戦略的工場経営ブログ意欲的な若手を受け入れる環境整備とは?
1.出世したくない20代は8割
東晶貿易株式会社が運営する転職メディア「転職サイト比較」は、2022年6月3日~10日、全国の20代(20歳〜29歳)に対して、出世欲に関するアンケートを実施しました。調査対象は20~29歳の男女2327人(男性1127人、女性1200人)です。
・20代で今後出世したいと考えているのは22.4%
・出世欲のある20代の主な理由は「給料をあげたいから」
・出世欲のない20代が出世したくない主な理由は「責任のある仕事につきたくないから」
出世したくない20代は8割です。その主な理由は「責任のある仕事につきたくないから」になっています。
調査対象は20代なので、アンケート回答者が今の企業に入社したのは数年前です。入社を決断するにあたっていろいろ考えたことでしょう。不安や心配を感じる一方、前向きでポジティブな気持ちも抱いたはずです。
当然に資質や適性があります。組織人として上位の職位で働くのに向いていない人がゼロとは言いませんが、それにしても入社前から「出世は絶対にしないぞ!」と考える若手が8割いるとも思えません。
入社してから、上司や先輩方の仕事ぶりを目にした結果、「出世=苦労を背負うだけで損だ」とのイメージが思考回路に刷り込まれた恐れはないでしょうか?経営者の皆様はどう感じますか?
2.「責任」を避ける従業員
株式会社ライズ・スクウェアが興味深い調査をしました。「出世したくないと思っている男女」500名を対象に行なった調査です。調査期間は2022年6月17日~18日。
調査対象内訳は10代 0.2%/20代 21.8%/30代 38.6%/40代 23.8%/50代 12.6%/60代以上 3.0%。30代、40代を中心とした調査になっています。
出世したくないと考えている従業員を対象に尋ねました。「なぜ出世をしたくないのか?」男女別での結果です。
男性
1位:責任が増える(n=100)
2位:仕事量が増える(n=44)
3位:仕事と給料が釣り合わない(n=40)
4位:人間関係が面倒(n=11)
5位:やりたい仕事ができなくなる(n=10)
女性
1位:責任が増える(n=145)
2位:仕事量が増える(n=82)
3位:仕事と給料が釣り合わない(n=33)
4位:管理職に向いていない(n=29)
5位:人間関係が面倒(n=21)
男女ともに1位の理由が「責任が増える」になっています。これは、若手を対象とした先の調査結果の「出世したくない」理由と重なります。
若手だけでなく、中堅を中心としてベテラン世代も調査対象に含めた結果です。全世代に渡って、「責任」避けたいと考える従業員が少なくないようです。
経営者がこの結果を受け取ったら驚くはずです。これでは、組織を束ねる人材が出てきそうにありません。
ただし、この結果は従業員の本音でしょうか?何か原因があって出世したくないと考えるに至ったとも考えられます。出世したくない従業員の中には、次のように考えている従業員もいるかもしれません。
「責任感がないから責任を避けているのではなく、責任を果たす仕組みがないから責任を避けているのだ。」
責任を果たす仕組みがないのに、責任を果たせと言われても従業員は困ります。部課長は単なる肩書です。肩書だけで責任を果たすことはできません。
責任を果たす仕組みがあるから部課長は仕事ができます。貴社には責任を果たす仕組みがありますか?責任を果たす仕組みづくりは経営者の仕事です。
3.責任を果たす仕組みづくり
責任を果たす仕組みづくりでは、バーナードの組織活性化3要素を活かせます。
「共通の目標」
「コミュニケーション」
「貢献意欲」
チームなので「共通の目標」を設定する人がいなければなりません。それが経営者です。経営者は設定した目標をチームへ浸透させるために部下へ伝えます。
伝えられた部下は経営者が設定した「共通の目標」を実現させる計画を立てるのです。アクションプラン。計画対比実績を比べる管理業務が生まれます。
そして、管理する人はアクションプランを現場へ伝えます。社長が設置した「共通の目標」を成し遂げるための計画です。計画を成功させなければなりません。管理する人は現場と「コミュニケーション」を図り、経営者の意志や意図を浸透させるのです。
「コミュニケーション」を通じてアクションプランを理解した人は実務を進めるよう現場へ作業指示を出します。指示する人が現場を仕切るのです。
そして、指示する人からのメッセージで現場は作業に取り掛かります。社長の意志や意図が作業する人に浸透すれば、現場はチームとして機能します。
「コミュニケーション」を通じて醸成された仲間意識を持てれば、「共通の目標」を成し遂げるべく、仲間のために、チームのために頑張りたくなるのです。「貢献意欲」です。
弊社では「儲かる工場経営は経営する人、管理する人、指示する人、作業する人、4階層の重層構造をしている」とお伝えしています。その根拠のひとつがバーナードの組織活性化3要素です。大手と中小の現場でその重要性を体感しました。
重要構造でないと複雑化、高度化している製造業で製販一体のチームを機能させられません。この重層構造は指示導線になっているのです。
各階層は上を向いて役割を果たし、分担をこなします。これが整備されていて、初めて各階層の責任を果たせるのです。指示導線の環境整備は経営者の仕事です。
入社した会社で「指示導線」が整備されていれば、若手も職制に応じた上司や先輩の仕事ぶりを理解できます。職位が上でなければ味わえない仕事の醍醐味も分かるのです。
そうすれば、若手は、ネガティブなことよりも仕事のやりがいに焦点を当てやすくなるのではないでしょうか?経営者の意志や意図を浸透させやすい土壌ができます。
4.モチベーション
責任を果たす仕組みとして、指示導線が整備されていたとしても、一人ひとりの行動が喚起されなければチームが機能しません。引き続いてモチベーションの問題が出てきます。
榎本博明氏は著書「モチベーションの新法則」の中で「自己決定理論が当てはまらない日本人」を説明しています。少数精鋭の中小製造現場にも当てはめられる考え方です。
モチベーション理論で自己決定や自律性を重視する考え方がありますが、日本人には自己決定理論が必ずしも当てはまらないと説明しています。
「日本人の場合は、職場の人間関係によってモチベーションは大きく影響されます。それは文化的背景の違いが強くかかわっています。そもそも日本人の場合、就職と言うより就社だと言われることがあるように、就職の際に仕事そのものだけでなく職場の雰囲気や人間関係を非常に気にする傾向があります。(中略)そこで、まず、指摘しておきたいのが、日本人には自己決定理論が当てはまらないということです。」
同著では、米国で行われた7~9歳のアングロ系アメリカ人とアジア系アメリカ人の子供を「自己選択」「実験者選択」「母親選択」の3つのグループに分けて課題をやらせた結果も紹介されています。
モチベーションの自己決定理論によれば、「自己選択」のときにモチベーションが最も高く、「実験者選択」にしろ「母親選択」にしろ、一方的に他人から与えられたらモチベーションは低くなると予想されます。しかし、課題をやらせた結果は違っていました。
課題の正解数で判断すると、アングロ系では「自己選択」のときに最も成績が良かったのに対して、アジア系では、「母親選択」のときに最も成績が良かったのです。
アジア系では人と人との関係がモチベーションに影響を及ぼしています。自律性よりも大切だというのです。
また、文化自己観とは、文化によって自己の在り方が異なるとする見方です。同著ではアメリカ的な独立的自己観と日本人的な相互協調的自己観の考え方も紹介しています。
「独立自己観では、個人の自己は他社や状況といった社会的文脈とは切り離され、その影響を受けない独自の存在であるとみなします。それに対して、相互協調的自己観では、個人の自己は他社や状況といった社会的文脈と強く結びついており、その影響を強く受けるとみなします。」
さらに、日本では人と密接にかかわりたいと思う人ほど何かを成し遂げたい欲求が高いこと説明しています。
「困難に負けずに何かを成し遂げたいという欲求を達成欲求といい、人と密接にかかわりたいという欲求を親和欲求と言います。アメリカの調査結果では、達成欲求は親和欲求との間に相関がなかったり、負の相関がみられたりして、人と密接にかかわりたいと思わない人ほどモチベーションが高くなっています。それに対して、日本の調査研究では、両者の間に正の相関を報告するものが少なくないのです。すなわち、人と親密にかかわりたいと思う人ほどモチベーションが高いのです。」
最後の一文は私たちにモチベーションを高める環境装備の手がかりを与えてくれます。日本人は、仲間のために頑張りたい、人の役に立ちたいと考えることが多いのです。これは、稲盛和夫氏の「利他の精神」にも通じると感じます。
指示導線における上司と部下の関わり合いを強化することが具体策です。上司は部下をいつも気にかけます。フォローと評価を話し合う場を設けるのです。
上司は、個人目標管理シートで年間複数回、部下と密に話をします。そうすれば日本人的な相互協調的自己観により、モチベーションが高まってくるのです。
5.若手を受け入れる仕組みづくり
少子化で将来を担う若手の採用が難しくなってきました。お客様に選ばれない限り、新たな受注を手にできないのと同様、地元の若手に選ばれない限り、若手を採用できません。
外に合わせて、内を変えるのが儲かる工場経営の鉄則です。「出世したい」を思わる環境整備をやらなければなりません。責任を果たせるしくみづくりです。上司と部下と親和性も高めます。
●責任を果たせる仕組みづくり
「共通の目標」
「コミュニケーション」
「貢献意欲」
↓
重層構造の指示導線(経営する人、管理する人、指示する人、作業する人)の構築
↓
上司と部下の親和性を高める個人目標管理シートの実践
↓
責任を果たし、出世を目指して頑張る従業員を増やす。
↓
チームが機能しやすくなる。
↓
経営者は工場のことを現場に任せて、社長業に専念できる。
現場は小さなチームの組み合わせで構成されます。二人で構成されていてもチームです。人と人が関わり合いを持たなければイイ仕事はできません。チームは人と人の関わり合いを生み出します。仕事はチーム単位です。「責任」抜きでチームは機能しません。
事業性を成長発展させるために小さなチームが複数必要になります。責任を回避する従業員ばかりでは、経営者は忙しいままです。仕事を任せられず、いつまでたっても自分でやるしかありません。社長業に専念できないのです。
人づくりは重要課題のひとつです。時間がかかります。中途採用で優秀な人材を採用したいと考えたくなりますが、経営者が望む優秀な人材の多くは大手に行ってしまいます。
そこで時間がかかりますが、若手を地道に育てるのです。責任を果たせる仕組みが若手を受け入れるにあたって必要になります。上位の職位にあこがれを持たせる環境整備です。
こうした環境のもとで、現場は若手を育てるノウハウを積み上げられます。これは模倣困難な強みです。競合先は、元気な若手が次々と現れる貴社のことを不思議に思います。
出世したくない20代は8割です。が、逆にいうと出世したいと考える意欲的な若手が2割はいるとも言えます。優秀とか、知識があるとかよりも、意欲的な2割の若手に選ばれればそれでも十分です。
2割の若手に選ばれるためにも、責任を果たせる仕組みづくりをやらなければなりません。意欲的な若手は、工場見学の際、そこで働く人の顔つきや雰囲気で全てを悟ります。ここで見限られたら採用できません。
責任を果たせる仕組みづくりは今の人材と将来の人材に影響を及ぼすということです。ますますチーム力が問われます。現場の指示導線を構成する重層構造を整備するのです。