です。それほどに優秀な人材なら、既に大手に引っ張られるか、自分で商売をやっています。
よって、多くの中小製造企業の右腕役や幹部は生え抜きにならざるを得ません。弊社にご相談をいただく経営者の「人」についての課題の多くは、右腕役と幹部についてです。工場を任せられる人材が不在であることやその育成方法で悩まれています。
右腕役や幹部を自前で育成するのは経営者の仕事です。
2.事業の命運を左右する
製造業は高度化、複雑化しています。職人が属人的なやり方で仕事をしても収益は限定的です。一人でやれることなど、たかが知れています。儲かる仕事は、高度で複雑な構造をしているからです。
製販一体、チーム一丸で取り組まないと、成果がでない時代になりました。できないことにも挑戦する雰囲気が必要になります。チームを引っ張る右腕役や幹部が必要です。経営者に代わって、右腕役や幹部が、経営者が望む思考回路を現場へ浸透させます。
競合と同じことをやっていても儲かりません。製販一体で、競合が容易にまねできない思考回路を持てば、差別化行動を安定して、継続させられます。
我が社にとっては、それが「普通」になれば強いです。組織ルーチンです。チームが身につけた言動、思考回路のことです。
経営者に代わって、繰り返し、繰り返し、繰り返し、作業者へ働きかける右腕役や幹部がいるから、組織ルーチンが出来上がるのです。右腕役や幹部の能力開発は事業の命運を左右します。
3.経営者が従業員に求めるスキル
中小企業白書2022年版には帝国データバンク「中小企業の経営力及び組織に関する調査」の各種調査結果が掲載されています。
中小企業経営者を対象に直面している経営課題のうち重視する経営課題をあげてもらいました。
人材 82.7%
営業・販路開拓 59.7%
組織 39.8%
商品・サービスの開発・改善 37.3%
財務 33.0%
技術・研究開発 27.3%
生産・製造 25.3%
(n=4,300で複数回答)
データには5年前の結果も掲載されています。5年間も同じ傾向です。チームワーク、コミュニケーション力を従業員に求める経営者が多いです。
どれも「人」に関係しています。これらのスキルが不足しているので起きている問題も少なくないということです。
チームワークが不足している:応受援性が低く、協働する雰囲気が希薄である
コミュニケーション力が不足している:自分の考えを他人へ伝えられず、他人の考えを理解する能力も低い
これでは高度化、複雑化した仕事をさばけません。つまり儲けられないのです。組織を導く人材が必要です。チーム力を機能させます。
経営者に代わって右腕役や幹部が現場を仕切ります。チームワーク、コミュニケーション力のスキルが求められるのです。さらにはマネジメント力も求められます。
では、どうやってチームワーク、コミュニケーション力、マネジメント力を鍛えるか?実務あるのみです。弊社がプロジェクトで右腕役の伴奏をしている理由はそこにあります。理屈よりも経験です。
4.経営者の姿勢が従業員に伝わる
従業員の能力開発に一生懸命な経営者とそうでない経営者。経営者にもいろいろです。弊社にご相談いただく経営者の方々のほとんどは、従業員、特に右腕役や幹部の能力開発を気にしています。
能力開発へ注ぐ経営者の熱量と従業員の仕事に対する意欲の高さとの関係を調べた、興味深い調査があります。
経営者の従業員の能力開発に対する積極性の度合いと「従業員の仕事に対する意欲が高く、意欲的である」と答えた企業の割合の関係は次です。
能力開発に対して非常に積極的な中小企業の場合(n=667) 87.6%
能力開発に対してどちらかと言えば積極的な中小企業の場合(n=2744) 77.3%
能力開発に対してどちらかと言えば消極的な中小企業の場合(n=797) 56.8%
能力開発に対して非常に消極的な中小企業の場合(n=63) 42.9%
興味深い相関です。従業員の能力開発に積極的な中小企業では、従業員の仕事に対する意欲が高く、意欲的であると回答した割合が9割近くに上っています。
そして能力開発への熱量が減るに従い、従業員が意欲的であると回答した割合は77.3%→56.8%→42.9%と減っています。
現場は経営者の言動を映し出す鏡です。経営者の言動がそのまま現場の言動につながります。能力開発の前に経営者ご自身の言動を振り返りが必要です。
5.経営者の計画や方針、人材像を明らかにする効果は?
人材の能力開発は大事です。技術が高度化、複雑化した昨今、従業員に求められるのは、スキルアップではなく、リスキリングであると言われています。
そうであるなら、経営者は能力開発について、従業員へ具体的にご自身の意志や意図を伝えなければなりません。経営者の頭の中は見えていないのです。
能力開発の計画や方針、目指したい人物像を明らかにします。これらを明らかにすると、いい効果が特定の項目へ波及するようです。売上高増加率です。
従業員の能力開発計画や方針の有無別と売上高増加率との関係は以下のようになります。
明文化された能力開発計画や方針がある(n=637)11.6%
明文化されていないが慣習的に能力開発計画や方針がある(n=2016)7.5%
能力開発計画や方針はない(n=1438)2.0%
売上高増加率は2015年と2020年を比較したものです。能力開発計画や方針を実務に生かすと売上高増加率は高くなっています。
さらには、求める人材像や従業員の目指す姿の明確化の状況別と売上高増率との関係は以下です。
求職者や従業員像を公表している(n=896)10.7%
公表していないが人物像を明文化している(n=567)9.8%
人物像は明文化していないが考えはある(n=1918)5.6%
具体的な人物像を考えていない(n=386)1.4%
売上高増加率は2015年と2020年を比較したものです。求める人材像や従業員の目指す姿を明確にして伝えると、先と同様、高増加率は高くなっています。つまり、そうすると従業員の能力開発がうまくいくのです。
自分がどんな能力を伸ばすべきなのか?時間軸は?、今後に期待されていることは何か?ひとり一人に、なってもらいたい状況をしっかり伝えれば、目標が明らかになります。従業員は経営者に期待されていることを目指しやすくなるのです。
つまり達成への後押しになります。仕事ぶりが磨かれるので、詰めて、開けて、取り込めるのです。売上高増加率も伸びます。
6.右腕役や幹部には言葉で伝える能力が求められる
能力開発で成果を出すためにやっていることは何か?売上高増加率の高い企業で実施しているOJT研修の効果を高める取り組みを回答してもらいました。
売上高増加率(2015年から2020年)の上位25%の企業で実施しているOJT研修の効果を高める取り組みは次です。
必要なスキルの明確化 53.8%
目標や達成基準などを記入した育成計画の作成 47.7%
実務マニュアルの作成 46.4%
担当業務の明確化 48.8%
重要なのは能力開発の成果を発揮する場を整備してあげることです。
書く力が求められます。仕組みづくり=マニュアルづくり=言語化です。右腕役や幹部は言葉で伝える力、文書で伝える力を鍛えなければなりません。
7.時間を味方につけて右腕役や幹部の能力開発を進める
人材の能力開発は時間がかかります。時間を味方につけます。したがって着手が早ければ早いほど望ましいのです。
人を見極め、右腕や幹部候補従業員を選びます。そうして、プロジェクトを通じて能力を高めるのです。仕事は実務を通じてしか身に付きません。
そうして右腕や幹部が儲かる工場経営の組織ルーチンをつくりあげます。外で汗をかいている経営者に代わって現場を仕切れる右腕や幹部がどうしても必要なのです。
プロジェクトを能力開発の機会とします。右腕役や幹部の能力開発は事業の命運を左右しているのです。
貴社では、右腕役や幹部の能力開発をどのようにやっていますか?