戦略的工場経営ブログ役割分担をやると現場で何が起きるか?

Pocket

1.スカイマーク

スカイマークは2015年1月に民事再生法適用を申請しました。伊藤も仕事柄しばしばお世話になる航空会社です。

そのスカイマークは、経営破綻後の危機的な状況の中、新たなことに挑戦してきました。部門を超えて従業員がアイデアを出し合ってきたのです。現場も事務所も一体でお客様視点に徹しています。

破綻した当時、お客様を他社に奪われないかとの危機感が現場にも広がりました。特に破綻直後の千歳空港支店は危機的な状況にあったようです。

新千歳便は競争が激しい路線です。気を抜くと競合にやられます。そこでお客様を引きとめる手立てはないかと知恵を出し合いました。手始めにやったことは・・・。

・手荷物引取所のベルトコンベヤにメッセージと一緒に熊の置物を乗せること。

お客様視点での取り組みです。荷物を待つお客様に喜んでもらおうと考えました。これは今も続いているようです。この熊はハロウィンでは仮装をし、クリスマスにはサンタ姿になります。SNSでしばしば話題になっているようです。

2.行動を起こした裏方

 滑走路で飛行機を誘導するのに加え、出発するお客様の手荷物を飛行機に積み込み、到着便から手荷物を素早く手荷物引取所に運ぶ仕事に従事しているチームがあります。ランプ管理課です。いわゆる裏方です。

お客様と接することはありません。そのチームでもお客様のために何かできないかと考えました。そして始めたこととは・・・。

・横断幕を掲げて、手を振りながらお客様を見送ること。

ランプ管理課のチームが横断幕を掲げ、手を振って見送りをしていると、手を振ってくれるお客様もいるようです。

裏方の仕事ですがお客様と心が通じ合えることを実感できます。現場の励みです。こちらもSNSで紹介されることがたびたびあります。

(出典:yahooニュース 2020年3月11日 安井孝之氏)

現場が自ら行動した結果です。会社方針があって云々ではありません。所属している会社が大変な事態に陥ったわけです。何かしなければという気持ちが従業員を動かしました。

使命感や当事者意識以外のなにものでもありません。こうしたメンバー構成されているチームに迷いは無いはずです。チーム一丸となっています。

自分の仕事は〇〇だから、それさえしっかりやっていれば文句を言われる筋合いはないだろうとか、会社が大変になってもそれは社長の仕事だから自分には関係ないとか、使命感や当事者意識に欠ける人はスカイマークの現場を理解できないでしょう。

中小製造企業の強みは柔軟性、小回り性、機動性にあって、多様な変化へ機敏に対応することが生き残りのカギであることを知っていれば、「自分の仕事は〇〇だから、それさえしっかりやっていれば・・・」などとのんきなことは言えないはずです。

こうした言動が許される現場に特徴的なことがあります。個々バラバラだということです。ベクトルが揃わず、チーム力が機能していません。つまり、中小製造企業の強みを自ら捨てている現場です。

3.あるリーダーの意見

人時生産性向上プロジェクトを進めているある企業様でのことです。チーム力強化を課題に掲げている現場から次のような声が上がってきました。

「ウチの現場では問題が起きると、“自分の担当ではない”とか、“これは〇〇が悪い”とか、“”そもそもそんなことをやっても意味がない“とか、自分には無関係と言う人が多いです。ベクトルが揃った状態とは、とてもじゃないけど言えません。」

仕組みづくりに関連してベクトルを揃えるポイントを指導したときの声です。ベテランと若手、前工程と後工程、製造と営業。全社一体となって難局に臨む・・・という雰囲気ではないというのです。

「なんでそうなってしまうのでしょう?」と問いかけると、それを言いたかったのですという風に次のような回答をしてくれた20代のリーダーがいます。

「ウチの現場では役割分担がはっきりしていません。社長が仕事をなんとなく割り振っている感じです。責任が曖昧になっているので、何か起きると互いに非難し合うのだと思います。」

「じゃ、どうすれば、イイでしょうね?」

解決策も問いかけたところ・・・。

「社長が業務の役割分担をはっきりさせて、責任感を持たせることです。役割が曖昧なので他人事のように考えるのだと思います。」

経営者の皆さんは個々バラバラになりがちでベクトルを揃えることが課題の現場をどうしますか?このリーダーが考えてくれたように業務分担を明確にして、責任の所在をはっきりさせますか?そうして、現場に一体感が生まれるとイイのですが・・・。

4.役割分担を明確にしたらかえってバラバラになる

役割分担を明確にしても、チーム力は高まらないどころか、かえってバラバラになります。

現場で日々起きていることを思い浮かべて下さい。決められたことが決められたように処理できているうちは問題ありません。

しかし、決められたことが決められたように起きないのが現場です。イレギュラー、非定常、非常時の出来事の方が多いかもしれません。

企業の存在条件は変化対応力の有無です。決められたことを決められたように処理しているだけでは生き残れません。

予想していなかったこと、経験したことのないこと、能力以上のことなど、新たなことに挑戦し、それを克服するから成長発展の現場に変われるのです。

そもそも、中小現場の強みは柔軟性、小回り性、機動性にあります。決められていない新しいことに挑戦してこそ技術革新や競合と渡り合えるのです。

分からないこと、困難なこと、曖昧なことにはチームで協力しながら対応します。これが中小製造現場でのやり方です。経験に基づく個力では通用しなくなりました。

5.役割分担をするとムダな議論が増える

柔軟性が期待される現場で、きっちりした役割分担制を敷くとどうなるでしょう。リーダーや作業者は「決められた役割をしっかりやればイイのだ」という思考回路を持つようになります。

それが自分の責任を果たすことになるからです。しかし、これでは現場は回りません。決められたこと「以外」の業務はやらなくてもイイと考えることを許してしまうからです。

現場の業務はきっちり線引きできるものではありません。仮に線引きできたとして、境界線上に存在する仕事が出てきたらどうするのでしょう。

これはあなたの仕事だろう。イヤ違う、境界線からそちらの方に入っているから私の仕事ではない。イヤイヤ、その線引きはおかしい・・・。

「そんな議論している暇があったら、さっさとやってしまえ!」と経営者は一喝するはずです。変化への対応が本業である中小現場の業務を分類、細分化、整理して分担することは元々ムリなのです。

仮にできたとしても、それは成長発展の否定を意味します。決められた業務をしっかりやるルールは、決められた以外の業務をやらなくてもイイと考える思考回路を許すからです。自分の立場を守ろうとするムダな議論が増えます。

新しいことに挑戦する雰囲気は生まれません。会社のために、仲間のためにという発想も生じません。使命感や当事者意識など望むべくもないわけです。

中小製造企業は人時生産性を向上させるために付加価値額を積み上げなければならないわけですが、そこで、欠かせないのはお客様視点。役割分担がどうのこうのと内側の論理で議論しているようではお客様視点は絵に描いた餅です。

現場がすったもんだしているからと言って、業務の役割分担制を導入するとかえっておかしくなります。貴社独自の使命感や当事者意識を高める環境づくりが必要なのです。これは危機への対応力をたかめる危機管理にも通じます。

6.使命感や当事者意識を高める環境づくり。

スカイマークの現場では従業員の一人ひとりが業務や部門の壁を越えて、お客様のためになにができるかを考え実践しました。こうした、一人ひとりの行動が経営危機を乗り越える原動力になったのは明らかです。従業員の使命感や当事者意識を高める環境があったのです。

業務や部門の壁を越えて自由闊達に意見交換できる雰囲気が会社再生を後押ししています。One teamです。業務役割分担の思考回路からは生まれません。

Pocket