技術開発ではトップが先頭に立って現場を引っ張ていますか?
1.鋳造加工
鋳造の歴史は古いです。
メソポタミアで紀元前4,000年頃に始まったといわれています。
溶かした銅を型へ鋳込んで、容器を造っていました。
古くから存在する加工方法です。
今でもあらゆる産業で活用されています。
技術革命は、情報通信技術(ICT)を始め、あらゆる分野で起きています。
人工知能(AI)が碁の勝負で人間に勝ったり、SF小説などを書いたりする時代です。
古い技術は最新技術に代替えされるのが宿命ですが、鋳造技術は、今でも進化し続けています。
加工の本質が「液体」→「固体」への相変態を利用したものです。
この特徴を生かして他の加工法ではできない付加価値を原材料に加えることができます。
2.所沢軽合金株式会社のグラファイト型鋳造
埼玉県所沢市に本社がある所沢軽合金株式会社は、鋳造技術を柱にした部品メーカーです。
従業員100名前後。
四輪用部品、二輪用部品等を製造しています。
その所沢軽合金では、新たな材質の型を使った鋳造方法を開発しました。
型の材質はグラファイト(黒鉛)です。
(出典:日経ものづくり2016年2月号)
「金型鋳造並みに高精度でありながら、砂型鋳造よりも低コストで部品を造ってほしい。」
こうした顧客からの要望がきっかけとなって、グラファイト型に着目しました。
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砂 型 |
金 型 |
グラファイト型 |
寸法精度 |
±0.3~0.5mm |
±0.2mm |
±0.1mm |
表面粗さ Rz |
50μm |
20μm以上 |
10~20μm |
グラファイト型では上記の製品が得られます。
寸法精度や表面粗さが金型鋳造並みであることが分かります。
また、金型鋳造や砂型鋳造よりも安価です。
「金型鋳造との比較」
グラファイトは金型材料と比べると、快削性に優れた材料です。
その結果、加工時間が1/3~1/2に短縮できます。
また、グラファイトは、そもそも潤滑性に優れています。
したがって、金型鋳造で大切な役割を果たす塗型剤が不要です。
これらにより、トータルコストで1/3以下です。
「砂型鋳造との比較」
砂型に必要な必要な木型費用と比べて、グラファイトの費用は1.5~2倍になります。
一方で砂型鋳造の工程とくらべて有利な点があります。
砂型では、鋳造の度に砂型を壊して、製品を取り出す手間があります。
グラファイト型では、それが不要です。
これは金型鋳造のメリットと同じです。
また、組み合わせる、はめ込む、と言った機能を鋳肌面に求めた時、精度が要求されます。
砂型では、機械加工が必要です
鋳肌面の表面が荒く、寸法精度も低いからです。
一方、精度の高いグラファイト型では機械加工は不要となります。
グラファイト型の製法上のメリットを組み合わせれば、コスト面でも有利です。
25個程度以上の加工ならば、グラファイト型鋳造の方が砂型より10%程コストが低くなります。
3.技術開発には経営者の熱い想いが欠かせない
この技術開発が成功したのは、
グラファイトの性質を把握しつつ、
鋳造可能な形状に関するノウハウを試行錯誤しながら積み上げたからです。
型材としてグラファイトを使うアイデアは、30年前からありました。
試みていた国内企業もあったようです。
しかし、材料の強度不足問題を解決できず、実用に至った企業はありませんでした。
そうした中で所沢軽合金は開発を続け、実用化の道を探り当てたのです。
当然ですが、独自技術にはお手本はありません。
ですから、技術開発で重要になるのは技術の本質を見極めることです。
今、挑戦しようとしている技術開発のキモは何かということを把握することです。
やみくもにトライアルして成功するほど技術開発は甘いモノではありません。
ゴールがイノベーションレベルであれば、なおさらです。
同社は、競合先があきらめている中で開発を継続しました。
・鋳造加工の技術の本質をしっかり見極める。
・技術動向を常にウォッチする。
この2つを同社しっかりやっていたと推察できます。
それと、経営者の熱い想いがあったからです。
必ずやり遂げて、業界の先頭に立つんだというモノづくりにかけた社長の想いです。
モノづくりの業界では、同業者があきらめる中でやり遂げたという事例を多く耳にします。
青色発光ダイオードでノーベル物理学賞を受賞された赤﨑勇氏もお話しされていました。
窒化ガリウムでの研究は困難な問題が山積、次々と辞める人が相次いだそうです。
「たとえ最後の一人になっても研究をやめようとは思わなかった。
青色発光に魅せられ、実現の可能性を信じて疑わなかったからです。」
リーダーの熱い想い、ゆるぎない信念、強い意志が技術開発を成功に導くために欠かせません。
なにせ時間がかかります。
上手くいかなければ、現場は不安になります。
そんなとき、現場を奮い立たせるのがトップの重要な役割です。
4.技術開発でお金を稼ぐストーリーを描く
中小モノづくり企業は大手に比較して小回りが利きます。
柔軟性があって機動力にも富みます。
こうした良さを生かしてモノづくり工場としての独自技術を磨き上げるのです。
そして、それを生かしてお金を稼ぎます。
儲かる工場経営のグランドデザインを設計するのです。
製造業ならではのビジネスモデルを構築します。
技術開発で新たな付加価値を創出します。
生み出された付加価値と顧客へ届ける利便性「コト」を結びつけます
顧客が選びたくなる製品やサービスに仕上げるのです。
顧客へ届ける利便性「コト」に着目すれば、お金を稼げる技術開発になります。
ニーズとシーズのバランスが肝要です。
所沢軽合金では「ダイレクトキャスト」と称してアピールしています。
同社のHPで、you tube動画を通じてしっかりと紹介しています。
HPやyou tube動画にもガッチリ営業活動させているのです。
さて、この「ダイレクトキャスト」は次の2つを両立させています。
・金型鋳造の高い寸法精度
・砂型鋳造よりも安価な価格
これにより受注を増やしています。
ただし、注意点もあります。
従来商品の代替のみでは売上減となることです。
需要を大いに喚起することが欠かせません。
技術開発では、需要を拡大させることも、たいせつであるということです。
製販一体となった取り組みが求められます。
経営者の熱い想いによって、工場と営業を一体化するのです。
技術開発は工場だけの仕事ではありません。
製販一体となった技術開発の仕組みを作りませんか?
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