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1.ある品質クレームでの出来事

 数年前のことです。

 ある100人規模の中小製造企業で品質クレームが発生しました。ただし、そのクレームは初めてではなかったのです。数か月前に1度、起こしてしまったクレームであり、その件で幹部が客先へ謝罪のために出向いています。

 2度目のクレームでした。

 

 1度目のクレーム対策のどこに問題があったのか?3現主義による慎重な対応が求められるのは明らかでしたが・・・。対策会議が始まったところで、その幹部は現場関係者を前に次のような発言をしたのです。

 「どうして同じ過ちをするのだ。前回のクレームで客先へ謝罪したばかりではないか。今回は現場に謝罪へ行ってもらう。客先での謝罪がどんなに大変か分かったら、もう間違えないだろう。」

 その幹部の頭の中は「必罰主義」で占められていたと推察できます。品質クレームの原因となった個人を追及しようとしていたのです。

 

 品種が限られ、大量生産でただひたすらに同じものを造る現場であるなら、作業者ひとりひとりは没個性でいいかもしれません。言われたことだけをもくもくとやればいいのです。

 作業者が失敗したら「なぜ失敗したのだ」とその失敗に罰を科して、2度と起こさせないようにする。作業者に考えることを求めなければ「必罰主義」は意味があるのかもしれません。

 

 しかし、そうした時代はとうの昔に過ぎ去っています。安定的に継続した受注が保証されていない昨今、付加価値額人時生産性を向上させるのが中小製造企業の生き残る唯一の道であり、現場ひとりひとりの自律性が求められるからです。

 全員商売人のような一体感で、儲けを積み上げる気持ちになってもらわないと知恵や工夫をひねり出す自律性は現場に生まれません。

 

 

 

 必罰と自律性は対極にあります。したがって、先の現場の体質(思考回路)は自ずと決まってくるのです。

 保守的で、まずは自分を守ろうとします。

 全身を鎧で覆った古代ギリシャ時代の戦士のような体質(思考回路)です。全身がガチガチで、失敗さえしなければ罰せられないから、ひたすらに無難を選択します。

 

 当時、先の現場でも改善活動が展開されていたのですが、活動テーマを議論しているときにしばしば出てくる言葉がありました。「結局、現場だけでやっても会社からの支援がないからやっても無駄だよね。」

 ”挑戦”とは真逆の”無難”にやることを優先する体質になり、その結果、組織で仕事をする機会のない職場が出来上がるのです。組織として、チームとして、失敗を次に生かせず、ただただ失敗した個人を追及してしまいます。

 仕組みやシステムを磨き上げて生産性を向上させようという発想がいつまでたっても生まれません。失敗の原因は人にあると考えている限り、そうなります。

 

 

 

 

 

2.ヒューマンエラーを防ぐには?

(独)産業技術総合研究所の中田亨氏は「ヒューマンエラー抑制のための理論と実践」(安全工学 vol52 No2(2013年))のなかで次のように語っています。

 安全工学界では「ヒューマンエラーは、事故の通過点に過ぎず、事故の原因として扱ってはならない」という見解が優位を占めつつある。

 いかに努力をしても発生確率をゼロにはできないヒューマンエラーの責任を問うても確率が大して減るわけでもなく無意味である。

 ヒューマンエラーの発生確率を抑える責任の根本は、もっぱら工程の段取りや機械のデザインの方にある。

 いわば人間のミスを、人間以外の箇所で防ぐのである。

 人間に対処療法を施すのではなく、職場全体をシステムとして組織だて事故を防ぐという考え方が、今後ますます重要になるだろう。(出典:安全工学 vol52 No2(2013年))

 

 「ヒューマンエラーは、事故の通過点に過ぎず、事故の原因として扱ってはならない」との見解に注目したいです。モノづくりは高度化、複雑化しています。もはや失敗の原因を「人」に求める時代ではないということです。

 「システム」や「仕組み」に焦点を当てよと中田氏は主張しています。ですから、ヒューマンエラーを解決したかったら、仕事のやり方の「型」、つまり「仕組み」を持たなければなりません。

 

 「型」がなけば、変えようにも変える対象がないことになるわけで、いわゆる型破りというブレークも起こしようがないわけです。

 「システム」や「仕組み」に焦点を当てれば、議論の対象はそちらへ移りますから、失敗しても「個人」が、「人」が責められることはありません。そうした現場なら、自分を守ることは不要です。

 自由闊達な議論ができ、組織で仕事をする経験を積み上げられます。

 

 

 

 

 

3.本気の標準書は会社を変える

 では、製造現場での仕組みとは何か?弊社の考える製造現場での仕組みとは次のようなものです。

1)組織で、チームで仕事ができる

2)フィードバックがある

3)フォローと評価がある

 これらがあれば、試行錯誤しながら挑戦して成長しようと考える思考回路が整い、人材の拡大再生産もできます。

 

 そして、こうした仕事のやり方をやろうとするなら、欠かせないものがあります。仕事の手順を共有することです。ひとりひとりが勝手に、自分がやり易い仕事のやり方をやっていては、仕組みはできません。

 

 

 

 ここで、仕組み構築の具体例として味の素川崎事業所での取り組みを参考にします。

 味の素川崎事業所では、工場での在宅勤務に挑戦をしました。スマホとPCを使えば現場だって在宅勤務ができるはずだと工場長が言い出したのきっかけとのこと。

 製造現場を持っている工場で在宅勤務ができるわけがないとの思い込みを払拭するには、工場長の強力なリーダーシップがあったようです。

 

 もともと工場の残業時間を削減することが目的で着手した取り組みですが、現時点で在宅勤務を利用するのは工場勤務の4人に1人となっています。

 同社では、まだまだ満足できる状態ではないと考えていますが、現場を持ちながら在宅勤務を実践する従業員が生まれたのは事実です。

 川崎事業所では、工場長の号令一下、何を実行したのか?何か特別なことを実践したのでしょうか?

 興味があるところです。

1)無駄な業務の洗い出し

2)膨大な作業の手順の標準化とマニュアル化

 

 柱はこの2つ、一般的な現場活動となんら変わりません。前者で本当に必要な仕事を明らかにし、後者の取り組みで、その仕事をベテランだけではなく、全員ができるようにしたわけです。

 ひとりひとりが勝手に、自分がやり易い仕事のやり方をやっていては、在宅勤務体制はできなかったであろうことは容易に想像できます。互いの仕事を補完しあうために必要なのは手順の共有ですから当然です。

 そこへITを組み合わせて、工場での在宅勤務を可能にしました。

 仕組化とは標準化とも言い換えられるのです。「本気の標準書」は会社を変えます。

(出典:日本経済新聞 電子版 2019年5月26日)

 

 

 

 

 

4.当時を振り返る

 冒頭の事例で挙げた現場では、標準書が機能していませんでした(存在していたが、形骸化していた)。フィードバックやフォローと評価の機会がなかったので、チームで仕事のやり方をブラシュアップさせることはなかったようです。

 仕事はそれぞれの担当がやるものだ、したがって「チーム力」より「個人力」を重視するような雰囲気でした。

 ただし、社長の当たり前とベテランの当たり前、そして現場ひとりひとりの当たり前には差異があります。その差異を解消する道具が標準書、マニュアルです。

 

 数年前を振り返ると、先の現場でも「本気の標準書」を機能させていれば、品質クレームが再発したからと言って、”人”を原因にすることはなかったと感じます。

 標準書とマニュアルを機能させることです。

 

 

 

 

 

5.標準書を機能させる

 現在、国内の中小製造企業は24~25万社あるといわれていますが、この中小製造業はすでに縮小モードにあります。1日におおよそ3社ずつ、中小製造企業は減っているのです。(2017年中小企業白書)

 技術は進化し市場は変化しています。これまでの仕事のやり方にこだわり、やり方を変えることを避けているとおいてけぼりを食い、生き残れないのは火を見るより明らか。

 

 問題意識をもって挑戦し、社長と一緒になって試行錯誤しながらつくるのが標準書やマニュアルです。

 自律性のある仕事の成果物なので、現場の問題は誰かが解決してくれるものだという思考回路しかない現場では、標準書やマニュアルはつくれませんし、仮にできたとしても形骸化します。これは多くの現場で見てきたことです。

 

 現場に自律性を発揮させるには、まず、全身を覆っている「鎧」を脱がせる必要があります。失敗の原因を追求するとき、「人」を対象にするのではなく、「仕組み」を対象にすることです。

 したがって仕事の「型」が必要となってきます。それが標準書やマニュアルです。そして、味の素の事例のように本気の標準書には会社を変える力があるのです。

 

 標準書やマニュアルをデジタル化して共有することが当然の時代がやってきます。その一方、標準化やマニュアル化の原動力はひとりひとりの頭の中にある知恵と工夫であることも忘れてはなりません。

 仕組みと標準書は自律性につながるのです。

 標準書を機能させましょう。

 失敗の原因を人に求めてはいけません。

 ヒューマンエラーは、事故の通過点に過ぎず、事故の原因として扱ってはならないのです。エラーの原因は標準書にある、と考えます。

 

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