欧州の自動車メーカーが、積極的に部品の樹脂化を進めている状況を受けて日経新聞の記事では、「日本車がいつまでも鉄の檻にとらわれていたら、世界の素材を巡る攻防の中でガラパゴス化に陥る恐れもある。」との懸念を提示しています。情報通信分野でのプラットフォームビジネスで、欧米の後塵を拝しがちな日本ですから、自動車業界も同様、欧米自動車メーカーに主導権を奪われるのでは・・・。ただ、記事で指摘しているように「国内自動車メーカーが鉄にこだわる」=「軽量化の取り組みが遅れる」という状況には、必ずしもならないと感じています。理由は、次の2つの事実です。1)自動車部品の軽量化はあくまで燃費向上の手段のひとつであり、燃費向上はシステムとして達成される。2)自動車の原価低減活動(VA、VE)は1円単位で行われている。前者の事例でいえば、下記です。トヨタの次世代プラットフォームTNGA「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」富士重工業の次世代プラットフォームSUBARU GLOBAL PLATFORM「スバルグローバルプラットフォーム」自動車業界では、こうした開発方針を軸に新製品を開発する流れは強まると考えられます。トヨタのTNGAでは下記を狙っています。・部品の共通化を進めたことで、20%以上の開発リソースを削減・パワートレーン全体で燃費が25%以上向上・動力性能が15%以上向上・ハイブリッドシステムの燃費が15%以上向上・ボディ剛性が30%~65%向上自動車は性能のみならず、当然にコスト面や品質面での考慮も最大限に求められます。したがって、全体最適化を目指すならば開発方針が欠かせません。当然、開発納期の短縮も求められます。こうした中で、軽量化の材料置換は選択肢のひとつにしかすぎないのです。軽量化の重要度は低くはありません。ただし、全体最適化の視点から考えて「鉄は遅れている」という判断にはならないのです。自動車の足回り部品を開発する業務を担当していたときの話です。自動車メーカーの設定担当者とやりとりをしながら強く感じたことがあります。新車開発時、原価企画、原価管理がしっかりなされているなということです。自動車の販売価格は、売れ行きに大きく影響を及ぼすと思われます。ですから、VE活動を積極的に展開する等の取り組みが欠かせません。従来の価格帯を維持しつつ、新技術を導入するためです。部品開発では、効果が無い限りは、当然に目標価格を引き上げることはできません。イノベーションレベルの技術開発や製品開発であっても、そうです。効果とコストとのバランスによって採用の可否が決まります。コストが上がる以上に価値が向上すれば採用です。そうでなければ、どれほどに供給側が技術的な点を強調してもダメです。「コストがですね・・・・・」となります。数十万点という部品の組み合わせで構成されている製品です。容易な値上げを認めていたら高コスト車種になってしまいます。自動車開発の全体最適の重要性を実感しました。1円単位の原価管理がなされている状況を目の当たりにして感じたことです。